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ナロ船編みの男

ナロ船編みの男


 ⋯⋯ああ。

 俺はメヌと言う。

 ナロ船編みだ。見りゃ分かッだろ。

 何の船かッて?

 来年ラヌユヌ湖に浮かべるモ・ナロだよ。

 モッてのは卵ッて意味だ。俺たちヌタラの卵。

 春に産まれる雛たちを乗せる船だ、気合を入れて作らなくちゃなんねぇ。


 ⋯⋯なんだムヨリのおばばと知り合いか。ああ、今日は街に薬草売りに行ッてんだな。


 悪いがそこの鍋を取ッてくれねェか。ナロ船に使う糊なんだ。────ん、臭ェだろ。蛇の骨から作る糊だかッな。

 本当は他の大きな動物の骨が良いんだろッけどよ、ラヌユヌ山にゃ骨のある動物ッたら蛇が一番大きいんだ。もちろんヌタラを除いてな。

 蛇の骨は、食ッた後のを集める。あんたぁ蛇食ッたことあるかい。⋯⋯そうか、ああ。俺は火で炙ッて食べるのが好きだが、あんたぁどうだい。

 へ? 生のまま?

 あんた何者だよ。────そうか、長いこと旅してッのか。見た目は若ぇが意外と、いやなんでもねェ。


 ん、糊に使う蛇か。

 ラヌユヌ湖の周りによく出るよ。あそこは温かいからな、蛇が食べそうな鼠や鳥もよく集まる。そこを狙うんだ。

 山から先にゃ入ッなよ、あそこはヌタラの聖域だ。

 ラヌユヌ山とラヌユヌ湖はな。ヌタラの民以外が足を踏み入れると呪われッぞ。⋯⋯信じねェだろがよ。

 あ? まあ⋯⋯そりゃなあ。これまでヌタラ以外の奴が入ッた事はあまりねェからな。まあ⋯⋯一度だけあッた。二十年は前だ。

 呪いなんてあッのかて思ッてんだろ。それがあッたんだよ。


 ずッと前にこの村にやッてきた父娘がいたんだが、ラヌユヌ湖に宝が沈んでッとか言い出してな。それを聞いてよ、俺の親父がこッそり案内したんだ。

 月のない夜だッたな。ナロ船の先に火を灯して、ゆッくりラヌユヌ山に向かう親父の船。⋯⋯そうだ、あの日凪いでたテコナ湖が揺れて、俺は寝ていたが、ふと目覚めたんだ。あの揺れでな。で、船の窓から外を見たんだ。間違いなく三人の影があッた。岸の篝火でチラッと見えた。親父が二人をラヌユヌに連れて行ッたんだと思ッたよ。あの父娘の話を人一倍聞いてッたからな。

 他の連中は余所者をラヌユヌに連れて行くのは反対した。だから親父はこッそり二人を山に連れていッたんだ。


 本当に湖の底に宝があッたのかは知らねェ。次の日にゃ父娘は村からいなくなッてたからな。向こうの岸から来た船だけ空ッぽに残してだが。

 親父に聞いても、惚けて「知らねぇ」としか言わなかッたが、しばらく村の中はラヌユヌ湖の竜神の呪いの話でもちきりだッた。

 やッぱり竜神様が祟ッたから、あの父娘は湖に飲み込まれたッてな。


 ああ? 殺されただけかもッて?

 ⋯⋯どうだろうなァ。そうかも知れねェ。ただ、俺たちヌタラは呪いだと思ッたんだ。その父娘が行方不明になッた理由を上手く納得するにゃ、呪いッてのが丁度良かッたんだ。

 ヌタラにとッちゃ、それで十分だッたんだな。


 悪いな、変な話をして。

 若い旅人さんよ。そんな訳だからよ、ラヌユヌ山には入ッなよ。呪われッからな。


 誰にッて勿論、ヌタラにだよ。

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