遭遇戦ーミリス視点
飛行するポリープと権威の紋章が交戦を始めた時、ミリスと裕太は馬車の中から様子を伺っていた。
(てか、あれってインビンシブルのモンスターだよな? こっからじゃよく分からんが触手が沢山生えてるし)
様子をよく観察して見ると駆動鎧の物理攻撃が一切通じず一方的に蹂躙されていた。
(てかあれ、多分飛行するポリープだよな? 物理攻撃聞いてないし)
このまま放って置いても権威の紋章に勝ち目は無い、しかし彼等は魔法が通じることは知らないようで駆動鎧による猛攻を行なっていた、正直インビンシブルの魔法とこの世界の魔法は根本的に違う。
インビンシブルの魔法は何かを召喚したりするのが大半でメリットがデメリットにあっていないのも特徴だ、それに比べてこの世界の魔法は汎用性が高くインビンシブルの魔法より優れていると言えるだろう、しかしこの世界の魔法があのポリープに通じるかは不明だが。
(少し俺が魔法で倒せるかもしれないって伝えてこないとな)
裕太は馬車から飛び降りようとするとミリスに引き止められる。
「どこ行くつもり? まさか戦いにでも混ざる気? 死ぬわよ、あれ見てたけどやばいもの......」
「戦闘には混ざらないさ、ただ奴は魔法に弱い、だからそれを伝えに行かなくてはと思ってな」
「ふーん、私はそれでも反対なんだけど、あの化物が奴等に気を引かれている内に逃げるべきだと思うけどね、ここからの距離なら歩きでも1日野営すれば普通に街まで帰れる距離だし」
「あの人達を見捨てるわけには行かないだろ? 大丈夫多分死なないから」
裕太はそう言うと馬車から飛び降り、走り抜けていく。
「馬鹿......人が心配してあげたのに何なのよ」
馬車に一人残ったミリスはボソリと呟く、本当はこの場合一人で逃げるのが最も正解であろう、しかし裕太と言う人を置いて逃げるわけにも行かない。
ミリスはそんな裕太を馬車の影からひっそりと覗いていた、裕太の指示が伝わったのか隊員たちが一斉に魔法を飛行するポリープに浴びせ出す、今度はしっかりとダメージを食らっているようだった。
(本当にダメージが入ってる!? にしても何で裕太はこんな事を知ってるの、 異形のモンスターなんて一般には知れ渡ってる事ではなさそうだし、本当に何者なのかしら)
ミリスの脳内にそのような疑問が浮かぶ、おいおいは裕太が何者なのかを知る必要があるだろう。
その時飛行するポリープは姿を眩まし、次の瞬間裕太の背後に姿を現した。
ポリープは触手で裕太の腹部を貫く、血が吹き出し辺りの床を紅に染め上げた。
「嘘......」
ミリスに一瞬動揺が走る、裕太は並大抵の人間よりは身体能力は遥かに高い、しかし高位の冒険者にはそれ以上の猛者もごまんといるし何より裕太はそれでも普通の人間なのだ、腹を貫かれたりしたら死んでしまうだろう。
「不味い、あのままじゃ裕太は......」
ミリスはポリープに向かい大火球を放とうとする、しかしそれを咄嗟の判断でやめる。
あれだけの猛攻を喰らってもまだ生きていたのだ、中途半端な火力の魔法を打ち込んでも無駄に興奮させて裕太をズタズタにされるかもしれない、だがこのまま放って置いてもあの化物が裕太に何をしでかすかもわからない、それにあの出血量だ早く救出して回復魔法をかけないと本当に死んでしまうだろう。
しかしミリスにはあの化物を一撃で仕留められる魔法を行使することはできない。
しかし本当に行使ができないわけではないーーーミリスは混沌魔法と言う特殊な魔法を使うことができる。
混沌魔法は悪魔種と人間の混血だけが使える魔法で自らの寿命や精神、血液から多肉までありとあらゆる物を代償に発動できる大魔法である。
それ以外にもこの魔法を唱えたものは魔力が枯渇し暫くの間は回復することはないし、さらに魔法を唱えた影響により少しずつ免疫細胞や体内器官などを次々に破壊され最悪は死に至る事もあるのだ、そして運良く死ななくても激しい吐血や高熱、そして免疫細胞が破壊された事により様々な病気に感染し数ヶ月は地獄の苦しみを味わう事になる。
しかしそれを犠牲に放たれる魔法は強大でこの魔法さえ使えばあの化物を一撃で仕留められるであろう、しかしーーー。
死亡する場合もある魔法だし、この魔法を使った事により悪魔との混血ということがバレてしまうだろう、しかもあたりには異種族の根絶ーーー特に悪魔種を滅ぼすことを国是としている神聖リユニオン帝国の特殊部隊が側にいるのだ、ミリスが悪魔種の混血と知ったら真っ先に殺しにかかってくるだろう、しかしこの魔法を使わなければ裕太は恐らく死んでしまうだろう、肝心のの権威の紋章の隊員も唖然として行動も起こさないでいる。
「一体、私はどうすれば……」
ミリスは葛藤する、裕太と自分の安否を天秤に掛けたのだがどちらを選べばいいのかわからない、これが裕太ではない人物ならば迷わず自分の事を選んでいただろう、しかし裕太はミリスに取って裕太は特別な感情を抱いた人物である、捨てるに捨てれない。
そしてミリスはしばらく考え込んで結論を出す。
「……あーもう死んだっていいや、どうにでもなれ‼︎」
ミリスは馬車から降り立つと飛行するポリープの元まで走り抜ける。
「混沌魔法、魂喰迫撃」
ミリスは禁断の魔法を唱える、それと同時に三重の魔法陣が現れそれが連接すると同時に辺りが淡い光に包まれた、それが晴れると飛行するポリープは四散し肉塊と化した。
それと同時にミリスは意識が少し遠のく様に感じた。