遭遇戦
村を後にした裕太とミリスと権威の紋章の面々はミリスと裕太が来た道を逆に進んでいた。
ミリスと裕太の馬車の周りには裕太達を取り囲むように無数に権威の紋章の馬車が取り囲んでいる。
権威の紋章の馬車群はどれも牛と馬を足して割らなかった様な強靭かつ俊敏な独特な見た目の家畜が牽引していた、荷台の上には駆動鎧が乗せられており端には折り畳み式のテントが置かれていた、駆動鎧のせいで人が乗るスペースは殆どなく、家畜に騎乗しているか荷台の端の方に立っているかで何とか乗れていると言った感じだった。
「そう言えばミリス......」
裕太は辺りに聞こえないように警戒しながらミリスに話しかける。
「ミリスは神聖ナンチャラ帝国はそんな好きじゃないみたいだけど、なんかあったのか?」
「......まぁね、昔色々あったのよ、あまり詮索はしないで欲しいのだけど?」
「それはすまん、聞きづらい事聞いたみたいだな」
「分かればいいわ、でも......どのみち聞いてて面白い話でも無いし知らない方が身の為だと思うしね」
裕太はやっぱりかと思う、先程から、ミリスの権威の紋章達を見る目はどこか彼等を嫌悪しているようにも見えた、恐らくは過去に何かあったのだろう、勿論聞きづらい事を聞いてしまったという悪気もあるしこれ以上詮索するつもりもないのだが。
そして裕太はもう一つある事に気付いた、裕太は村の村民や権威の紋章の面々のステータスを粗方確認したが、レベルが村人達が平均3程度、権威の紋章の構成員がバルロッサ以外が10〜20の間だった。
裕太はこの事から一般人レベルが3程度、兵士階級が10〜20の間で20以上がエリートなのでは無いかと言う結論に至った、しかし権威の紋章は一国の特殊部隊らしいし一般の兵士はこれよりもっと低いのかもしれない。
そんな事を考えながら5時間程度馬車に揺られていた時だった、馬車で揺られて進むのも後半になってきたと言う時だった。
戦闘の馬車が突如止まるーーーーーーー。
「いったいどうしたんだ?」
バルロッサが降りて先頭を確認しようとする、それと同時に怒声が響き渡る。
「異形のモンスターだ‼︎ 奴らが現われたぞぉ‼︎」
「なんだと⁉︎ 全駆動鎧を起動させろ、戦闘態勢に入る‼︎」
バルロッサのその掛け声と共に、権威の紋章の構成員は懐から魔力増大化の水晶を取り出す、それと同時に駆動鎧は荷台から飛び立ち戦闘状態へと移行する。
バルロッサが 異形のモンスターがいるであろう方向を向くと無数と目の口、そして触手の塊が浮遊していた、大きさは10メートル程度でその見た目はバルロッサが今まで見てきたモンスターの中でも最も醜悪でそして吐き気を催す物だった。
そして明らかに隊員達に動揺が走っているのを感じた、それはそうだろうこんな醜悪な化物が存在するなど思いもしなかった。
「狼狽えるな‼︎ 駆動鎧で波状攻撃を仕掛けろ‼︎」
「はっ」
「第一派を加えよ‼︎」
それと同時に4体の駆動鎧が飛び立ち異形の怪物に切りかかっていく。
駆動鎧は人の丈ほどある巨大な大剣を装備している、これにより繰り出される一撃は並大抵のモンスターでは只では済まないだろう。
しかし駆動鎧の斬撃はその怪物に殆ど効いていないようだった、と言うよりは全くの無意味だった。
その怪物の体はまるで幻影かの様に駆動鎧の斬撃が体を透き通って行くのだ、まるでそこに存在していないかの様に。
「何故だ⁉︎ 何故攻撃が効かないのだ‼︎」
「こ、こんなの聞いてねぇぞ‼︎」
隊員達の中で動揺が走る。
「分隊長、一体あれは?」
「恐らくあれは幻影だ、本体は最も別なところにいるのだろう、ならば奴も我らに攻撃が出来ないはずだ案ずることはない」
バルロッサはあの化物が幻影であると予測した、ならば攻撃が通じないのはおかしいからである、いくら異形の怪物でもそれは考えにくいからだ。
しかしバルロッサのその予測もあえなく外れてしまったのだ。
その化物は無数の触手をうねらせ駆動鎧に振り下ろす。
それと同時に駆動鎧の装甲はへこみを作る、それが一撃ならまだしも絶え間なく連続で打ち出されていった、鋼鉄以上の硬さを誇るミスリルで作られた駆動鎧はあっという間に破壊されていった。
そしてもう一体、もう二体と次々に破壊していく、その光景を見ていたバルロッサ含める隊員達は唖然していた。
「あり得ない......魔法工学の遂を結集して製造されたあの駆動鎧がーーーあのリユニオン・ガーディアンが一方的に打ちのめされてるだと......あれが異形のモンスターの力なのか? いや、あり得ん、そんな事があっていいはずがなぁい‼︎ 全駆動鎧で突撃させろ‼︎」
バルロッサが掛け声を上げると全駆動鎧が異形の化物に突撃していく。
しかしそれと同時に突如突風が吹き駆動鎧は跳ね返されてしまう。
「まさかあの化物は風すら操れるのかぁ‼︎」
「分隊長どうすれば?」
「撤退だ‼︎ それも脱兎の如くの撤退だ、数体のリユニオン・ガーディアンを囮に奴から逃げる‼︎」
その時だった、馬車から飛び降りた裕太がバルロッサに話しかける。
「魔法です、奴は魔法なら普通にダメージを負います‼︎」
「何故その事を知っているのだ?」
「説明は後です‼︎ 今は目の前のあれをどうにかしてください‼︎」
「嗚呼、わかった、幸い我々は全員魔導士だからな、造作もない」
あの異形の化物はインビンシブルにいた物である、見た目から推測するにあれは飛行するポリープと言う物だ、インビンシブルは様々な神話や小説などから元ネタが取られており、その中でもクトゥルフ神話系統から取られている事が比較的多く、目の前のそれも元ネタは恐らくはクトゥルフなのであろう。
そんな飛行するポリープは物理攻撃に対して強い耐性を持っており魔法が付与された武器でもないとダメージを与える事が出来ない、インビンシブルの魔法とこの世界の魔法は本質的に違うものだがダメージを与えられる可能性はある。
「総員、魔法迎撃よーい‼︎」
バルロッサが声を上げると無数の魔法が飛行するポリープに放たれる。
「火球」「雷撃」「氷爆」「重力増大化」「水切」
様々な色を持った魔法が飛行するポリープに放たれる、飛行するポリープの身体は火傷や電撃そして斬撃により青緑の血液を吐き出していく、明らかにダメージを負っている様に見える。
「や、やったぞ‼︎」
「勝てる、勝てるぞ‼︎」
「この前押し切れ‼︎」
一時期は無敵の相手と思われた相手にダメージが入った事により隊員達は歓喜の声を上げる。
だがその瞬間、突如として飛行するポリープの姿が見えなくなる。
「なんだあれは? 透明化か?」
「気をつけろ、どこから来るかわからんぞ」
(そう言えば飛行するポリープって透明化できるんだっけ? 厄介だな、てか生身の人間が勝てる相手じゃねーよ)
次の瞬間、裕太の背後に飛行するポリープが姿を現わす。
その瞬間裕太の腹部にポリープの触手が突き刺さる。
「グフゥォ......⁈」
裕太の口から血が溢れ、腹部に強烈な痛みが走る、自分の腹部をながめてみると触手が腹部を貫通し貫いていたのだ。
辺りを眺めてみると他の触手にも隊員が串刺しにされていた。
(やべぇ、このままじゃ死ぬ......)
裕太は必死に抵抗するが触手が抜ける事は無い、裕太は筋力が人間の限界を超えているとは言え所詮は22程度だ、裕太の記憶が正しければ飛行するポリープの筋力は42である、たかが2倍と思うかもしれないがステータスに10の違いがあるならばそれは生まれたての幼児とボディビルダーの差がある、それが22と42の違いならば小動物と人間ぐらいの力量差があるのだ。
その時だった、ミリスが馬車から飛び出してくる。
「混沌魔法、魂喰迫撃」
ミリスがそう言うと三重の魔法陣が現れそれが連結すると同時に白色の光が放たれた。
それは辺りを一瞬淡い光で包むと、次の瞬間飛行するポリープの身体が四散しバラバラに破裂した。