料理しよう
「ただいま」
裕太はさりげなくそして堂々と家の中に入る。
「お帰り、また随分と我が家の様に入ってくるのね」
「って、ミリスがここに今日からすめっていったんだろ?」
「嘘嘘、ただの軽い冗談よ、にしてただいぶ買って来たみたいだけどなにするの?」
ミリスは裕太の買って来た食材をまじまじと見つめる。
「まぁ俺の元来た世界の料理を再現しようと思ってな」
「へぇ、裕太って料理作れるのね」
「飯は自分で作ってたしな、人並み以上には作れるぞ?」
「そうなのね、ならせっかくだし作ってみたら? お昼がわりにね」
「言われなくてもそうするつもりだよ、それじゃあ台所借りるぞ」
「そうそう、火は台所の端にある赤い石をかち割ると発火するからそれでやっといて」
「嗚呼、わかったよ」
裕太はそう言うと食材を担いで台所へ向かう。
台所は電気類は一切見当たらなず、水釜や薪が山積みに置かれている。
「ミリスの言っていた赤い石ってこれのことか?」
裕太は台所の隅に籠に山盛りで置かれていた赤い石を一つ手に取る。
かまどに薪をセットし、かまどの底に赤い石を置く。
裕太は腰に下げていた剣で石に垂直に振り下ろす。
石は砕け散るとボワァと火を上げ、薪に燃え移っていく。
そしてあっという間にかまどの中は燃え盛る炎で包まれる。
裕太はかまどの上に釜をセットに買って来た釜を入れ、水を適量注ぐ。
「次はこれだな」
裕太は小壺に入ったダーを大さじ二杯分程度を目分量で入れ蓋をする。
そして三十分程度して蓋をあけるとケチャプライスの出来上がりである。
(少し色は薄い気もするけど大丈夫だよな? うん、大丈夫か)
裕太は二つの皿にケチャプライスを盛り付ける、裕太は続いてフライパンで卵を割ってトロトロと固まりだしたくらいの丁度よくフワフワした感じのところでフライパンからケチャプライスに盛り付ける。
裕太はその過程をもう一度行い、もう一つの皿にも盛り付ける。
(この上からダーをかければ……)
裕太はダーを卵の上に適量かける。
「これでオムライスの出来上がりだな」
オムライスは裕太が良く使っていた料理だ、片親だった裕太は母が死んでからは毎日自分で料理を作っていたその中でもオムライスが最も作った頻度が多い料理でそれに比例して味にも自信がある。
「ミリス出来たぞ」
裕太はオムライスを椅子に座って待っていた、ミリスの前に出し自分もその反対側に腰を下ろす。
「これが裕太の世界の料理?」
「嗚呼、オムライスって言うんだ」
「焼いた卵の上にダーを乗せてるみたいだけど……」
「俺のいた世界にもケチャプっていう似た物があってな」
ミリスは「卵の下になんかあるみたいだけど」と不思議そうにスプーンを卵を割る。
「うげっ、なんか赤いご飯があるんだけど……不味そう」
ミリスはケチャプライスを見た途端、気持ち悪い物を見たような苦い表情を見せる。
「ご飯にダーを混ぜたんだよ、一口食べれば分かる、これがうまいってな」
「ダーにご飯ってさぁ、普通に考えて合わないわよね?」
「いいから、食えば分かるよ」
「あ、はい……」
ミリスはオムライスを恐る恐る、まるで汚物を口に含むかのように一口口にする。
その瞬間ミリスの表情が変わった。
「あれ? これ、うま!」
ミリスは予想外の味とその甘さに驚きを隠せないようだった。
ミリスはもう一口オムライスを口に運ぶ。
「見た目とは違ってとても美味しい、上に乗せられたダーの酸味と卵本来の美味しさが絡み合って丁度よくダーを調和させてる、この赤いご飯もダーを加えることでいい感じに合わさってるし、凄く美味しい……」
「だろ? 俺の世界ではオムライスって言うんだけどな」
「裕太の世界って料理が美味しいのね? いや、このオムライスが特別? それとも単に裕太が料理が上手いだけ?」
「まぁ、今度また作ってやるからそん時に、また試したらいいさ」
「まぁ、そうね、にしても美味しいわね、これ」
ミリスは美味しそうにオムライスを頬張る、いつもは見せない愛らしい表情を見せる。
裕太はそんな姿をまじまじと見つめる。
(ミリスって何か可愛いとかあんだな、いや、そう言うと語弊があるけどミリスは美人だ、だけど、だけども笑うことも少ないし、どこか無愛想なんだよな。
そう言う意味ではあんま可愛げ無いし、この純粋そうな笑顔は初めてだな……そうだ、料理で餌付けするのも悪く無いかもな )
ミリスはまじまじと見つめる裕太に気づく。
「何? そんなにまじまじ見つめて……」
「いい、い、いや、なな、なんでもないよ」
裕太はあせあせしながら否定する。
ミリスはああ、そうと軽く受け流し再び食事に手をつけ始める。
(流石にまじまじ見てたことがバレたらまずいよな、にしてもあぶなかった……アウトな気もするけど)
しばらくしてミリスは裕太より少し早くオムライスを食べ終わる。
「ゴホッゴホッ」
ミリスは口に手を当て、何度もむせる。
「オムライス一気に食いすぎたりでもしたのか?」
「何でもないわよ……」
ミリスは自分の手を一瞥すると、テーブルの上に置いてあったハンカチで掌を拭う。
そして裕太はハンカチに付着した物を見てある事に気づくだろう。
ミリスが吐血した事にーーー。




