総族長
裕太達はアシルに連れられて大広間の様な部屋に倒される。
赤い絨毯が引かれ、その先に大理石でできた背もたれの高い椅子に座る六十代程度の豪勢な民族衣装を纏った老婆の姿があった。
「貴方達がアシルの言っていた方々ですね?」
老婆はそう優しげに問いかける。
「はい、彼等がそうです……そしてあの男が邪悪な九龍王を倒した裕太と言う者です」
アシルはそう捕捉する様に総族長に話しかける。
「成る程……あの、平凡そうな顔の彼が」
「余計だよっ‼︎」
裕太は平凡そうな顔と言われ咄嗟に反射的に叫ぶ。
「貴様……総族長に対してなんだその態度は?」
「ぐっ……」
その瞬間、アシルが裕太を睨みつける。
その瞳は何処か冷たく、裕太の背筋に悪寒が走った、片手には剣に手が伸ばされており、今にでも飛びつこうと言う勢いだ。
「いえいえ、構いません……落ち着いてください、アシル」
総族長はそう微笑を浮かべる。
「はっ、わかりました……」
アシルはその老婆に大人しく従い、剣に伸ばされていた手を離す。
「それでは、本題に入る前に、フェミル……」
「は、はい……」
フェミルは名前を呼ばれ一歩前に出る。
「尽力を尽くしたとはいえ、貴方の村を守り切る事が出来ませんでした、どうか無力な我々を許してください……」
「い、いえ……そんな事ありません、本当に良くしてくださいました、助けに来てくださっただけでも結構です……」
「しかし此方も何かしらの形で補填させてください、良いですね?」
「はい、わかりました……」
老婆はそう言い終えると、さて本題に入りましょうかと呟く。
「裕太、貴方は九龍王たるガレイオンすらを圧倒する実力者と聞いています……そこでお願いがあります、奴は、ガレイオン・ファドリアは蘇る事が出来る者です、恐らくは再び我ら氷人族の脅威となるでしょう、そこでお願いがあります。
報酬は払える限り最大の額を払いましょう、傭兵として雇われてくれませんか?」
裕太はその話を聞いて、一瞬は考え込むが答えが出るまでそう時間はかからなかった。
「勿論、雇わせてくれ」
氷府から数十キロ先に離れた崖沿いにガレイオンの姿があった。
「糞‼︎ 糞‼︎ 糞がぁ‼︎」
ガレイオンは何度も崖を殴りつける、殴打により崖にはクレーターの様な穴が形成されていく。
「何故だ‼︎ 何故⁈ たかが人間風情が俺よりも強いんだ⁈ 許せん‼︎、許せんぞぉ‼︎」
ガレイオンはあたりに叫び散らかす、グシャグシャと頭を掻き毟る。
数年ぶりに味わう敗北である、数年前に神聖リユニオン帝国の女騎士に同じ様にボコられた事があるがその時は相手もかなり苦戦を強いられていた、しかし今回はどうだ? 一方的にボロ雑巾の様に傷みつけられただけだった、それがガレイオンのプライドを酷く傷つけた、そして言われもない恐怖心も同時に身を襲う。
「許さない、俺の計画を……糞がっ‼︎」
ガレイオンに残された残機はもはや無い、次に死ねば永久の死である。
「こうなれば、氷府を陥落させるしかねぇ、イチかバチかでやれば……そうすれば目標の魂の数を集められるはずだ……」
「協力してやるぞ……竜人」
「誰だ⁈」
ガレイオンは背後から声をかけられ、振り向く。
そこにいたのは白髪の髪で、ローブを纏った中性的な顔立ちの男だ。
「私はブロマ・リユニオン、神聖帝国の創始者にして人類に救済をもたらす者……」
ブロマと名乗った青年は堂々とした態度でそう名乗る。
「ブロマ……何を言う⁈ あの主神ブロマ・リユニオンだとでも言いたいのか⁈」
ガレイオンはそう嘲笑する、それと同時にイライラが込み上げてくる。
ブロマ・リユニオンと言えば数百年前に異世界から転移してきた最上位の転移者で当時虐げられていた人間を救済し、神聖リユニオン帝国の原型を築いたとされる、神聖帝国の民からすればーーーいや彼らからしたらブロマは神そのものである。
「そんな伝説上の存在な訳ねぇだろ⁈ 第一ブロマは死んだ筈だ⁈ いるわけねーんだよぉ‼︎」
ガレイオンは青年に本気の拳を振り下ろす。
しかし拳はするりと青年の身体を通り抜け貫通する、ガレイオンの腕には何か煙の様な物を貫通したかの様な感覚が伝わってくる。
「な……何⁈」
「そうだ、君の言う通り私は死んだのだ、私は故人だよ……言うならば霊体だ、故にこの姿を長く持たせる事は出来ないので端的に物事を言おう」
「ま、待て‼︎ てことは貴様? ……本当に?」
ブロマはガレイオンの話を無視して本題へと入る。
「お前はあの男を殺したいほど憎い、しかし自分にはあの男を殺す程の力が無い……」
「嗚呼、そうだよ……自分はその力がねぇんだよ‼︎ 悔しいけどなぁ‼︎」
「なら、私がそれだけの力をくれてやろう……ただしあの男を殺せ、それだけだ」
「ま、待て‼︎ 何故貴様は俺に力をくれようとするのだ⁉︎」
簡単な話だ、とブロマは冷酷な瞳をガレイオンに向ける。
「あの裕太と言う男は将来、人類の存続を脅かす存在となる、しかし私は死者だ、生者に手を出すことは出来ない、貴様をその代わりにしただけのこと……」
ブロマはそう言うと、ガレイオンに手をかざす。
「うぐっ……グワァァァァ‼︎」
ガレイオンの身体に手をかざされた瞬間、電撃が走った様な痛みが身体を襲う。
ブロマはその光景を見ながらはるか昔の出来事を思い返していた、七百年前ーーー自身が身を呈してでも守れなかった少女、彼女の顔が今でも鮮明に浮かび上がる。
「そうか私は……あの時のあの日私は……」
そしてブロマの身体は急激に歪みだし、霧となって行く。
「ただ私は、助けたかったのだ……」
ブロマはそう呟くと霧となって跡形もなく消えて無くなった。
残されたガレイオンはやがて痛みが消え、ある異変に気づく。
「な、なんだ……なんなんだ⁉︎ この力は⁉︎」
ガレイオンは内側から溢れる尋常では無いエネルギーを体感する、それは以前の自分の3倍は軽くあるだろう強力な者だ。
「行ける……これだけの力があればいけるぞぉぉ‼︎」
あたりにはガレイオンの笑い声が響き渡る。
「待ってろよ‼︎ 今すぐにでもぶっ殺しに行ってやる……龍神へとなるのは俺なんだ‼︎」
ガレイオンはそう言うと召喚魔法を詠唱する。
そこに現れたのは合計で300以上の魔法陣ーーーそこから一体ずつドラゴンが現れ、辺りを覆い尽くして行く。
「すごい、これがブロマの力なのか‼︎」
今までのガレイオンであれば一度に召喚できるドラゴンの数は30程度だろう、しかし今、軽く余力を持って召喚しても10倍の300を召喚する事ができたのだ。
通常、300体のドラゴンの大群等、並の国家程度なら壊滅、かの神聖帝国ですら無事では済まないだろう、だからこそガレイオンは確信したのだった。
「殺せる‼︎ あの男をぶっ殺せるぅ‼︎」
ガレイオンは高らかに笑うと大鎌を異空間から生成する。
「行くぞぉ‼︎ 先ずは氷府を潰してやる……散々邪魔をしてくれたアシル‼︎ 貴様が最初ダァァァ‼︎」
ガレイオンの憎悪に駆り動かされる、300のドラゴンの大群が氷府に向け進軍を始めた。
自分の小説を一話から読み直して見たんですが、大分誤字が酷いので修正しようと思います。
そのため投稿頻度が暫く落ちるかもしれないのでよろしくお願いします。




