始まり
裕太は目を覚ますと何処かの部屋のベッドの上にいた。
お世辞にも余り豪華とは言いがたいこじんまりとした部屋でベットと簡素な机のみが置かれている、当然ながら電気製品の類いは一切ない。
「やっと目を覚ましたー?」
ふと横から声が聞こえてきて振り向くとそこにはケティルの姿がいた。
「あー、ケティルさん……」
「さんなんていらいよー、同じ冒険者同士じゃないかー」とケティルは笑う。
「裕太が気絶してるときに回復魔法かけといたから痛みを後遺症もないと思うけどどう?」
「確かに痛みはないですけど、何で決闘を申し込んで来たんですか?」
ケティルは少し表情を歪ませるがすぐに何時もの呑気そうな顔に戻る。
「まぁゴブリンを素手で一掃した裕太の実力を見たかったからかなー」
ケティルはそう言うと話をそらすかのように裕太に一枚の銅プレートのカードを渡してくる。
「これは?」
「冒険者証明書だよー、裕太が伸びている時に完成したやつ、後無くすと賠償金が発生するから注意してね」
銅製のプレートには上野裕太と自分の名前とEクラスと刻まれていた。
「Eクラスと言うのはランクの様なものですか?」
「まぁそうだよー、裕太は今は最底辺のEクラスだけど、そのうちAくらいまでなら余裕で行けるんじゃないかな? 私の手合わせした感想だけどねー」
「そう言えば、ケティルはランクはどのくらい何ですか?」
「うーん、私はAランクだよ、もうすぐSランクの昇格試験を受けるけどね」
「なるほど……ところでさっきから気になっていた、ここは何処ですか?」
「まぁ冒険者に無料で貸し出してる借家みたいなもんだね、まぁ借家と言うより借小屋みたいな感じだよ、まぁこの小屋の設備は自由に使っていいよー」
裕太は暫く考え込む、これで何とか寝泊まりできる場所を確保できた、後の問題は食事である。
「なに考えこんでるのー?」
「まぁ少し色々あって……でも大した事じゃないので気にしないでください」
「もしかしてご飯の事かな?」
「何でわかったんですか⁉」
裕太は考えていたことを的中され驚愕する、ケティルは食べ物の事を考えている顔をしていたと語った。
「その心配はないよ、冒険者ギルドの食堂では新入りの冒険者には無料で食事を提供しているからねー」
「冒険者は色々優遇されてるんですね」
「まぁ命懸けの仕事だし、そのくらいが普通だよ、後今日の夕飯は冒険者ギルドじゃなくて近くの酒場で食事を取るといいよ、その分のお金はボコしちゃた慰謝料として渡してあげるから」
「それまた何でですか?」
「今日はたまたま新人冒険者の集いが開かれるんだけど、新人の冒険者は単独での死亡率が極めて高い、だから大抵こう言う集の時にパーティーを組むんだよ」
「なるほど……」
ケティルは裕太に銀貨一枚を渡し、部屋を後にしようとする。
「私はこのあと一仕事あるからいってくるよ、たぶんまた何処かで会うから宜しく頼むよー」
そう言い残しケティルは部屋を出ていった。
裕太はふとステータスを確認する、そうするとマーシャールアーツが5から25に上がっていた、恐らくはケティルと戦ったおかげであろう。
「ふぅ……パーティーか」
誰もいなくなった部屋で裕太の声がこだまする、耳を済ませば壁が薄いのか外の話し声が聞こえてくる。
裕太が心配なのがパーティーを上手く作れるかだ、裕太は電車で遠くの高校に通っていたのだが、見事に同郷の人物は学校に一人も居なかった、自分から友達を作ろうとせず声をかけることを怠り、結局のところは友達はできたものの暫く一人の時期が続いた。
それに今回は恐らくは一夜限りで自分から混ざって仲良くならなければいけない。
ーーー裕太は同じ失敗を繰り返さないと強く誓った。