トロール狩り
ミリスと裕太は村へ降り立つと村長の家へと通された。
村長宅に行く途中村の惨状を垣間見る事があったが村は人口100人程度で家屋は倒壊してたり、血痕があらゆる所に見られ廃れきっていた。
「冒険者様、こんな辺境にわざわざお越しください有難う御座います、ささっどうぞお座りください」
裕太とミリスは村長に椅子に座る様に促され着席する。
「本当に辺境の村ね、何でこんな所にあるのか不思議なくらい......」
ミリスの感が正しければここはレイアール王国の支配圏がギリギリ及ぶか及ばないかの遠縁の地である、純粋な支配地域と言う面ではこの奥よりもずっと向こうまで続いているがこの村より先はドラゴンの生息域だったり亜人部族の村落が密集ていたりで人間は住んでいない未開の地だ、実際にレイアール王国が支配しているかと言われたら答えづらいところではある。
「わかりません、ここから昔から住んでいたもので......」
「それはどうでもいいけど今回の依頼の内容を詳しく聞かせてくれるかしら」
「はい、それが数ヶ月前からトロールの集団が村に押し寄せてきて皆殺しにされたく無かったら生贄捧げろと、当然只の村人の私達にはトロールを撃退する力も無く従うしかありませんでした、それからと言うものの味を占めたトロールが週に一回この日の晩に生贄を要求してくるのです。
しかも私の様な老人の肉では飽き足らないと若者ばかりを要求してくる始末、領主様もこの辺りには不在で国も軍隊も派遣してはくれず......何処かに逃げようにもろくな行き先もありません。
報酬は出来る限りでお上げします、なのでどうかこの村をお救いください」
村長は土下座で悲願する。
「わかったわその依頼は受け取りましょう、でも報酬は約束させて貰うわ」
「それは有難う御座います、私の家の隣に空き家があるのでそこでゆっくり身体をお休めください、夜までまだ多少は時間があります」
「そうね、それじゃあせっかく出し休ませて貰おうかしら、裕太、行きましょう」
そうして二人は村長の家を後にし隣の空き家へと向かった。
空き家は他の家屋に比べれば一回り大きく手入れがされている、内装も裕太とミリスが来る事を想定していたのか隅々まで掃除してある。
「私はずっと馬車を引っ張ってたから疲れたから寝るわね」
ミリスはそう言うとベットに横たわる。
「嗚呼、わかった、夜になったら起こすから」
「頼むわね」とミリスは一言呟くと眠りの世界へと落ちて行った長時間の運転だった訳だし無理も無いであろう。
「てか、寝ちゃたよ......まぁ無理もないけどな、と言うかぱっと見は普通の何だよな、100年以上生きているとは思えないよな」
ミリスは起きる様子もなく完全に眠ってしまっている様だ。
(にしてもこう見るとミリスは中々美人だよな、前の世界でもそうそうこんな人は居なかったしな)
裕太は多少の悪気があったがミリスの顔を覗き込んだ。
ミリスはすやすや眠っておりものの数十秒前まで起きていたとは思えないだろう。
裕太はある事をふと疑問に思う、ミリスは実年齢的には100を超えてはいるが種族的には若いのだろうかと、まぁ見た目的にはおばあちゃんと言う訳では無いのだが。
「なんだかなぁ、ぐっすり眠っている人を見たら眠くなってきた、少しくらい寝ても大丈夫だよな?」
裕太はミリスの寝ているベッドの向かいにあるもう一つのベッドに横になる。
裕太も乗っていただけとは言え不慣れで固く、そしてぐらつく馬車に半日近く乗り込んでいたのだ、それなりの疲労もあったのだろう、眠りに落ちるのに時間はあまり掛からなかった。
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「冒険者様お目をお冷ましください‼︎」
裕太とミリスは村長の叫び声と共に目を覚ます、短かった様な長かった様なそんな気がする目覚めであった。
辺りは既に真っ暗になっており夜とかしていた。
「トロールです、トロールが参りました‼︎」
「それで? 奴等はどの辺にいるの?」
ミリスは目をこすりながら体を寝台から降ろす。
「村の外壁にトロールが4体ほど待ち受けております、どうにか奴等を倒してくだされ」
「その数のトロールを正面から倒すのは危ないわね、そうね一体だけ村の中に誘導する事ってできないかしら?」
「不可能ではありません」
「それじゃあそれでお願い、村の中に誘導して撃破するわ、残りの三体は馬からの一撃離脱戦法で倒せそうね」
「それではその様に此方も動きます」
村長はそのまま家を飛び出ていった。
その頃村の外壁の門の前には4体の化け物がいた、体長は3メートルから5メートルと大きさはまちまちであるが共通点として毛むくじゃらの体に象の様な皮膚、そして潰れた猿の様な顔である。
彼等がトロールである、ギルドからBクラス冒険者と同等程度とされる目標危険度Ⅴに指定されているモンスター......もとい亜人である。
「ハヤク今週ノ飯を出セェ‼︎」
「腹減ッタ」
「出サナイナラ皆殺シニスル‼︎」
トロール達は村の外壁をドンドンと叩く。
トロールの力であればこんな木製の壁などいとも容易く破壊は出来るが壊さないように配慮しているようだ。
しばらくして門から一人の男が出てくる。
「ナンダオ前ガ今週ノ飯カ」
「ひぃぃ‼︎ ち、ちぃがいます、今週から村の中で生贄を渡すことになりまして」
「ソウカ、ナラ中ニ入ルトスルカ」
村の中に入ろうとするトロールの集団を男が引き止める。
「ひぃぃ、待って下さい‼︎ 村の中に入るのは一人でお願いします」
「何故ダ? 何ノ目的ガアル? マァイイ、オ前ラ人間ニトロール様ハ殺セナイカラナ、他ノ奴ハ待ッテロ、俺ガイク」
一匹のトロールは男に連れられ村の中に入っていく。
村の中に入ったトロールは村の中に入る門を通れず破壊して入った事以外は大きなアクシデントは起こさずに村の目的の広場まで向かっていた。
「ニシテモ他ノ人間ヲ見カケナイナ、ドコニイル?」
「はい、家の中にいるのかと」
「ソウカ、逃ゲタノカト思ッタ」
男はトロールの発言をビクビクしながらも無視して広場に村のっていた、そして広場が目前に見えた頃だった。
「あそこです、あそこの目の前に置いてある木箱の中に生贄が入っています」
「アレカ?」
トロールは広場のど真ん中に置かれている木箱に指を指す。
「そうです、わ、私はこれで」
男がトロールから逃げるように立ち去ろうとした時だった。
「待テ」
トロールはその豪腕で逃げようとする男のを掴む。
「な、何ですか⁉︎」
「案内シテクレタ御礼ニ食ッテヤル」
「へっ?」
男はトロールのあまりにもの発言に頭の思考が一時的に止まる。
「ソノママノ意味ダ」
「嘘だろ......辞めてくれ‼︎ 辞めろ、お願いだぁ‼︎」
状況を理解した男はじたばたと暴れるがトロールには何の支障もない。
「踊リ食イダナ」
トロールはそう言うと男の足に噛み付く。
「いでぇぇよぉぉぉ、助けてぇぇ‼︎ ぼ、冒険者さまぁ‼︎」
男の足に激痛が走る、それと同時に耳がつんざくような叫び声を上げた。
「オ前、ウルサイ‼︎ ヤッパリ頭カラ食ベル」
トロールが大口を開けて男を頭から飲み込もうとした時だった。
木箱の中に身を隠していたミリスが姿を現わす。
「火球」
ミリスの手のひらから放たれた火の玉はトロールの顔面に直撃する。
「熱イィィ‼︎」
トロールはあまりにもの熱さに男をぶん回し吹き飛ばす、死にはしないだろうが骨折程度の怪我はしただろう、それでもトロールにあのまま食われるよりはマシである。
トロールの顔は熱により爛れていた、トロールがミリスに攻撃されたとすぐ様気づく。
「人間‼︎ 生意気ダカラブッ殺ス」
トロールはそう言うとミリスに向かい走っていく。
「失墜の岩」
ミリスがそう唱えるとトロールの頭上に巨大な岩が現れトロールは下敷きになる。
だがトロールはその怪力で岩を持ち上げたのだ。
「良クモヤッテクレタナ、本当ニ後悔サセテヤル、オ前ガ岩ノ下敷キダ」
トロールが岩をぶん投げようとした時にミリスは氷弾を唱える。
無数の鋭利な氷の塊が次々とトロールの体を貫いていく。
トロールはこの猛攻により大地に倒れ伏せ、それと同時に岩をぶん投げ、ドスンと言う低い音を上げる。
だがトロールは死んだわけではない、今度は素手でミリスに殴りかかってきた。
ミリスは防御壁を唱える自分の周りに結界を展開する、トロールが結界を殴りつけると小さいながらもヒビが入る。
そしてもう一度殴りつけようと拳を構える。
「風斬」
ミリスが魔法を唱えると風の旋風が巻き起こり、トロールの片腕を付け根から切断する。
「ガァァアアァァ‼︎ 痛エェェ‼︎」
トロールは叫び回る、自分の状態が不利だと思ったのか逃げようとする。
「裕太、お願い‼︎」
「嗚呼‼︎」
逃げようとするトロールの前に屋根の上に隠れていた裕太が立ちはだかる。
「斬撃」
裕太はスキルを発動させ波動が放たれる、それはトロールの首筋に命中し首を吹き飛ばす。
首無しになった体は暫く仁王立ちし大地に倒れ伏せる。
「やったか?」
「えぇ恐らくはね」
「にしてもミリスの魔法をあんなに沢山食らって良く生きてたよな、こいつも」
「まぁ耐久力に優れる種族だしね、村人だけでは倒しきれなかったでしょうね」
その時だった、首を切り落とされ死んだかと思われたトロールはむくりと起き上がる。
「嘘だろ......まだ生きてやがったのか⁉︎」
「しぶとい化け物ね」
トロールの体は切り落とされた自分の頭を探し回っている様だった。
「魔法で追撃するわ、首を見つけられたら厄介よ、こいつらは人間じゃないんだから首を切り口にくっつけて復活するかもしれ無しらないしね」
そしてミリスが魔法を放とうとした時だった、トロールは再びドスンッと大地に倒れ伏せ今度こそ起き上がる事は無かった。
「流石首無しで生きて行けなかった見たいね」
「そう見たい......だな」
二人は暫くトロールを警戒するが何も起こる事は無かった。
「今度こそ倒した見たいね」
「そうだな、動く気配も無さそうだし」
「冒険者様がトロールをお倒しになされた‼︎」
「やったぞ‼︎ やったぁ‼︎」
家の中で身を潜め隠れて様子をうかがっていた村人が家の中から姿を現し歓喜の声を上げる。
今まで無敵の怪物だと思われていた化け物を裕太達は倒してしまったのだ、裕太達はもはや村人達にとって英雄の様な存在である。
瞬く間に裕太の周りを村人達が取り囲み、感謝の言葉をそれぞれ述べていく、そんな人混みをかき分け村長が姿を現した。
「ありがとうございます、何てお礼を言ったらいいか......」
「感謝の言葉よりお金が欲しいのだけどね、それにまだ終わってないわ壁の外にまだ三匹いるのでしょう? そいつらを倒さないと依頼はこなしたとは言えないしね」
「ならばもう一度同じ方法で村の中に一匹づつ誘い込んで......」
「それは無理ね、奴らはそこまで頭の悪い亜人とは言われてないし、同じ手は通用しないわ」
トロールは人間には及ばずともオーガやゴブリンよりも知能も高く精強である、それ故に個体数が少ないながらも国企画での討伐隊が組まれたりギルドもかなり危険視しているのだ。
「馬による一撃離脱で倒すしか無いわね、早馬はいるのかしら?」
「この村には馬は老馬しかおりません」
「仕方ないわね、ギルドから貸し出された馬車の馬を使うしか無さそうね」