1.光の王国の闇4
2022.2.12加筆
風の小国スーテランの治めるこの町は、小さいながらとても豊かな慈愛溢れる土地だった。
家出して1年、各地を放浪しつつ、この町に行き着いた。
仲良くなった酒場のマスターと談笑しながら、酒を飲んでいた時、
「王様のお屋敷が燃えている!!」
酒場に駆け込んできた地元の客が、そう叫んだ。
「何だって!?」
マスターに共に外に出ると、お屋敷方向が赤く燃え上がっている。
「俺ちょっと様子見てくるわ」
「ジンさん!危ないからやめておけ!」
「大丈夫。そんなに酔ってねーし」
マスターに止められるのも聞かずに、俺は走り出す。
「後で様子伝えに戻るわ!」
途中で振り向きそう叫ぶと、人ざかりの出来ている道を避け屋根に飛び上がると、屋根伝いに屋敷のほうに向かう。
このゾクゾクする感覚はなんだ・・・。
得体の知れないこの感じ。
嫌な予感しかしてこねぇな。
屋敷に近づくにつれ、焼け焦げる匂いと血の匂い。
全速力で屋敷の中に飛び込むと、横たわる血まみれの男爵と対峙する得体のしれないもの。
これは・・・。
この世界にいるはずのない、影のような形の獣・・・。
マジかよ・・・。
伝承でしか聞いたことのない魔物。
「おい、お前、なんでここにいる」
ジンは呪文らしきものを唱え、十字をきると魔物が後退りした。
そしてすっと闇の中に消えていく。
逃げたか・・・。
ほっと肩で息をして、虫の息の男爵に駆け寄りひざまづく。
「おい!おっさん!大丈夫かよ!」
一目でもう手遅れと分かるほどの深傷。
体のあちこちが切り裂けれていた。
大量の血が地面に流れ出ている。
「・・・アンを・・・たのむ・・・・」
それだけ告げる力尽きたのか、もう動かなくなった。
「アンって、誰だよ・・・」
言った瞬間突然、一瞬だけ東の空に眩い光の柱が見えた。
なんだ、あれは。
ジンは男爵の亡骸に手を合わせると、東へ向かって走り出した。
再び屋根伝いに走っていると、たくさんの兵士たちを見かける。
一体、何が起こってやがる。
町を抜け走っていると、森の中で繋がれていない馬のを見つけたので1頭を拝借し、そのまま走り出す。
少し開けたところに出ると、兵士の死体が2体見えた。
確実に首筋を切っているところからも、人を殺すことに慣れた人間の仕業だと分かる、
えげつねえな・・・。
そのまま馬を走らせ、川の近くまできた。
暗闇は慣れている。
それにこの血の匂い。
月明かりしかない中でも、倒れる人を見つけた。
近づくと右肩から血を流している。
息はまだあるみたいだ。
懐から薬を取り出すと、肩に塗る。
そこで初めて顔を見る。
って、女かよ。
意識を失っているようだが、よく見ると相当な美人だ。
白磁の肌に、薄金の長い髪。
金髪って王族か?
この国で金髪は王族の証とされている。
それに上を見上げると先程兵士が倒れていた真下辺りだ。
相当高いけどな。
崖の下なのに打撲のしている気配はない。
何者だ、コイツ。
身なりは質素だが、胸元に輝く透明な宝石。
これを売るだけでも良い金になりそうだ。
今日の酒代にようと手を伸ばした途端、
「・・・ん・・・・」
女がうめき声を上げた。
彼女がうっすら双眸を開けると、左目に釘付けになった。
珠金の輝く瞳。
右目は琥珀色だが、左目は珠金だ。
「・・・ヴァラ・・・無事なのね・・よかっ・・・」
また意識を失ったようだ。
ジンは深いため息をつく。
コイツは危険だ。
俺の勘がそう言ってる。
きっと関わってもロクなことはない。
だがここに置いていくことも出来ない。
こんな手負いの美人、どこかに連れ去られたとあっては夢見が悪い。
「ああ、くそっ」
ジンは彼女を抱きかかえると、乗ってきた馬に乗せたのだった・・・。