ギースの街の鳥人
ギースの街の鳥人
よう、旅人さんかい。それとも観光? 観光か、最近多くなったなあ。俺はこの街の酒屋で働いてるモセってもんだ。
そう、この飲み屋の向かいの酒屋。この店にもよく届けてるよ。今俺が飲んでる酒かい? ⋯⋯はは、お察しの通りトゥヌトゥヌ酒だ。トゥヌトゥヌが何かって? そりゃあんた、大きな声じゃ言えねえけどさ。────を元気にするんだよ。トゥヌトゥヌの葉を食べたら百歳のジジイだって元気になるぜ。ははは悪い悪い、初対面の奴に言う事じゃねぇな。
それで、何を観に────⋯⋯ああ、「神秘の民」か。うん。
ん? そうだな。俺の顔な。肌がガサガサしてるだろ。病気じゃねぇぜ、俺の母ちゃんが鳥人なんだ。そ、だからこの派手な羽帽子も地毛ってことよ。鳥人っぽいだろ? ⋯⋯まあ父ちゃんは人間だけどよ。
つまりな、俺もその「神秘の民」とやらの血を受け継いでるんだ。
「神秘の民」ねぇ⋯⋯。ホレ、店先に積まれてる紙を読んでみろよ。神秘の民、ヌタラ族について熱心に解説してあるだろ。
ヌタラ族はテコナ湖周辺に住む鳥人の先住民族で、双頭の竜の末裔なんだと。
奴ら、神秘の力を使えるとかどうとかいう話だけどよ、俺は眉唾ものだと思ってるよ。だってお前、ヌタラの血を引く俺が神秘の力を使えねぇんだからよ。そんな力があればよう、俺もあの子に振り向いて⋯⋯ぐす、へへ、ありがとうよ。
とにかくだ。神秘の民ヌタラ族なんてのはよ、国が適当にでっち上げた嘘っぱちってぇのが街の奴らの意見だ。
言いたかねぇがこの国は、ダンジョンと冒険者ありきの街の寄せ集めが国みたいな形になってんだ。ダンジョンに一番近いこの街、ギースは特に冒険者が多い。ま、冒険者と言えば格好いいけどよ。殆どは盗賊みてぇなならず者だよ。
ただなあ。最近はSランク冒険者もめっきり減ったし、最下層まで到達するパーティーもいねぇ。寂しいもんさ。
だからよ、国としちゃあ、旅人がこの国を訪ねる理由を作んなきゃいけねぇんだ。そう、お偉いさん方はお前みたいに観光でモーリブデン国に来る奴を増やしてぇって事らしいぜ。それで目をつけられたのがあのヌタラの民だ。
ヌタラ族もいい迷惑だよ。勝手に祭り上げられちまってなあ。ヌタラはな、鳥人だが飛べねぇ。元々漁業を生業としてたんだ。
ナロって植物で編んだ船に乗って魚を獲って売って暮らしてるのは知ってるか? 俺の母ちゃんも小さい頃はそうしてたって言ってたな。
俺は学がねぇから上手い言葉が出てこねぇけどよ。神秘の民だァ珍しい民族だァと余所者にじろじろ見られながら生活するのを、国が無理やりさせてるのは違うんじゃねぇかなあと思うんだよな。
なあどう思う、旅人さんよ。
へへ、まあな。ヌタラ族の意見も聞かねぇとな。
でもなあ。街に活気がねえ分魚も売れねぇだろうから、困ってる奴いると思うんだよなぁ。だからどっちが良いのか俺には分からねぇんだよ。
俺? いやいやヌタラ族の集落にゃ行ったことねぇよ。見た目こそヌタラみてぇな鳥人だがよ。
あの集落は船の上が我が家なんだよ。ナロ船の中で生まれてナロ船の中で死んでいく。一生テコナ湖を漂う覚悟じゃねえとヌタラの民とは認められねぇんだと。
俺は勘弁だぜ。船の上なんて乗ったらトゥヌトゥヌ酒なしでもゲロ吐いちまうタチなんだ。
お、そろそろ俺贔屓の歌姫の出番だ。そこのステージ見てみなよ。な? 最高にイカしてる美人ちゃんだよな。
何回もファンレター送ってんだけどよ、これがまた!何にも反応がねぇんだよ。
笑えるだろ? 笑ってくれよ。はは。




