附録 ヌタラ族の民話
石火の矢とナロ
昔、テコナ湖は海のように巨大な一つの湖だった。
テコナ湖の中心には山があり、双頭の竜が住んでいた。
ある時天から降り注いだ石の矢が湖に刺さり、やがて葦となった。
双頭の竜とヌタラ
湖のほとりに鳥人の女が住んでいた。女の名はヌタラといった。
ヌタラは生まれつき羽が小さく飛べなかった。
その為、ナロを編んだ船でテコナ湖を渡り、魚を捕まえ暮らしていた。
ある時ヌタラは漁の最中船で昼寝をしてしまい、テコナ湖の中心の山まで来てしまった。
ヌタラはそこで腹を減らした双頭の竜と出会う。
腹を減らした竜を不憫に思い、ヌタラは釣った魚を全て竜に渡した。
竜は喜んでそれを食べた。
それからというもの、ヌタラは度々船で山に行っては竜に魚を分けていた。
竜と心を通わすようになったヌタラは、とうとう竜と夫婦になり山に住むようになった。
ヌタラは子を沢山生んだが、いつしか毒の魚に当たって死んでしまう。
双頭の竜は悲しみ叫んだ。
大いなる叫びは天を引き裂き、辺りに火の雨が降った。
竜は叫んだ時に出来たラヌユヌ山の穴に湖を作り、ヌタラの亡骸を沈めて自らも湖の中に沈んだ。
竜とヌタラの眠る湖が今のラヌユヌ湖である。
大鷹とチョニル
昔チョニルという少年がいた。
チョニルはよく眠り、よく夢を見る少年だった。
ある日チョニルは、自分のきょうだいを孵すモ・ナロの日に大鷹がやってくる夢を見た。
モ・ナロの日は明日だった。
その夢について父親のカカニに話すが、ただの夢だと言われた。
しかしそれを聞いた母親のメノリは、顔を青ざめてこっそりとチョニルをモ・ナロに乗せた。
そしてモ・ナロの日になると、ラヌユヌ湖の空が覆われるほどに大きい鷹が舞い降りてきた。
人々は恐怖し絶望したが、モ・ナロに乗り込んでいたチョニルは毒を塗った石矢を弓の弦につがえて放った。
矢は大鷹の胸に刺さり、そのままラヌユヌ湖に沈んでいった。
モ・ナロには毒の石矢を持ったヌタラの民が乗るという習わしの始まりがこれである。
備考
ヌタラの夢占い
ヌタラの雛には不思議な夢を見る者が多く産まれる。
夢の多くは災いに関するもので、時折現実となることもあった。
ヌタラの民は夢を見た子どもの話をよく聞き、村の生活に役立てている。
雛を攫う大鷹
雛を孵す船モ・ナロには、卵を守る大人が必ず二人乗る決まりとなっている。
それは空の彼方から雛を攫う大鷹がやってくるからだ。
ラヌユヌ湖に浮かべられたモ・ナロは鷹に狙われやすく、孵ったばかりの雛が幾度も攫われた事があった。
ヌタラの子どもの躾には、恐ろしい大鷹の話が登場する。