討伐に行こう
裕太達はエルシングから徒歩で二時間程度の草原に来ていた、目の前には鬱蒼とした森が広がり明るい陽光が射し込む草原に対を成している様にも見える。
ミリスの手には自由討伐許可書が握られていた、これは先ほどギルドから貰って来たものである、内容は町の周りに生息するモンスターを適当に間引くことで大量発生を防いでいるらしい。
「この辺はゴブリンの巣が近いから待ち伏せしてれば出会す筈よ」
ミリスはそう言うと傍にあった岩に腰を下ろす。
「ゴブリンの巣ってどんな感じなんだ?」
「洞窟とかに巣くってるのよ、まぁゴブリン以外にも様々なモンスターが共生してるから攻めるに攻めれないのよ」
裕太はそんなものなのかと呟き、剣を握り自分のステータスを確認する。
そうすると筋力が18から21に向上していた、恐らくは剣に込められたスキルのおかげだろう。
(確かに筋力が人間の限界越えて向上してるけどケティル見たいに馬鹿見たいに倍近くまで上がる訳では無いんだな、やはり付与されたやつって少し効果が薄れるのか)
「なぁミリス、やっぱ付与されたスキルって少し効果が薄いのか?」
「当たり前、薄まらないなら皆付与された武器を使ってる」
「そりゃそうだよな、でもスキルってどうやって覚えるんだ?」
「私は魔導士だからわからないけど、大抵は戦闘中に勝手に身に付く物で人から教えられる物では無いらしいわ」
「やってたら身に付くってやつか」
そんな話をしていると森の方から雑多な武器を持ったゴブリンの大群が現れる。
ゴブリンが12匹そのうち3匹は巨大な百足の様なモンスターに跨っている、そしてそのゴブリンに追従するように一体の体長三メートル程度の赤黒い肌を持った巨人ーーーオーガがいる。
「中々の大群ね、裕太は私がアシストするから戦線をお願い」
「あんな大群の中にか? 突っ込んで行くのは流石に不味いんじゃ……」
「大丈夫……私が魔法で援護するから、怪我したら回復魔法かけるし」
「わかった……」
裕太は暫くの戸惑いと沈黙の後、ゴブリンの群れからミリスを守るように前に出る。
ゴブリンの群れとの距離が20メートル程度に来たとき、ミリスの手の中に直径30㎝程度の火の玉が形成される。
「大火球」
彼女がそう言うと火の玉はゴブリンの群れに向かい飛んでいく、ゴブリンの群れの先頭に着弾した火球は炎を巻き散らかしながら炸裂する、それと共に爆煙が巻き上がり、ゴブリンの群れを隠す。
暫くして視界が晴れてくると、そこには人一人が入れるくらいのクレーターが地面にぽっかりと開いていた、辺りには爆発に巻き込まれグチャグチャになったゴブリンの死体が4体転がっている。
その事でゴブリン達は動揺しているようで前進を止めていた。
「裕太、暫く彼奴等を食い止めといて次の魔法を使うには少し時間がいる」
「嗚呼、わかった(これが魔法か……と言うかインビンシブル事態に魔法が無かったからな、威力エグいな……て言うかやはりこの世界はインビンシブルTRPGの世界観では無いみたいだ)」
等と裕太は思いつつ一体のゴブリンに斬りかかる、ゴブリンは真っ二つに裂け血が辺りを濡らす。
そうして続けざまにもう一体、二体と切り裂いていく。
「ギャァァア‼」
百足に跨ったゴブリンが背後から飛びかかってくる、裕太は咄嗟の出来事に避けようとするが避けきれず百足に腕を噛まれる。
その勢いでゴブリンも手に持った棍棒で殴りかかってくる、裕太は運良くゴブリンの攻撃を交わすことは出来るが百足は相変わらず噛み付いたままである。
裕太は百足を振り回し、辺りに突き出ていた岩に叩きつける。
百足は緑色の体液を付着させピクピクと痙攣しその後動かなくなった、それと同時に噛みついていた顎の力が緩んだのか裕太の腕から血が溢れでる。
「あぁ、クッソ痛い……、腕がジンジンする」
「ギャァァア‼」
先ほどのゴブリンが再び飛びかかってくる。
裕太はすかさず剣を降り下ろしゴブリンを切り裂く。
「後はゴブリンが5体にあのデカブツだけか……」
裕太は至って冷静であった、勿論裕太がもとよりこの様に冷静な性格だった訳ではない、この世界に来て精神力が人間の最大値である18になってなっているからである。
「餌ガ生意気、仲間殺サレタ……ユルサナイ‼」
仲間のゴブリンを殺され激昂したオーガが裕太に迫りかかってくる。
(流石にあのデカブツと正面から戦える訳ねぇよな、だったら背後に回り込んで……)
その瞬間火球が裕太の背後から飛翔してきてオーガに直撃する。
オーガは炎と衝撃により体が弾け飛ぶ、半生のレア状態の肉片が辺りに降り注ぐ。
(うわぁ……人がどうやって倒そうか考えてたときに魔法を打ち込んで来るやつー、てか威力ヤバイだろ、あれ……)
「回復」
ミリスが回復魔法を唱えると裕太の腕の傷が瞬時に癒えていく。
「早く後5体のゴブリンもやっちゃって……逃がしたら増援を呼んでくるから気をつけて」
ゴブリン達は劣勢とわかったのか森へ逃げようとする。
裕太はそれを追従するように背後から襲いかかる、まず一体、二体、三体と単純作業の様に切り裂いていく。
「ギャァァア‼」
「アァァンァ‼」
残りの二体のゴブリンは逃げられないと悟ったのか同時に飛びかかってくる。
その瞬間裕太の剣が共鳴するような不思議な感覚に襲われる、そしてその感覚に身を任せるまま剣を振ると剣から衝撃波あるいは波動の様なものが放たれてゴブリンを切断する。
(何か今剣から出たよな⁉)
「もしかして今のはスキル?」とミリスが駆け寄ってくる。
「いや、分からない、剣と体が合わさる見たいな感覚に襲われてありのままに振ってみたらあんな風になったんだけど」
「たぶん今のは攻撃系スキルの〈斬撃〉よ、多分……スキルについては詳しくないから、驚いたわ。攻撃系スキルって経験を積まないと中々使えないはずなのよ、もしかして私って何気にすごい人とパーティー組んだの⁉」
「そんなに凄いのか?(俺はミリスの年齢の方が気になるけど)」
「ま、まぁいいわ、私も頑張らないとね、そうしないと裕太にすぐ抜かれるかもだし」
ミリスはそう言うとゴブリン達の死体から懐から出した小刀で耳をそぎおとす。
そぎおとした耳は革製の袋に詰めていく。
「何してるんだ?」
「討伐した証よ、これをギルドに持っていけばお金と換金してくれるの」
「なるほど……」
「にしても裕太は本当に今までスキルが使えなかったの?」
「今まで使う機会に出会すことも無かったしな」
「ふーん、相当安全な場所から来たのね」
ミリスはオーガとゴブリン達の耳を一通り削ぎ終えるとこの場を立ち去ることを裕太に促す。
「片付いたしさっさと移動しましょう、ここはゴブリンの巣が近いし騒ぎを聞き付けて集まってくるかもしれないから、いちいち狩場を変えないと行けないの……」
「そんなものなのか? と言うかゴブリンって強くないし、そこまで脅威じゃ無いんじゃ……」
「ゴブリン自体はね? ゴブリンはさっきのオーガみたいに他のモンスターを引き連れている事があるの、それが脅威なのよ、それに雑魚とはいえ沢山集まると対処しきれないし、と言うわけで移動は必須な……」
その瞬間森から悲鳴にも似た咆哮が響き渡る。
「この鳴き声聞いたことがない。裕太、気をつけて新種のモンスターかも……此方に向かって来てるみたいだし」
裕太は森の方向に剣を構え、ミリスは何時でも魔法を放てる準備をする。
暫くしてその咆哮の正体が姿を現す、体長二メートル程度の犬の様な姿をしたモンスターだ、と言っても犬的な要素は四足歩行のフォルムだけで、色素を持たない病的な肌に緑色の体液を纏っており、吐き気を催す体臭を放っていた。
そして裕太はそのモンスターの事を知っていた、インビンシブルTRPGに登場する異次元の猟犬と言う化物だった。