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灰かぶりの姉  作者: 吉野
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私の義妹は可愛い〜那月〜


小学生の時、父が亡くなった。


元々、それほど丈夫な人ではなかった。

とはいえ、季節の変わり目などには体調を崩しがちだったけれど、かといって入院が必要なほど大きな病気をする訳ではなく。

ただ線の細い、いつも静かに微笑んでいる人だった。



けれども私が5年生の年。

最初はちょっとした風邪だと言われていたのに、容体はあっという間に悪化。

初めての入院の末、帰らぬ人となってしまった。

長年父を支えてきた、ある意味父より男らしい母の涙を、その時初めて目にした。



その日から母1人子1人の生活が始まった。


生活の為、フルタイムで働きに出た母に代わり、家事の大半を私が担う事になったのだ。


お手伝いはよくする方だったとはいえ、まだ小学生。

料理のレパートリーといえば、調理実習に毛が生えた程度のもの。

掃除や洗濯のスキルも、及第点ギリギリのレベル。


朝から晩まで仕事の母と、小学生の私がいくら頑張ったところで限界がある。

色々な事が少しずつ回らなくなり、家の中は乱雑になり食生活は偏り、祖父母に頼るのも限度があり。


学校に行けば誰かしら友達がいて、色々話せるし相談もできる。

けれど疲れて帰宅した母に、その日あったたわいもない事をあれこれ話すのは、妙に躊躇われた。


もちろん母は何でも聞いてくれたし、多分これは子供の余計な遠慮だったのかもしれない…。

けれど、“手のかからない良い子”を演じ始めてしまった以上、途中でやめる事が出来なくなってしまった私は、どんどん言いたい事を抱え込んでしまい。


どんどん手際が良くなり安定してきた生活面に対して、精神面では支障をきたし始めた中2の冬、母はとある男性と子供を家に連れてきた。



「新しいお父さんと妹よ」


そう言った母の顔は、久しぶりに安らいでいて、満たされていて。

でも、私の知っている“母”ではなく“女”の顔をした人が、そこにいた。


それは思春期真っ只中の私にとって、密かにショックな出来事だった。


幼い頃から即断即決即実行。

行動力も実行力も優れ、竹を割ったような性格で大口を開けて笑う母が、まるで乙女のように恥じらっているなんて。


その日の母は、まるで知らない女性のようだった。


特に父を亡くしてからは、生活の為なりふり構わぬ所もあったのに。

その日に限って綺麗にメイクし、おしゃれなワンピースを身につけていたからかもしれない。



「…」


黙りこくって見上げた私の目線に合わせ、しゃがみ込んだその男性はとても…優しそうだった。

実際のところ、可愛げのない子供だった私にとても優しくしてくれた。

自分の子と分け隔てなく、可能な限り平等に接してくれたし、本気で親子になろうとしてくれた。



義父が連れていた女の子…綾香は、母との間にできた子ではなかった。

連れ子同士の私と義妹は、だから血の繋がりは全くない。



私が中2で綾香が小3。

突然出来た、年の離れた血の繋がらない妹。

最初は戸惑うばかりだったけれど、綾香は私にとにかく懐いた。


“妹”と言われても、初対面の子にどう接して良いものか正直悩むし、愛想が良い訳でも年下の子の世話が得意な訳でもない。

一緒に居たって、面白い話1つできる訳でもないのに。

そんな私に、とにかく綾香はべったりだった。


そしてある意味、私はそんな綾香に救われたのだった。


“居てもいなくても同じ、大人しく手のかからない子”ではなく、まっすぐに“私”を見てくれた綾香に。

姉と慕い何でも話して、何でも聞いてくれた綾香に。




その当時から、綾香は人目をひく子だった。

TVはあまり見ないのでよくわからないけど、子役?モデル?の子達より可愛いと思う。

身内の欲目かもしれないけど…。


一緒に歩いていると、知らない大人から声をかけられる事も、1度や2度ではない。

最初は不審者かと思い切り撃退したが、スカウトだと名乗りあの手この手で勧誘してくる大人達をあしらうのも慣れたものだ。



こうして綾香の美少女っぷりは近所でも有名となり、いつの頃からか“シンデレラ”と影で呼ばれるようになっていた。


義母と義姉と暮らす可愛いシンデレラ。


生さぬ仲の母が、義妹を虐めた事はない。

綾香がヨレヨレの、同じ服ばかりを着ていた事も、食事も作ってもらえずガリガリに痩せ細った事も、痣ができるくらい叩かれた事も1度もない。

食べ物も着る物も持ち物にも気を遣い、愛情を注ぎ、分け隔てなく育ててきた。


それでも世間というものは、悲劇のヒロインというものが大好きだ。

それがいたいけな美少女なら、なおの事。

最初は子供のつけたあだ名が、憶測と妄想を呼び、さらにはそれが独り歩きしていった。

なんの根拠もないまま。



それでも私達は、歪ながらも家族の体をなしゆっくりと絆を結んでいった。


* * *


「お姉ちゃん、算数教えて」

「お姉ちゃん、この服とこの服どっちがいいと思う?」

「お姉ちゃん、漫画貸して」


ずっと1人っ子だったので、兄弟との距離の取り方なんてわからない私の懐に、あっという間に入ってきた綾香。


麻子さんより那月ちゃんに懐いたね、と苦笑する義父と母。

多少ギクシャクする事はあっても、ずっと…今度こそ穏やかに家族として過ごしていける。

そう、思っていたのに…。




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