ヌタラの薬草売り
ヌタラの薬草売り
あんた見ない顔だね。⋯⋯この村を見たいのかい。
ン、あんたと昔会ったことある気がするねえ。⋯⋯気のせいか。あれは確か二十年は前だった。
ここはヌタラの村。竜神様とその妻ヌタラを祖とする竜の末裔だよ。何か用事でもあるのかい? 何もないならあたしゃ行くよッ⋯⋯
なんだい。この村に知り合いいるのかい。
ッハァー、この口調やっぱり疲れッね。近頃よその国からこの村に来る人増えたッけどさ、この口調で愛想よく村を案内すると残念がられッだよ。
ところがサ、さッきみたいに「余所モンはあッち行け!」てェ口ぶりだと、途ッ端に喜ばれッだ。おッかしいよね。これ、ギースの街の、クク・ヌタラ達に対する街の奴ら真似したンだよ?
それにしても、生まれつき持ってた話し方より、余所者が考えるヌタラの話し方の方がしッくり来るなッて、そんな事あるのかね。
この喋り方で随分と街の人にも遠巻きにされてサ。こッちゃあ街の人とも仲良くやりたいし、明るくお喋りしたいッてのに。
でも、コレやってると村や街に人呼べて金が増えッだろ? やッた方が良いんだと思ッだけどね。最近分かッなくなッてきたよ。
ああ、あたしゃムヨリッて名だ。ラヌユヌの薬草を街の薬屋に卸に行く所だよ。おお、寒い寒い。今年は冷えるねぇ。毛のない肌にはこたえッよ。
え? 羽毛?
あたしゃ七つも卵産んだッだよ。すッからかんのはげにもなるって。
ヌタラの村ではね、卵を抱卵する時に自分の羽毛をむしッて包むのさ。だから、卵を産んだ回数が多いほど毛が少ないの。
卵はラヌユヌ湖にナロ船浮かべて卵を乗せて、大事に温めッの。だいたい七十日ぐらいで生まれッよ。
何で? ⋯⋯さぁ、ラヌユヌ湖があッたかいからかねぇ。ええそう。少しだけぬくいのさ、あの湖は。雛を孵すのに丁度いい温度なんだろね。昔からの知恵だと思ッよ、ご先祖様の。
「神秘の民」ねェ。そう言われッてもよく分からないのよ。あたしら普通に暮らしてッだけなのに。ラヌユヌの薬草とかサ、余所者には珍しいお祭りとかサ、確かに変わったものもあるけッども。それッて他の村や町や国でもあるこッじゃないかと思ッだけどね。何でヌタラだけがッて思うと、ちょッと怖くなッのよ。何でかは分からないけど。
そうそうそう!何だか身の丈に合わないシチャヌに乗せらッて、雨のラヌユヌ湖を渡ッてるみたい。
シチャヌッてのはね、それはそれはきれいなナロ船だよ。亡くなッた人を乗せてラヌユヌ湖に流すのさ。ご先祖様の沈むラヌユヌ湖で眠れるようにね。
二十年前に見たヌタラの長のシチャヌは、そりゃ凄かッたよ!何せ村でいッちばん偉い人だかッね。凄い人だッたよ。村のこれからをいッつも考えててサ。まあ息子は街に降りて今は何をしてッだかッて話だけッども。
────話が長くなッちゃッてごめんね。一昨年夫もシチャヌに乗ッてサ、娘も独り立ちしたから寂しいのさ。
あはははは、そりゃ良かッた!
そうだ、あんた村の宿に泊まッていきなよ。観光用じゃなくッて、村で昔から使われッてた方の宿。あたしの船の近くなんだ。蒸した芋もあッし、取ッておきのユムナ酒もあッだから。もう飲めるトシ? あたし人族の歳なんて分かんないからさァ。あ、そうかいそうかい。
ムヨリの名前だしゃ変な顔されないよ、来ておくれよ。
あんたみたいな可愛い子だッたら大歓迎さ。