1.光の王国の闇8
2022.2.12加筆
「アンに酷なことを言っているのは分かっている。時間が欲しいだろう。だけどあまり待ってもいられない。分かって欲しい」
母が不在な今、皇太后が次の一手を打たないわけはないのだ。
自分の血筋を王にする為なら、何でもするつもりだろう。
逃げ出すのは簡単だ。
だけど私を守るために必死に盾となってくれた、叔父様は?
簡単に投げ出せることなんてできない。
父が国王である以上、王位継承権の1位は私だ。
皇太后が諦めてくれるはずなんてない。
執拗に追いかけてくるだろう。
だとしても、生きることを簡単に諦めるつもりなどない。
いつかは対決することになるだろう。
だけど今の私には、無事に決着がつけれる保証なんてどこにもない。
自らにあるこの力をコントロールできなければ、全てを消し去ってしまう気がした。
そのためには、フィル様の側で修業するのが一番な気も。
そして全てを守りたいんだ。
強欲なことを思ってると思う。
まだ自分に何ができるか分かっていないのだから。
だけど、父も母も妹も、そして逃げ出すことを選択肢に入れてくれている優しいフィル様も、叔父様のようにはさせたくない。
そしてふと、妹の話をしていないな思った。
無事でいて欲しい。
「・・・妹のことをお話しされないのは、エルリーンは無事なのですね」
「ああ。彼女に見てきてもらったのだが、普段と変わりなくしているようだ」
「良かった・・・」
安堵の笑みが溢れる。
それならば、するべきことは1つ。
「フィールズル様のお側で、鍛えさせてもらえませんか?あんなことがあっても逃げ出さないくらい、自分に自信を力をつけたいのです」
守られる立場より、守る立場になりたい。
「ーーー分かった」
フィル様は一瞬複雑な表情をして、笑顔になった。
心配をしてくれてるのがわかると、胸が熱くなった。
大丈夫、私、きっと大丈夫。
アリスランは自らに言い聞かす。
これから先のことを考えねばならない。
ここにいると決めたからには出来るだけ、フィールズの足枷にはなりたくない。
ここの人に迷惑がかからないように。
最善の選択を・・・間違うわけにはいかないのだ。
その為にはやはり・・・。
「私、アリスランのままだとまずいと思うんです。フィールズ様に匿われてると知られれば、皇太后から圧力がかかると思うし」
「・・・ふむ、私は一向に構わんのだが、それで?」
「このまま行方不明になっていたほうが、都合が良いと思うのです」
「それに関しては、私もそう思っていた・・・水の君、頼む」
フィルの一言で、アリスランの長い髪は一瞬にして薄青い色に変化した。
一瞬ですごい。
水の君を見るとニコニコ笑っている。
「アリスランの髪と瞳は、まさに王家のそれだからな。ここにいる間は変えようと思っていたんだ」
王家じゃないようにする・・・。
それならば、もう一手間かけよう。
「フィールズ様、短剣とお借りしても?」
「私のことはフィルでいい。皆がそう呼ぶ。短剣を何に使うつもりだ?」
短剣を受け取り、アリスランは髪を一掴みすると、腰あたりまであった髪を肩までばっさり切った。
「長い髪は貴族の特権のようになっていますから・・・これで王族とは見えないはずです」
「ははは」
フィルは豪快に笑い出す。
「まったく思い切りの良さは、ナリーそっくりだな。しかしそれでは綺麗な髪があまりに醜い。私が切ってやろう」
アリスランから短剣を受け取り、フィルは手際良く髪を切り揃える。
「ありがとうございます」
「名前も、そうだな・・・アファンということにしよう。呼び間違えたとて誤魔化しがきく」
『フィルは手先が器用なのよ』
そう言って水の主は近くの鏡を持ってきて、アリスランに手渡す。
アリスランの手でざんばらに切られていた髪が綺麗に切り揃えられていく。
だが急にフィルの手が止まった。
「これは・・・」
手を伸ばそうとしたのは、アリスランの胸元に光る首飾り。
『それは!』
水の主が慌てて声をかける。
「??」
大声に少し驚いたフィルの手が寸前に止まった。
『大丈夫よ。彼女を守ろうとしているものだから』
それだけ言うと、水の主はくすくす笑い出した。
「そう、なのか・・」
フィルは複雑な表情をしたが、すぐに目線をアリスランの髪の戻した。
この首飾りは一体・・・??
ヴィーン王子の顔を思い出す。
きっと、もう2度と会うことなどないんだろうな。
そう考えると少し寂しく思ってしまうのだった・・・。
この後まだまだ続きますが、更新が少し遅くなります。