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ぼっちでした

 「よし、決まったな、そなたのスキルは『ぼっち』じゃ」


 そこには老人のような口調で話し、自慢げに杖をつく幼女がいた。



 ーー数時間前に遡る



 桜が綺麗な日だった。


 昼休みのチャイムが鳴った。

 

 クラスの人たちは机を動かし、囲うようにグループをつくりご飯を食べ始める。


 あっという間にクラス中に話し声、笑い声が溢れ出す。


 そんな中、たった1人、教室の角でを帰る準備を始める者がいた。


 そう、僕です。


 (まだ高校2年、もう5年くらいたった気がするのに…つらいよほんとに……)


 『綾切 崇斗(あやぎり たかと)』 ぼっちな高校2年生


 (1年ってほんとに365日なのかな…?そもそも1日ってほんとに24時間なのかな…?)


 そんなことをぼんやりと思いながらトイレへ向おうと椅子から立ち上がり、バッグを持った。


 そんなとき、僕の行動を見た男子のうち1人が


 「あれー? そんな死にそうな目でどこ行くの? 自殺ー?死ぬ前に名前だけ交換しよーよー」


 その男子がいたグループの笑い声が一層増す。


 返事をする元気も勇気もなく、一旦止めた足を進め、トイレへ向かった。




 僕は自分の名前が嫌いだ。


『崇』


 崇拝や崇高など、大層な意味で使われているが、これは()()()()の人間が名乗っていい名前に思えてくるからだ。



 

 昼休みにバッグを持って歩く僕を見る視線を感じながらトイレへと辿り着き、個室へと入る。


 (とりあえず少し待たないと……)

 

 トイレに入ってからわずか数分、男子3人が談笑しながら入ってきた。

 バケツのような容器に水を入れているのを音で感じる。

 そして、個室の上へとよじ登り僕の姿を確認する。

 

 その直後、()()()()が降りかかってきた。


 そう、いつものイジメの時間だ。

 思考を止める。

 母親が作ってくれた弁当が濡れないよう体を丸める。


 (お母さん……ごめんなさい……)


 いつものことだ。


 彼らは昼休みになると、どこにいても僕をいじめる。

 人目につくのが嫌でトイレに篭っているが、それでも嫌なものは嫌だ。

 だが『慣れ』というのは怖いもので、1年も水を被り続けていると何も感じなくなる。

 勝手に思考が止まる。


 昼休み終了の10分前にはイジメは終わるので、急いで弁当を食べ、保健室に向かう。

 僕が保健室に入ると、保健室の先生が溜息をつき、


 「またイジメられたの?きつかったら相談していいんだからね」


 相談しても何も変わらない。実際に担任の先生に相談したが、「そうか、先生から注意しておく」とのことだけだった。僕は聞かなかったふりをした。


 「……すみません、ベッド借ります」


 カーテンを閉め、着替える。

 濡れた制服をビニール袋に詰め、予備の制服をバッグから出す。


 「……6限が終わるまでここにいてもいいですか?」

 

 ため息が聞こえ、

 

 「ええ、好きになさい…」


 「……ありがとうございます」


 お言葉に甘え、ベッドに横たわる。

 まだ『日課』を終えていないため帰るわけにはいかないのだ。


 

 ーー目が覚めるといつの間にか放課後になっていた。


 慌てて帰りの支度を始める。


 「やっと起きたのね。もう大丈夫?」

 「……はい、お気遣いありがとうございます」

 ペコリと頭を下げ、保健室を出る。

 重くなる足に鞭を打つように足を進め、演劇部の部室へと向かう。


 「……ごめんなさい…遅くなって……」

 

 そこにはいつもの男子3人がそれぞれアップを済ませたかのような姿で僕を待っていた。


 「おせぇーよ!もっとはよこいや!」

 「よっしゃぁぁ!お待ちかね、腹パンターイムッ!」

 「じゃあおれ1番なー」


 盛り上がる面々、俯く僕だが……


 「よっ!!」

 

 腹に曲線を描いて拳が刺さる。息が止まる。胃の中でナニカが暴れているような感覚。


 「がっ!!うぅ〜!!はぁっ!はぁっ…!やめて…………ください……」


「うっわあ〜、見るだけでもゾワっとするわ…」

 

 「やっぱ殴りがいがあるよこいつ、リアクションがこんなに……あははは!!」


 何が面白いんだろう。

 何が楽しいんだろう。

 こうやってなぶられ続けられる毎日。

 思考を止め、心を殺す毎日。

  

 ーーいつの間にか気を失っていた。

 

 (どのくらい時間経ったんだろう)


 時計を見ると18時を過ぎていた。床に伏している体には力が入らない。教室の鍵がすぐ横に落ちていたため、手に握る。おぼつかない足で立ち上がり、制服を脱ぎ、お腹を確認すると、アザが何箇所もできていた。


 「……帰らなきゃ」


 力の入らない足を少しずつ前に進める。


 (僕、何を間違えたんだろう……)


 (何かしたっけ……)


 心当たりはない。

 凍らせた心で、何かを思う。

 どうすれば終わるんだろう。




 ーー気づくと駅に着いていた。

 



 帰宅中の学生が談笑しながら電車が来るのを待っている。


 (僕とあの人たちの何が違うんだろう)


 半分無意識の状態でホームに立つ。


 私が何かしたのだろうか。いや、何もしていない。ならどうして。どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして。気持ちが溢れ出す。唇が震えずに涙がボロボロと溢れてくる。



ーー電車が目視できるところまで来た。


 

(今飛び込んだらあっさり死ねるんだろうな)




 ふと思った。




 気がつけば足が動いていて、奇妙な浮遊感が全身を支配する。

 


 


ホームから飛び降りていた。


 



ーー衝突まで3秒



(……?あれ…?電車近い…?あ、飛び降りた…?)


(これでやっと終わる…?助かるんだ…だって仕方ないよね、僕の人生全く楽しくないもん…)


 驚愕する駅の人々、声は聞こえないが何かを言っている。


 思考がクリアになっていく。


ーー衝突まで2秒



 (今まで何をしてきたんだろう…)


 何も考えずきままに遊び尽くした小学生


 人に合わせ、愛想笑いだけ上達していた中学生

 

 そしてーー


 心を失った高校生

 

 ()()()()()()()()、この人生、せめてーー


 



ーー衝突まで1秒




 (ーーあ、やり直したいな……)



死ぬ寸前にようやくやりたいことが見つかる。


もしも、人生をやり直すことができるのなら、次こそはーー

 


(ーー友達を作ろう)



 目を閉じる。



 『いいねぇ、その願い』



 ふと声が聞こえ、その直後…

 

 生々しい音とともに、『綾切 崇斗』だった有機物が飛び散った。







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