ブラックメンソール
マッチングアプリで出会ったその人は、
大きな体に不釣り合いな小さなたばこの箱を持っていた。
駅の高架下にあるがやがやした居酒屋で数時間楽しく話した後、彼は二件目に行こうといった。
「お会計で」「出すよ、いくら?」「いいよ、かっこつけさせてくれ」「あ、うん。ごちそうさま」
二件目じゃなくて家がいい。と言いたかった。
ここは?ここは?と言われて適当に難癖をつけ続けた結果、
コンビニで買って家で飲もうと提案してくれた。
なかなか察しがいい奴じゃないか。
いつの間にか握っていたお互いの手が熱くなった気がした。
コンビニで適当にお酒を選んだあと、慣れた様子で
「32番ひとつ」とたばこを追加する。
家について同じたばこを吸って、たわいもない話をして、ほろ酔いの気分でベットに倒れた。
気づいたら朝になっていた。朝一のたばこを蒸かす彼の副流煙が昨夜のできごとを思い出させる。
一週間後、私はまた彼に連絡を取っていた。
私は先日のお礼に同じ銘柄のたばこを買った。
ネットで緑色のパッケージのたばこを探して記憶を頼りに注文した。
「マルボロのブラックメンソール一つください」
店員さんが差し出したパッケージとあの日見た緑色がぴったり同じだった。
彼氏でもない、好きでもない男のたばこの銘柄をコンビニで買う、私ってかわいい。
手にしたたばこは予想よりも大きかった。
今夜も彼に会いに行く。
「32番をひとつください」