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灰かぶりの姉  作者: 吉野
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実母現る〜航平〜


那月が落ち着くまで。


そのつもりで仕事帰りに国枝家へ寄り、顔を見て少し話をしてから帰るのが最近の日課になった。


大抵は仕事終わりにまっすぐ行くので、那月や多恵子さん—那月のお祖母さんだが、何故かこう呼ぶよう言われている—が晩ご飯を用意してくれている。


毎回申し訳ないので、コンビニでちょっとしたスイーツを買って行ったり、皿洗いをしたりするのだが。


悠二さん—この頃にはお祖父さんもこう呼ぶようになっていた—と晩酌したり、那月と並んで茶碗を洗ったりするのが意外と楽しくて、居心地が良くて、ついつい長居をしてしまう。



勿論、すっかり打ち解けた祖父母と比べ、義妹の方は敵意は隠しているものの、打ち解けたとは程遠い状況だ。

それでも那月もだいぶ落ち着いた様子だし、もうそろそろ大丈夫か…?と思うものの。


「明日は?また来てくれる」


毎晩、帰り際にそう言われると、つい頷いてしまうのは那月が可愛いからだ。

多分…顔には出ていないし、面と向かって口にする事も出来そうにないけれど。

捨てられた子犬のような目に、本当に弱いんだ。




そして葬儀や諸々の手続きの為、しばらく滞在していた悠二さんと多恵子さんも自宅に戻る事になった、その前日。


いつものように帰り支度を始めた俺に、多恵子さんは特大の爆弾を放った。


「航平さん、これからも那月の事よろしくお願いします。

でもね、この家には未成年も居るから、不純異性交遊はくれぐれも謹んでね」



ブホッ!


隣でお茶を飲んでいた那月は、その言葉に見事に噴き出し、綾香ちゃんが慌てて布巾を取りに行く。


「た…多恵子さん⁈」


「おばあちゃん!

何言ってんの、変な事言わないで」


げほげほと噎せながらも抗議する孫に、シレッと多恵子さんは言い返した。



「あら、変な事じゃないわよ、とっても大事な事。

本来なら、これを言うのは麻子さんだった筈だけどあの子も、もう居ないんですから。

一応私が代わりという事で、言わせていただきました。


那月の事も航平さんの事も信じてるけどね。

今はデキ婚とか授かり婚とか言うらしいけど、間違っても順番を違えたりしてはダメよ。


これは綾香ちゃんにも言いたい事だからね。

今はあなた、お付き合いしている人がいるかいないか、わからない。

でもそう人ができた時、親を悲しませるような事をしてはダメよ。

あなた達が辛かったり悲しんだり苦しんだり、そういう状況に陥るのが1番親にとって切ない事なんですからね」



多恵子さんの気持ちが…痛いほど伝わってくる。


早くに亡くなった息子である那月の親父さんと、そして今回亡くなったお嫁さんである那月のお袋さんに代わり、那月を守りたいという親心。

もう伝える事のできないご両親の気持ちを代弁し、娘達に愛されていたんだと伝えてあげたいという思い。


なによりも、俺に那月を託してくれた事に、その信頼に応えたい。



「…はい、お約束します。

順番は必ず守りますし、いつかきちんとお願いに上がります。

綾香ちゃんの気持ちを無視したり、居心地が悪くなるようにもしません」



だから、ちゃんと正座して多恵子さんと、そして悠二さんの目を見て約束をする。


そんな俺を見て、那月も慌てて正座して頭を下げた。


「ありがとう、おばあちゃん。

私も…お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんを悲しませるような事はしない。約束する」


その横で、綾香ちゃんも神妙に頭を下げている。


「那月、綾香ちゃん。

たとえ裏切られたって、悲しくなる事があったとしても、私達はあなた達の味方だからね。

それだけは忘れないで。

何かあったら、ううん、何もなくてもおじいちゃんおばあちゃんはすぐ飛んでくるから」



那月と綾香ちゃんを見守る目はどこまでも優しく、慈しみに溢れていて。

俺の事はどこか試すように、それでいて頼るように見つめてきて。


そんなお2人に安心してもらえるよう、しっかりと頷いた俺を満足そうに見つめ、そして翌朝自宅へ戻ったという。


* * *


それから数日は仕事が忙しかったり、那月の方も授業の遅れを取り戻すべく、大学に遅くまで残っていたりと、会う事が出来なかった。


それでも毎晩、時に終電で帰宅し遅すぎる晩御飯をかき込みながら、時に先輩にからかわれながら連絡を取り合っていたのだけど。


昼から休みの取れた土曜の夕方、簡単に洗濯と掃除を済ませた俺は那月の自宅へ向かい…そこで事件が起こった。




夕飯時のインターフォンに、玄関へ出た那月の困惑した声と、甲高い女性の声。

なにやら押し問答している気配に、心配になり様子を見に行く。


そこには、あまり品の良くない…身もふたもない言い方だが、ケバいおばさんが仁王立ちしていた。


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