依頼
食事を終えた二人は冒険者ギルドの掲示板の前にいた。
ギルドの一角に並べられている掲示板はそれぞれのクラスに応じて分かれており、無駄な死を出さない仕組みになっていた。
基本自分のクラスより高い依頼は受注できないのだが同じパーティ内で高位の冒険者がある場合はそのクラスまでの依頼を受けれるようだ。
「これなんてどうだ?」
裕太はBクラスの掲示板に貼られた悪魔系種族の捕縛と言う紙を指差す。
「報酬は一人頭銀貨三十枚、他の依頼の達成報酬が銀貨10枚くらいだからかなり報酬が高いんじゃないか?」
だがその提案も胸糞悪いからやめた方がいいとあっさり断られてしまう。
「そうね、トロール討伐にでもする? クシア村という所にトロールが毎晩襲撃してくるそうよ、一体討伐することに銀貨3枚を支払うって、これでいいんじゃない」
ミリスはそう言うと依頼書を掲示板からピリッと剥がし受付嬢の元まで持っていく。
「この依頼をお願い」
「分かりました、トロール討伐ですね、判子を押させてもらいます」
受付嬢は依頼書の端に判子を押す、どうやらこれが無いと報酬は貰えないらしい。
どうやらそのクシア村は遠い所にあるらしくギルドから馬車が支給される事になった。
それでも時間は掛かるらしく今から出発して付くのは夕方ごろになるそうだ。
裕太とミリスは廃れた街道を馬車で走っていた、最初は裕太が馬を引けた言われたが馬に乗ったこともないと言う趣旨を伝えたらミリスが手綱を握ることになった。
「にしてもこの道廃れてるな」
裕太は荷台から顔を出し、馬を操るミリスに声をかける。
「昔は栄えてて人の通りを絶えなかったんだけどね、他の街道が整備さたのと、モンスターの多発地帯だったからわざわざこの道を使わなくなったのよ」とミリスは答える。
「そう言えば聞きたかったんだがミリスって何歳なんだ?」
「何? その口ぶりからするともしかしてわかってたの? 私の歳のこと......」
「まぁな、でもわざとでは無いんだ、少し俺の特殊能力みたいなものでたまたま気づいてしまってな」
「まぁいいわ、どうせ貴女には気づかれてるし話さなければだめよね、私は貴女が勘付いている通り普通の人間じゃ無いわ、そうね.....言うなれば私は長命の悪魔種と人間のハーフよ、どう侮蔑したかしら?」
「なんでそうなるんだ? 別にミリスがハーフってだけだろ?」
ミリスは裕太の反応を見てへっ? と呆気ない顔を出し呆然としていた。
「別にミリスが悪魔とのハーフだからって侮辱したりはしないだろ? 逆に何でする必要があるんだ?」
「もしかして悪魔種族が迫害されてるって知らないの?」
「俺の地元ではそう言うの無かったからな」
「......私は悪魔の血が入ってるせいで何処へ行っても居場所が無かった、たとえ仲よかった人がいても私に悪魔の血が通っている事を知ると嘘みたいに罵倒や暴力を振るってきた、だから私はこの血を隠しながら生きてきたの、ずっとね......私の血筋を知って態度を変えなかったのは貴方が初めてよ、ここで侮蔑してくるなら裕太とは縁を切るつもりだったけど、その......なんて言うか、ありがと」
ミリスは頰をほんのり赤らめ何処か嬉しそうな表情を浮かべていた、しかし馬車の荷台にいる裕太のその表情が見える事は無いだろう。
この時ミリスは初めて自分の血筋の事で差別をしない者にあった、悪魔種の国では人間の血が入ってると言われ人間の国では悪魔の血が入ってると差別され続けてきた、それ故に人間の血が強いミリスは人間の国に身を潜めて生きてきたのだ、そんな中裕太は全く差別などしない、と言うか気にしていない様子だった、そんな彼にミリスは心臓の鼓動がほんのすこしだけ速まっている気がした、この様な感覚に陥るのは数十年ぶりであろうか。
だが裕太がこの様な心情にミリスが陥っている事は知る由もないだろう。
それから四時間ほど馬車を走らせ日が暮れてきた頃、目の前に目的の村が見えてきた、雑多な家屋が立ち並ぶ活気のない村だ、木製の外壁が張り巡らせていたが度重なる襲撃でかなり破損している様だった。
ミリスは馬車を止め裕太に一声かける。
「付いたらわ、あそこがクシア村よ」