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氷人族の惨劇



裕太達はベルジュ工族の街を抜け、山脈の外ーーーつまり氷人族の集落へ向かう為の洞窟を進んでいた。



暖かく、寧ろ少し暑かった程の気温は洞窟を進むにつれてつれだんだんと低くなっていき遂には肌寒いと感じる様になる。

 ミリスがそろそろホットポーションを飲んだ方がいいと提案し飲むと全く寒さを感じなくなった、これがホットポーションの効果らしく、寒さを感じなくさせると言うよりは寒さに耐性を与える物らしい。



「もうすぐ外に出る……」



フェミルはそう言い奥の方を指差す、奥手の方には光が溢れており外に繋がっている事を確信させる。



外へ出ると一面の銀世界ーーーと言うわけでは無かった。



雪は積もっているものも彼方此方で岩肌が露出している、平らな場所はあまりなく殆どが緩やかな傾斜でずっと下の方に山脈の麓が見える、植物と言う植物も細毛が生えている雑草がちらほらと見当たる程度だ。



「ここがミリスの故郷なのか?」

「うん、正確には最も東の方にある集落だけど」

「それでこれからはどうするの?」

「先ずは私の集落へ向かう、そこでファミルの魔草があるかもしれないし、知り合いと顔を久しぶりに合わせたい」



と言う事でフェミルの集落がある方まで向かう事にした、道中は気持ち程度に整えられた砂利道を進んだ、途中毛の生えたゴブリンの様な生物の群れを見かけたが、フェミル曰く通常のゴブリンとは違い温和な生き物で時には氷人族と取引をする事もあるそうだ。

 彼らは興味を持って裕太達にしばらく付いてきたが500メートル程度進んだら興味を無くしたのか元来た方向へ戻っていった。

 そしてそれから更に歩くと傾斜がほぼ無く平たく広い平野へと出る、氷人族の多くはこの様な場所に集落を構える事が多いらしい。



「あそこの岩の裏あたりにある」



ファミルはそう言うと前方の巨大な一枚岩を指差す、巨大な岩は近づけば近づく程威圧感を増していきその大きさが想定以上のものである事を確信させる。



「ねぇ? 目の前から誰か来てない?」



最初に異変に気づいたのはミリスだった。

 ミリスの目線の先を見ると確かに此方に向かってきている人が見える、しかしそれは遠目から見てわかるほどふらふらとした足取りで怪我をしているのか或いは弱っているのかまでは分からないが正常では無い方は明白だった。

 それが視認できる範囲まで近づくとそれがどの様な状況なのか理解することができた。




その人物と言うものは氷人族特有の白い肌を持つ少女でフェミルが着ているものと柄が似ているローブを見に纏っている、髪は水色でそれなりに長く肩あたりまで伸びている、そして何よりも目を引いたのがその身の有様である。

 右腕から右腹部にかけて巨大な鉤爪に引っ掻かれたかの様な傷があり、それも相当深いらしく血が相当量の出血していた、その為か膝より後の右腕は赤く一色に染まり手先からは血が滴っていた、下半身もそれと同様で横腹から流れる血でローブの半分近くが赤色になっていた。

 息遣いも荒く、正直歩いているのもやっとの状況である、その出血量から考えればまずは助からないだろうと誰もが思うだろう。




「もしかして、カシル……⁈」



フェミルの知り合いなのだろうか、フェミルは一瞬動揺するが咄嗟に走り出し満身創痍で歩く彼女に向かっていく。




カシルと呼ばれた少女は目の前から走ってくる人物がフェミルと気付くと安堵したのか力無く倒れ込む。

 フェミルはそれを地面とぶつかる直前に支える。



「カシル、一体何があったの⁈」

「に、げて……村に……行っちゃだ……め」



カシルは苦しそうに答える、目も終点がろくにあっておらず意識も朦朧としてる。


「まって今助ける‼︎ 回復ヒール



フェミルは何度もカシルに回復魔法を掛ける、しかし怪我は一向に治らない。



「無理……呪いかけ……られ、たの……だから助から……い」

「喋らないで‼︎ 傷口が広がる、何か防げる物を……」



フェミルが何か止血に使える物は無いかと自身の身体を流石っているとカシルはフェミルの手をそっと握る。



「村に……ドラ……ゴンと青い肌、のりゅうじんき……て、皆殺し……にした、わた、しも……逃げるのが精一杯で…………フェミルのか、ぞく見殺しにしちゃ、た……ごめん……なさい」



カシルはそう言うと目に涙を流す、フェミルは彼女の手を握る強さが弱まるのを感じた。



「カシルは悪くない……悪く無いから」



フェミルの涙がカシルの頬に滴る、カシルはファミルの顔を弱り切った光の無い瞳で見つめる。



「貴方は……生き……て」



カシルはそう言い残すとフェミルの腕の中で絶命する、カシルの身体から力が抜け、ミリスの手からするりと掴んでいた手が解ける。 



同時にフェミルの啜り泣く声が辺りに小玉する、カシルだった死骸にフェミルの涙が何的も落ちていく。



「嘘……だろ?」

「酷い……」



その光景を一歩後ろで見ていた裕太とミリスは余りにもの出来事に動揺していた、日本で生きてれば恐らく親の死以外目にする事は無かった物であろう、ミリスもかなりショックを受けていた様で茫然とする。

 裕太はフェミルに掛けるべき言葉が見つからずその場で立ち尽くしていた。




「殺す……」



フェミルの啜り泣く声に混じりそう一言、言葉を発する。



「許さない……絶対に殺す、殺してやる」



フェミルは身体を怒りに震えていた、カシルは死に際に青い肌を持つ竜人が襲ってきてたと言っていた、フェミルはそれに当てはまる人物を1人だけ知っていた。

 ガレイオン・ファドル、傷ついた龍神の魂のかけらを持ち尋常ならざる力を持つ者だ、一年前からこの山脈に拠点を構え出したと聞いたことがある。



気づけば涙も枯れ果て、変わりに怒りの感情が増幅してくる。

 ガレイオン強大な存在だ、正直自分が挑んでも叶う相手では無い、フェミルは、ならば一撃でも傷を負わせて死んでやろうと考える。




「裕太……」



フェミルは震えた声で裕太に喋りかける。



「見ての通り私の友人が殺された、多分集落の人も同じく、勿論私の家族も……私は復讐したい、ううん……しなければならないと思う、けど私じゃ力不足、だから裕太にお願いがある、私と来て」

 



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