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1.光の王国の闇11

2022.2.13加筆

夜。

何とも静かな夜だと思った。

不気味なほどに。


何となく寝苦しくて、アンは寝台から体を起こした。

眠りには落ちるのだが、少しすると目が覚めてしまう。

今晩はそんな日だった。


アンは立ち上がり、窓辺に立った。

2階の窓から見ても、月明かりが妙に明るい。


ふと下に目をやると、夜番の兵士たちが忙しなく動いているのが見えた。


何かあったのかな。

胸騒ぎがした。

きっと良くないことが起きている。

アファンは身支度を整え、部屋から出た。


その途端、背中に悪寒が走った。

背筋がぞくぞくする。


嫌な感覚が身体を貫くが、歩みを止めるわけにはいかない気がした。

その中心部へ、歩みを進める。


この感覚に覚えがある。

叔父様の屋敷で感じたあの異形の者。


この世界にはいないはずの存在。

叔父様の姿を思い出させる。

傷だらけの叔父様。


自分達が去った後、ジンから聞いた光景・・・。


もう誰も殺させない。

叔父さんの二の舞に、誰もさせるつもりはない。


中庭に出ると、剣を抜いた。

手が震えてるのが分かる。

でもあの頃の私じゃない。

ただ守られるだけだった、無力な私。


でもフィル様の元で随分逞しくなったと思う。

そして何より覚悟も出来た。



近い・・・!

この近くに気配を感じる。


「アン!」

メイシャンの声がして、背後から走り寄ってきた。


「何、この異様な気配」

「分からない・・・」


気配を感じてはいるけど、まだ姿は目視できていなかった。


「うわあああ!!」

悲鳴にも似た声。


咄嗟にアンは駆け出していた。


そして目の前に、ゆらりと揺れる影。

先程叫んだ男は地面に横たわっている。

その男を、異形な者は自らの大きな爪で切り裂こうとしていた!


アンは駆けながら呪文を唱えた。

フィル姉から、万が一の時に備えて教え込まれた呪文。

ほんの少しだけ自分の力を剣に纏い、水の精霊の力を借りて覆い隠すと、剣は水を纏いながら影を斬る!


『ぎゃやああああ』

声ともならない断末魔。


影はゆらりと揺れると、消滅する。


「大丈夫?!」

メイが兵士の男を立ち上がらせる。

腕が火傷のようになっていた。


見たことのないような傷だ。

「これは・・・?」

「奴らの吐く粘液のようなものにやられました・・・」

兵士は苦痛に顔を歪めている。


さっと薬をメイに手渡す。

まだ気配は完全には消えていない。


「アン、もしかして・・・」

メイの問いに、小さく頷く。


奴らは近くにいる。

しかも複数。

握る剣を緩めるわけにはいかなかった。


フィル姉の読みが正しければ、奴らには普通の剣は意味をもたない。

精霊の力を借り、魔力が封じられた剣でなければ、歯が立たない。


魔物そのものが蔓延っていた時ならそのような剣はいくらでも手に入ったであろう。

だが魔物が姿を消した今の世界では、そのような剣は出回っていない。

無論、この屋敷にも数本しかないはずだ。


「アン!」

フィル姉とジンがこちらに駆けてくる。


兵士の傷とアンの様子を悟ったフィル姉は、自らも剣を抜き、水の力を剣に這わせる。

ジンもその様子に、魔力を自らの双剣に這わせた。


「・・・メイ、此奴らは魔物だ。並の剣では歯が立たない。ニサにこのことを伝え、剣を用意させなさい。傷を負ってるものも屋敷へ」

フィル姉の凛とした声。

「ーーーわかりました」

初めて見た魔物に、メイの声が少し震えているのが感じられた。


覚悟していたこととはいえ、私の震えがおさまらない。

そんな時、肩にふっと温かい手が触れた。

「・・・大丈夫か」

ジンのぶっきらぼうな声。


いつもの彼らしくて、こんな緊張感のある時でも少し肩の力が抜けた気がした。


「・・・ありがとう」

素直に感謝の言葉を口にした。


焦っていても仕方ない。

現状を打破する最善の方法を取るのみなのだ。


すうっと息を吸い込んだ時、暗闇に光る赤い目。

しかも1匹ではない。

十数匹いる気がする。


「・・・フィル姉様」

「ああ、心して挑む」


お互い背中を預けあい、3人で輪になる。

どの方向から狙われても良いように。


私の右手の茂みから、1匹飛びかかってきた!


「はああああっ!!!」

フィル姉の剣が空間を裂き、魔物は消滅する。


間髪入れず左手から、魔物が襲いかかる!


「っく!!」

ジンの双剣が一刀両断に切り裂く。


次々と襲いかかってくる魔物を、3人で斬りつけていく。


何だろう、これって・・・。


次々襲いかかってくる魔物。

こちらの体力を削ごうとしているのか、矢継ぎ早に襲いかかってくる。


・・・狙いは私?


魔物たちは、皆私の切り裂こうと襲いかかってきているように思えた。

何故私なのかは分からない。

だけど、このまま消耗戦になればこちらが不利だ。




「うああああ!フィル様!!」


門の警備をしていた人たちが、屋敷の方に走ってきている。

その後ろには魔物の群れ。


「お前たちの今の剣ではトドメは刺せない!早く屋敷に入るんだ!!」

フィル姉の声に、外にいた兵士たちは屋敷に入ろうと急ぐ。


背後から魔物は、逃げようとする彼らに襲いかかろうとしていた!


駄目!


剣に自分の力が、より強く注がれる!

黄金と水色の光を帯びた剣が、魔物たちめがけて振り下ろされる!


一瞬で消え去る魔物たち。


黄金の光に、魔物たちが怯んだ気がした。


そうなのね、この力。

この力が怖いのね。

だから私を殺そうとやってきたのね。


アンは、剣に水の魔法を纏うのを最小限にする。


彼らの狙いは私、1人。

それなら・・・。

「あなた達の狙いは私でしょ!こっちよ!」

そう叫ぶとそのまま駆け出した。


「「アン!!っ」」


フィル姉とジンの声が聞こえたが、構っていられなかった。


私のせいで、私がここにいるせいで、ここの人達が傷つくのは耐えられない!


屋敷の裏手にある森へと入る。

いつも薬草を摘みに入っている森だ。

暗い夜道でも、多少は道がわかる。


走って、走って、開けた丘まで来ていた。


肩で息をつく。

いきなり魔法を使いすぎたのか、剣を握る手に力が入らない。


振り向くと十数匹の魔物。

とりあえず、引き付けは出来ていると思う。


あとはこの魔物たちを倒すだけ。

だけど、手に身体に、思うように力が入らない。


動け!うごけ!私の身体!

何の為にここに来たの!?

守られるより守りたい。

そう思って頑張ってきたのではないの?!


1匹の魔物がアンの剣を握る手に向かって勢いよく飛びかかってきた。

「あっ!!!」

剣が遠くに飛び、自身の身体も地面に激突した。


身体がすり傷だらけなのと、勢いよく地面に激突した為利き腕に力が入らない。

こんなことで、こんなところで。


魔物たちはゆっくりと、アンとの距離を詰めている。

そう、勝利を確信したように。


その時。

一瞬で、魔物たちの身体が紅蓮の炎に包まれた。


そしてそのままふわっと、自分の身体が宙に浮いた。

えっ?!

いつの間にか誰かに抱きかかえられていた。


あったかい・・・。

「ーーーまったく無茶するねぇ」


この声聞き覚えがある。

月の光に照らされて、銀色の髪がきらきら輝いている。

心配そうに覗き込む蘇芳色の瞳。

褐色の肌の胸元には、自分と同じネックレスが輝いている。


幼い頃の記憶。

こんなところにいるはずのない人なのに。


だけど・・・。

「・・・ヴィーン王子??」

「ヴィーで良いって言ったよね?」

にっこりとても美しく微笑む彼は、幼い頃の面影が残りながらも、とても美しく逞しく成長して、自分を大事そうに抱きかかえていた・・・。



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