インターン〜5日目〜
「1週間、お疲れ様!」
インターンも5日目が終わった金曜日の晩。
急遽誘われた飲み会だったけれど、綾香はおばあちゃんの家に泊まりに行くとの事だったので、参加する事にした。
楽しくワイワイやる雰囲気は嫌いじゃないけど、アルコールは少し苦手だ。
すぐ真っ赤になるし、ちょっとの量でフワフワしてくるし、それを越すと気持ち悪くなってくるし。
なので、ウーロン茶を頼んだ私に向かって
「え?お前日本酒じゃないの?
いかにも飲めそうな感じなのに」
と槙野が言い放った。
——うん、安定の無神経さだわ。
キャラがブレないのには感心するけど、見た目と思い込みで勝手に決めつける奴とは、仲良くなれそうにない。
そもそも、お前呼ばわりされる筋合いもない。
ムッとした私にも、周りの微妙な空気にも気づかず、槙野は日本酒を頼んだ柚ちゃんにも追撃をかます。
「え?日本酒?
待て待て、お前はカシスオレンジとかじゃねえの?
マジか、女のくせに」
——私には日本酒じゃないのかと言った口で、柚ちゃんには女のくせに、とか。
ほんと、何も考えてないというか…見境ないわね。
「槙野、口は災いの元って言葉知ってる?
無神経な事ばっか言ってると、友達なくすよ。
ていうか、女は日本酒飲んじゃいけないの?
ケンカ売ってんなら買ってもあげてもいいけど、とりあえずちょっと黙ってて。
酒が不味くなるから」
向かいに座った柚ちゃんが、代わりにバッサリやってくれる。
初対面で可愛い癒し系だと思った柚ちゃんだけど、中身はかなりの男前だという事がわかってきた。
ちなみに彼女の頼んだのは、冷酒の飲み比べセット。
1番飲めなさそうなんだけどなぁ…柚ちゃん。
のっけから日本酒って事は、相当強いのかな?
運ばれてきたお銚子を、感謝と尊敬の念を込めて注がせてもらう。
それにしても、インターン生5人だけの飲み会、だからテーブルは1つ。
1番奥が槙野で、隣に相原、で柚ちゃん。
こっち側はみんなのカバンを奥にして、真ん中に黒澤で私。
席が離れるよう、わざと対角に座ったのに絡んでくるなんて、やっぱり嫌な奴。
ちなみに技術チームの3人にも声をかけたんだけど、彼らは先輩に誘われているからと別の飲み会に出かけていった。
乾杯はビール!と喚く槙野を無視して、各々好きなドリンクとフードを頼む。
先輩も上司もない、学生同士の無礼講な飲み会。
とはいえ5日前には殆ど初対面だった者同士。
同じ職場で働いているとはいえ、お互いのことをまずよく知らない。
そこまで親しくもない。
今分かっているのは相原と槙野がビール、黒澤がトマト酎ハイ、柚ちゃんが日本酒を飲んでいるという事くらい。
そんな私達の共通の話題といえば、やはりインターンの事。
それぞれの課の先輩の話から、社内の噂話まで一通り話したところで、酔ったのか真っ赤な顔した相原が声を潜めた。
「あと1週間、インターン期間が残っている訳だけど、来週はプレゼンするんだって」
「ぷ、プレゼン?…って何するの?」
声がひっくり返った槙野の問いには答えず
「テーマは週明けに発表。
みんなで準備を進めて、金曜に発表するらしい」
と教えてくれた。
「えー?私聞いてない。
相原はどうしてそんな事知ってるの?」
同じ課の柚ちゃんが不思議そうな顔をする。
「ちゃんと…聞いた訳じゃないんだ。
ただ、ここ数年はそういう傾向があるとか、今年も課長達が集まって話してたとか」
先ほどの発言から一転、歯切れの悪くなる相原。
「ん?相原以外は知らない事なんだよね?
で、相原も担当してくれる岡野さんから、直接聞いた訳ではない?」
コテン、と首を傾げる柚ちゃん。
そういう仕草も似合うし可愛いな。
「んじゃ、誰から聞いたの?」
「…っ!それは、噂で」
もともと赤かった顔がさらに赤くなり、誤魔化すようにビールを一気に飲み干す。
「あ、そんな飲み方したら…」
ジョッキをどん!とテーブルに置き、フラリと立ち上がった相原は、トイレと呟くと席を離れた。
その足元がどこか覚束ないように見え、少し心配になってくる。
「…大丈夫かな?」
「戻ってこなかったら見てくるよ」
隣の黒澤が肩をすくめる。
「お互いのお酒の適量もペースも知らないんだもんね。
でも、相原はちょっと飲み過ぎかも。
お水頼んでおこうか、他に何か頼む人いる?」
「あ、俺、生もう1杯。
あとさ、タバコ吸っていい?」
——げ。槙野、タバコ吸うの。
半個室みたいなこんな空間でタバコ吸われたら、匂いつくし煙いしやだな。
と思ったら。
「女子もいるんだから遠慮しなよ。
どうしても吸いたいんなら外行っといで」
「そうだよ、服が煙臭くなるからやだ。
吸いたいなら悪いけどよそでやって」
黒澤と柚ちゃんが笑顔で、でもきっぱりと言ってくれたおかげで、槙野は渋々ながらも席を外した。
「あ、ありがとう」
「なっちゃんも嫌だったらはっきり言わなきゃ。
特に槙野みたいなヤツは、言わなきゃわかんないよ」
柚ちゃんの忠告に、痛い所を突かれた気がした。
「わ…たし、」
「…ん?」
ちょうどお姉さんが運んできた槙野のビールを取り、グイッと煽る。
「あ、それ…」
黒澤の声を無視して、半分ほど飲み干した。
「私ね、キツく見られがちで。
ほら、クールって言えば聞こえが良いけど、武士とか、能面とか言われた事もあるの」
アルコールの力を借りなければ、こんな事言えそうになかった。
でも…何故だろう、この人達には聞いて欲しかったんだ。
「でね、昔から普通に話してるつもりなのに怖いとか、言い方がキツイとか無愛想とか言われてて。
だから、咄嗟になんて言えば良いのか、どんな言い方なら嫌がられないか、考えちゃう事があるんだ」
今まで、友人達にもこんな話した事なかった。
のに、何でだろう…。
「…そっか」
私の飲みかけのビールを取ると、柚ちゃんが今度は一気に煽った。
「私はさ、なっちゃんと逆なんだ。
背もちっちゃいし童顔だし、自分で言うのも何だけど癒し系とか言われるし。
で、いつもニコニコ黙って話聞いてるってイメージ作られて、なんかみんなのペットみたいな扱いになっちゃってて。
でも高3の時、言いたい事が言えない自分が嫌になってさ…」
柚ちゃんはまっすぐに私を見つめた。
「ど、どうしたの?」
「開き直った。
いやぁ言いたい事スパッと言うの、気持ちいいって気付いちゃったんだよね。
人の顔色や空気読むのは大事かもしれないけど、自分がしんどくなってまでする事じゃないって」
「…怖く、なかったの?」
今まで黙って聞いていた黒澤君の質問に、柚ちゃんはニカっと笑った。
「最初は怖かった。
でも、柚のくせに生意気!って言われて、キレちゃったんだよね、私は口答えも許されないペットか!って」
——あぁ、柚ちゃんカッコいい。
つい人の顔色とか見ちゃう私と違って、ちゃんと打ち破れたんだ、殻を。
「私はさ、なっちゃん好きだよ。
どんな言い方しても、嫌味や意地悪いう子じゃないって思ってる」
「柚ちゃん…」
あぁ、酔いが回っているせいもあるんだろうけど…涙が。
「何だ何だ、国枝泣いてんのか?
鬼の目にもなんとかで、明日雨降るんじゃね?」
……一瞬で引っ込んだ。




