氷府
裕太達はフェミルの村から2時間ほど緩やかな傾斜のついた岩肌を歩いていた。
所々に雪が詰まっており時折足を取られる、しかしフェミルやアシル等の氷人族は特性かもしくは慣れなのか足を取られる事は一切無かった。
そうしていると目の前に幾つかの建物群が見えてくる、辺りの斜面を切り開いたかのような突如として現れた平地に所狭しと石造の建物が建てられていた、村と呼ぶには余りにも大きく、町程度の規模はあるだろう。
「ついた、此処が氷府だ」
「成る程、確かに村って言うにはでかいよな」
「まぁ平野に住む人間には大した事は無いだろ? 取り敢えず中へ入るぞ」
そうして裕太達はアシルを先頭に氷府の中へと入っていく。
氷府の町並みは道幅が狭く、石材と藁で出来た平屋が密集していた、と言うのもアシル曰く無理やり斜面を切り開いた場所に数千人単位で住んでいるのだから仕方がない事らしい。
そして暫くアシルについて行くと岩で作られた壁に囲まれた館の屋根部が見えてくる、その館の屋根は木材が多用されており、他の建物に比べ造りもしっかりとしていた。
門の前には槍を持った氷人族の門番が居たがアシルを一瞥するや否や無言で扉を開閉し中へと通す。
壁の中には館に繋がる石畳があり、それ以外にはアシル達が乗っていた馬の様な生物を収納するための小屋が建てられていたその間の距離は20メートルくらいだろう。
屋根しか見えていなかった館の本体も良く見ることができた、館は見たところ三階建ての建造物で石をメインに作られており枠組みと屋根は木で作られていた。
「お前達は此処で待っていろ、馬の手入れをしていろ」
アシルはそう自身の部下達に告げ、残りのアシル、フェミル、ミリス、裕太の四人は館の中へと入っていく。
「お前達はこの部屋に入ってくれ、俺が先に総部族長に話をつけてくる」
アシルはそう言い裕太達を待合室の様な部屋に待機させる。
部屋の内装はテーブルを囲む様に置かれたソファに発光するクリスタルの様な物が埋め込まれたシャンデリア、石と木を組み込ませる様に作られた壁は中々の職人が手間をかけて作っているのだろうと素人である裕太ですら感じ取れた。
しかしその部屋の造形の話をするどころか会話の一つもない、ファミルの件で何処となく重たい空気が辺りに漂っており、積極的に話そうとする者など普通は居ないだろう。
それから暫く誰も喋らず、何処か気まずい空気が辺りに漂う。
そしてその空気の中、口を開いたのは、この気まずさを生み出している本人であった。
「裕太……」
フェミルはポツリと呟く。
「ど、どうしたんだ?」
「この後、見ての通り私の買える場所は無くなった……この後も、どうか私もパーティーに入れてほしい」
そのフェミルのその問いに対してミリスが口を開く。
「オリンの所で良いんじゃないの? 貴方達仲良さそうだし」
正直なところフェミルにはあまり付いてきて欲しくは無いとミリスは思っていた。
ミリスは裕太に少なくは無い好意を抱いており、近いうちにはこの気持ちも伝えたいとも思っている、しかしフェミルが居ると調子が狂うのだ。
それに加えフェミルも無表情と言う欠点はあるがそれ以外除けばかなりの美形である、最悪の場合祐太がフェミルに惚れてしまわないとも言い切れない、確かにフェミルはかなり不遇だ、ミリスもどうとも思わないわけでもなく可哀想と思っている、それどころか共感すらしている自分もいる、だからと言いパーティーに加えるのにも納得は行かなかった。
「無理……確かにオリンとは親友、でも一緒に住むわけには行かない……住む場所も文化も種族も余りにも違う」
氷人族と炎人族は元々は同じ種族から分かれた準人間種である、一時期は対立していたと事はあったが、常に極めて良好な関係を築いていた、とは言え共に住うのは彼らの種族的特徴や文化が余りにも違い過ぎるのだ。
「だから、お願い……邪魔なら切り捨ててもいい、だから一度だけで良い……」
フェミルはそう言うと頭を下げる。
もうここまで来ると断れる理由もミリスにはない、彼に任せるしかないと思い裕太の方を一瞥する。
「わかった、パーティーに加えらくらいなら幾らでも」
「……ありがとう、助かった……」
でも一つ条件がある、とミリスが口を開く。
「でも私の家に住むのは少し遠慮して欲しいわ、まぁ理由は色々あるのだけれどね」
「ありがとう、ほんとに助かる」
その様に話しているとアシルが部屋に入ってくる。
「面会の準備ができた、行くぞ」




