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1.光の王国の闇1

2022.2.12加筆

それから数年後。


アリスランは、父と母と共に初めて王宮での舞踏会へ来ていた。

2人とも忙しそうに、変わる変わるくる客人への挨拶をしている。


綺麗に着飾ったドレスを見に纏い、まだ幼い妹の手を繋ぎながら辺りをキョロキョロ見回す。


今日は王の誕生日ということで、かなり色々な方々の姿を目にする。

普段は離宮に住んでいるアリスランたちも、こうやって招待客をもてなすようにと、王命を受けていた。

いつもなら父と母だけなのだが、今回は幼いアリスランたち姉妹も共にということで、妹の手を引いてアリスランは父と母の後ろに立っていた。


大人たちに挨拶をし、一息つく。

それにしても住んでいる離宮と違い、王宮は全てが豪華だ。


アリスランの父母はかなり教育熱心で、二人の姉妹にもかなり高度な教育を施している。

こういった場でも恥をかかない程度のマナーは身についている。


だけど、こんなに人が多いのは初めてだったので、アリスランは好奇心が抑えきれない。


澄ましているつもりだか、ついついキョロキョロあたりを見回してしまう。



だけど・・・。

ああ、窮屈だわ。

周りは綺麗に着飾った大人たちばかり。

上辺だけの言葉を聞いていても、退屈でたまらなかった。


何か面白いことはないかしら。

琥珀色の双眸を揺らし、大人たちの足元を見回している。


そんな時、1人の少年と目があった。


褐色の肌に蘇芳色の瞳。

キラキラとした銀色の髪をした美少年は、目があったアリスランに屈託のない笑みを浮かべ会釈をすると、ふっと目を離す。


自分達と同じような年代の人が珍しく、アリスランは目で追う。


もう少し背が高いよく似た容姿の少年の隣で微笑み続けていた少年は会釈をすると、アリスランたちの方へやってきた。


「ヴィーン王子。大きくなられましたな」

父が親しげに声をかける。


ヴィーン王子・・・火の国マスリングズの第二王子なのね。

アリスランでも知識として知ってる名前だ。


「ロイ殿下もお変わりなく。この子たちが先日お話しされていたご息女ですか?」


自分と同年代とは思えないほど、しっかりとした口調だった。


なんだか馬鹿にされてる気がする・・・。

あくまでの気になっただけなのだが、少年の瞳が好奇心で自分を見ているのが気に食わない。


「アリスランと、エルリーンです」


父がこちらを振り向きロイ王子に告げたので、アリスランは負けじとドレスの裾を持ち上げ会釈する。

幼い妹は、私の方見て真似をしてヴィーン王子に会釈した。


するとヴィーンは、まさに王子の鏡というべき笑みを浮かべてこちらを見ている。


あれが噂の天使の微笑みね・・・。

社交界デビュー前のアリスランですら、聞いたことのある名前と笑み。

天使の笑みと称され、王宮から遠く離れた宮殿住まいのアリスランでさえも聞いたことある人物だ。


間近で見るとキラキラ感が半端ないが、なんだが目の奥が笑ってる感じがしないのは気のせい?


「ロイ殿下、少しご息女と話しても?」

「勿論構いませんよ。大人たちばかりで気疲れするでしょう」

父は満面の笑みで、後方にいる私たちに目を向ける。


えっ!私は別に話したいと思わないのだけど!


アリスランは天使の微笑みが近づいてきて、思わず後退りする。


「アリスラン、エルリーン、控え室へ参りましょう」

察した母ナリージャに手を引かれ、一番近くの控え室にヴィーン王子共々入った。


「王子、お茶と飛びっきりのお菓子を用意しますね」

ナリージャは飛び切りの笑顔で微笑むと、エルリーンと侍女たちを連れ部屋をあとにする。


控え室には、ソファに腰掛けている天使の微笑み王子とアリスラーンだけとなった。


相変わらずニコニコ微笑んではいるけど、なんだか得体の知れないもののような気がしてアリスラーンは眉間に皺がよってくる。

父や母のように、優しい愛情が見え隠れするような笑みには見えないのだ。

そんなことを考えていると、知らずと眉間に力が入っていた。


ヴィーンはアリスランをじっと見つめていたが、途端に破顔する。


え、何!?

アリスラーンは何か失礼なことをしたのではないかと、びくっとする。

相手は隣国の王子だ。

何かあったら父の顔に泥を塗ることになる。

まだ幼い私でも分かることだ。


「僕の笑顔を見て、しかめっ面する人、あまりいないのだけどな」

ひとしきり笑った後で、ヴィーンはそう言う。

急に彼を取り巻く空気が柔らかくなった気がした。

少年の微笑みに、アリスランは自然と顔が綻ぶ。


その笑顔を見てふと、見たことがあるような気がしてきた。

記憶を探ってみても、自分の知っている人物と重ならない。


彼はもっと病弱だったはず・・・。


目の前のヴィーン王子はとても病弱には見えなかった。

彼と似てるのは、髪色と瞳の色だけ。

気のせいよね?


そして思ったことを口にした。

「王子は、今の笑顔のほうが素敵だと思います」


ヴィーンは大きな蘇芳色の瞳を、さらに大きくしてアリスランを見つめている。


私変なこと言ったかしら・・・。


触れてはいけないところだったのかもしれない。

慌ててアリスランは謝ろうと思った。


「王子!ごめんなさい!わたしーーーー」


言葉を言いかけたけど、近づいてきてヴィーンにアリスランは言葉を飲む。

だけど王子が柔らかく笑ったまま、アリスランにネックレスをかけた。


「えっ?!」

「出会いの記念に」


アリスランは胸元に輝くネックレスを見る。

綺麗な水晶のような透明な宝石のついたシンプルな小さなネックレスだった。

装飾は華美ではないが、王子の贈り物に安価なものはありえないだろう。


「アンが持っていて。肌身離さずに」


急に愛称で呼ぶ?!

アリスラーンは驚きの表情を浮かべて、ヴィーンを見つめる。


今まで会ったことはない・・・はず。

なのに、こんなに親しげにプレゼントなんて渡す?

この人は物語によく出てくるような、『女たらし』というやつなのか?


ぐるぐる、アリスランの中で疑念が浮かんでは消えていく。


対してヴィーンはニコニコ笑顔を崩さない。


こちらの考えていることを読まれたように、ヴィーンは口を開いた。


「僕のことはヴィーで良いよ。何かあったら僕を頼って・・・あ、後大人たちにはこの事内緒ね」


内緒と言われても、いきなりこんな高価そうなものはいただけない。


「いきなりこんなもの、頂けません!王子!」

アリスランが立ち上がり叫んだ瞬間、扉開きナリージャがお菓子とお茶を持ってやってきた。


「私の手作りのお菓子ですの。王子の口に合えばいいのだけど・・・」

ナリージャはおっとりとした笑みを浮かべて、テーブルの上に配膳していく。


「ではいただきますね」

再び天使の微笑みを浮かべて、ヴィーンはお菓子を頬張っていく。


何がなんだか、わからないわよ・・・。

アリスラーンは再び、眉間に皺を寄せる。


「あら、アンの好きなお菓子なのに、食べないの?」

母が心配そうな顔で覗き込む。

見れば、私の大好きなお菓子だ。


「い、いただきます!」

早く食べないと全部食べ尽くされそうだ。

お菓子の誘惑に負けて、目の前のお菓子を口に入れていったのだった・・・。



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