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1.光の王国の闇2

2022.2.12加筆

現王の誕生日からすぐのこと。

王子たちが相次いで死ぬということが、立て続けにおきる。

元々第一王子は、既にこの世にはいなかったのだが、あと4人の初老の王子たちも次々と倒れていった。

戦地で、病魔に侵されたもの、刺客に襲われたもの・・・。

何か呪われているのでないかと噂が街中に流れた。


そして、とうとうアリスランの祖父にあたる皇帝も病魔に倒れる。

相次ぐ皇子たちの死が影響がなかったわけではない。


父は第五王子だった為、皇帝の座に座るなどと思ってなかった。

たが、思ってもてもみなかったことが現実になったのだ。


父母と共に王宮に引っ越ししたアリスランだが、その直後から母の体調が良くない時が続いた。 

ペットから起き上がれない日も多くなっていっている。


「アン、明日パーシィ兄様のところへ行ってらっしゃい」

「え!?お母様いいの?!・・・でもお母様が・・・」


「私は大丈夫だから。エルは叔母様のところよ」

妹エルリーンは目を丸くしたが、素直に頷いた。


エルリーンは、私の琥珀の瞳、薄金の髪色とは違い、母親の翡翠の髪と瞳を色濃く受け継いでいる。

顔立ちは王家そのものの美しいものだったが、母親の色彩を受け継いでいるので、稀有な能力である先見の力があるという。

アリスランはウェーブのかかった自らの薄金色の長い髪を見つめる。

私にも翡翠の髪と瞳があれば、エルリーンと共に叔母様の家に行くことになっていたのだろうか。


先見の能力の修行のために、早くから叔母様の家に預けられる話は上がっていたが、なんだか話が急な気がする。


アリスランは唇を噛み締める。

何か王宮で起ころうとしているのだろうか。

母はいつもの優しげない微笑みを浮かべていて、表情からはなにも分からない。

でも肌で感じる不穏な空気。


それは、父の自分達への態度が明らかに変わってしまったからかもしれない。

王宮に来て以来、母の元に来るという話はあまり聞かなくなった。

あんな仲良かった2人が、自分達を愛してくれていた父が。

王という多忙な職務についたから仕方ないといえばそうなるが、寂しくもあった。


「王太后から何か言われたのですか?」

突然の王宮を離れろという提案に不安になり、アリスランは尋ねる。


先代の王の妃、王太后。

自分達にとっては祖母にあたる人だが、愛情を持って接してもらったことなどなかった。

王太后が時おり見せる、自分達に向ける冷たい視線。

この現在の王宮で絶対的権力を持っている王太后に逆らえば、どうなるかは分かっているかのように、臣下たちも自分達に関わろうとはしてこなかった。


さらに母方の実家は男爵であり、政治の場には出てこない。

力強い後ろ盾もなく、私たちは王宮で孤立無縁状態だった。


「そんなことはないわ」

母は笑みを絶やさずに言う。


「でも私たちまでいなくったら、お母様は・・・」

「そんな事、アリスランが気にしなくてもいいのよ・・・パーシィお兄様のお屋敷、好きでしょう?」

「それはそうなんですけど・・・」


稀有な存在の先見の力のはずなのだが、どちらかといえば王宮より冷遇されているように見受けられる。

森の魔女と呼ばれている稀代の先見の目をもつ祖母が以前、王宮に取った態度が原因と言われているが、本当のところはわからない。


アリスランやエルリーンは、実際に母方の祖母には会ったことさえない。

祖父が亡くなってから広大な深い森の奥から出て来なくなったと叔父様から聞いたことがある。


母から提案は有無を言わせない響きがあり、逆らえそうもなかった。


「2人とも、もう行きなさい。私は少し眠るわ・・・」


母はそう言うと瞳を閉じた。


エルリーンを顔を見合わせ、母の部屋を出て行く。


「アン様、自室へ参りましょう」

私付きの侍女ヴァラに促され、エルリーンとも別れた。


母への心配は尽きないが、従うほかなさそうだ。

深い溜息をついて、少ない手荷物を纏め始めた。


******


澄んだ空気。

山や緑が多いせいか、落ち着くここの雰囲気は好きだ。

馬車を5日ほど走らせ、ヴァラと共に母の兄の住むスーテラン男爵のお屋敷にやってきた。


のどかな田舎風景なこの館は、町の人がひっきりなしに訪れてる。

先見の目を持つのは女性のみで、男性というと薬師として生計を立てている。


そして当主である、母の兄パーシィは必要最低限の費用しか頂かない。

儲ける気などさらさらなのだ。

それゆえ同業者から疎まれているのだが、母が王子妃となってからはいくらかはマシになったらしい。


この分だと、叔父様と話が出来るのは当分後のようだ。

家の者に到着だけ伝えると、ヴィラを伴い庭にあるお気に入りの温室に向かった。


温室には様々な薬草として使用されるものが、整然と並んでいる。

「種類が少し増えたような気がするわね」

以前きたときよりも数も増えている気がする。


そして一つの植物の鉢植えの前で足が止まる。


なんだろう、この感じ・・・言いようのない異質さを感じた。

「アン様?」

ヴィラは歩みを止めたアリスランの顔を怪訝そうに見つめる。


「アンもやっぱりそれが気になるかい」

柔らかい笑みを浮かべ、パーシィ叔父様が温室の入り口に立っていた。


「叔父様!」

アリスランは駆け寄り、自分より頭1つ背の高い叔父様を見つめる。

「ん?何だか背が伸びたね・・・ナージャに似てきた」

「そうですか?他の人からは言われたことないけど・・・」

「お転婆なナージャを見たことがある人は限られてるからね」

「もう!叔父様!」


ハハッと笑い、先程の植物の前で足を止める。

「正直出処の分からない者を置くのは、抵抗があったんだけどね」

「出処がわからない?」

「数日前にね、家の門の前に置かれてたんだ」

「そうなのですね・・・」


「どの書物にも載ってなくてね、成長してくれば見慣れたものになるのか、はたまた希少な植物なのか・・・」

そういうとおじさまは目を輝かせる。

「好奇心には勝てなかったということですね」

「はっきりという物言いは、僕は大好きだよ、アン」

そのあとぼそっと『王宮に染まってなくて安心した』


実際王宮の者とあまり接点を持っていなかったので、あまり実感はなかったが・・・。


「旦那様!お早くお帰りなって下さい!先生はまだかまだかと、町の人たちが押し寄せてきてますよ!」

侍女長が迎えにくると、叔父様はゆっくりしておいてと言い残し、温室を去って行った。


それきりその植物のことは忘れてしまっていた。


あの日が来るまでは・・・。












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