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服を買おう



ある日の朝、裕太は家をノックする音で目を覚ます。

玄関の扉を開けるとそこにはミリスがいた。





「どうしたんだ? ミリス、こんな朝っぱらから」

「いや、貴方って服一着しか持ってないでしょ? だから買いに行こうかなってね、それに正直なところ毎日同じ服を着ているから不潔なのよ」

「いつも夜洗濯してんだけどな.....」

「不潔に見えるってことよ、それに一着だけじゃなく困るでしょ?」

「まぁそりゃそうだが......」




裕太は懐を不安げにさする。




「お金が無いことくらい知ってるわよ」とミリスは呆れたようにため息を吐く。



「また借金ですか」

「いや、この前は命を助けられたからね、そのくらい私が持つわよ?」

「それは有難い、助かるよ」

「それじゃあ早速行きましょう、私の気が変わらないうちにね」





ミリスと裕太は家を出て数分歩いた場所にある商店街へ来た。

辺りは人でごった返しており道の両脇には肉屋や野菜屋や呉服店など数多の店が並んでいる、それ以外にも串焼きや小物売りの出店が出ており日本の地方のお祭りを何処か彷彿させる。





「いつもこんなに人がいるのか?」

「ええ、そうよ今日はいつもより多いけどね」




ミリスは他の店に目もくれず最寄りの服屋に裕太を引っ張っていく。

その服屋はウォルト布店と言う看板が立てられていた、中に入ると何処か清潔感のある木造の店内でこの世界に来てから最も綺麗な屋内と言えるレベルである、お香が焚かれているのか上品な良い匂いが立ち込めている。

そして店内の彼方此方には様々な服がずらりと並べられていた、どうやらそこまで繁盛はしていなのか外にいる人の数に比べて店内の人気はほとんどない。




「いっらしゃい、どんな服をお探しで?」





店の奥から店主らしき人物が姿を現わす、年齢は二十代後半から三十代行かない程度の妙齢の女性である、赤紫のドレスに身を包み、何処か怪しげな雰囲気を醸し出している美女である。




その女性は裕太に目を向けると不思議そうにながめてくる。




「あら? 珍しいデザインの服をお召しになさっていること、遠い異国からでも来たのでしょうか?」

「まぁ、そんな感じの物ですね」

「まぁゆっくり見ていってくださいな、小さな買い物でもありませんしね」



裕太は辺りの服に目を通す。



(ファンタジーぽい服が多いな、流石は異世界って感じだ、ん......? よく見てみたらここにある服ってその辺歩いてる人が着てる服より仕立てがいいよな、と言うか客が少ないのって......あっ)



「すいません、この服っていくらですかね?」



裕太は試しにふと目に付いた黒を基調とした如何にも中二病的な服を指差す。



「嗚呼、その服ですね、結構安物なので金貨6枚で御座います」




裕太はあっ、やっぱりなと心の中で思う。

無駄に清潔感のある店内に何故かお香が焚かれているうえ人も少ないとなるとここは高級ブランド店の様な店だったのだろう。

ミリスの方を確認するとミリスは顔色を青くさせあわあわしていた。




「ねぇ.....裕太? 入る店間違えたね......」




ミリスは今にも死にそうな顔をしている、どうやら金貨6枚と言う出費はミリスにも痛手のようだ。




「いやミリス、無理して買わなくても良いから」

「い、いや......約束したでしょ......か買うわよ、でもお金が足りないから取ってくるね」



ミリスはそう言うと店の外へとかけて行く、裕太は買わなくて良いから‼︎ と叫んだが既に時遅く店の外へと飛び出していた。




「あーあ、行っちゃたよ......」


「うふふ、お金が足りなかったのかしらね?」と女性は笑いかける。



「そう言えば名乗り遅れましたわね、私の名前はファルバニー・ウォルトと申します、この店の店主を務めております」

「嗚呼、どうも、俺は上野裕太です」

「私の店の衣服を見て驚きになさったでしょう? 最初は皆驚きになさるけど決して粗品などではありませんですので御安心を」などと言う辺り障りのない会話を三十分ほどしているとミリスが戻ってくる。




「ハァハァ......家の金庫から取ってきたわよ、全財産......」




ミリスは全力疾走で走ってきたのか息も絶え絶えだ疲れ果てていた。




「裕太はあの黒い服が良いのよね⁉︎ 店主さん、あの服をください」


ミリスは痛々しい中二病的な服を指差す。



「なぁミリス⁉︎ 流石にあの服は痛々しすぎて着れないって‼︎」



しかしミリスの瞳は語っていた、これ以上変なの選んで高いのだったらどうすんだよ、と。

それに気づいた裕太は大人しく黙ることにした。



ファルバニーは「毎度、ありがとうございます」と一言言うとその服を布でラッピングし渡してくる。




「それじゃあ金貨6枚ですよね......」



そしてミリスが金貨を渡そうとした時だった。



「そう言えば、貴女は買わないのですか? 私はきっとお買いになってくれると信じていますよ」


「へっ?」



ミリスから思わず発言に呆気ない声が出る、そして裕太はすかさず気づくことだろう、ファルバニーの和かな表情に狂気が薄ら見えている事を。




(もしかしてこの女、金が無いことを知っていて⁉︎ うわぁ......最低だな)




裕太はファルバニーに軽蔑の視線を送る、裕太の視線に気づくとファルバニーはニコッと笑みを裕太に向けてみせる。



「もも、も、勿論買うに決まってるでしょ? そこの赤っぽいローブ頂戴‼︎」


「これですね、金貨12枚になります」



「おふっ」



ミリスは値段を聞いてひどい精神ダメージを負ったのかその場でしばらく倒れそうな勢いでふらついていた。






結局金貨18枚の大出費を負ったミリスは裕太と共に商店街近くの道をとぼとぼ歩いていた。



「あはは、三年かけて貯めたお金がなくなっちゃたなぁー」



ミリスは虚ろな目をしながら虚空に呟いていた。



「そう言えば全財産後はいくらなんだ?」

「あと? 銅貨7枚しか無い......」

「なんかごめん」



裕太は特に悪い事はしてないのだが何処か申し訳なくなり取り敢えず謝る。



「良いのよ、裕太は悪い事はしてないし、私が無造作に店に入ってたのが悪いのよ」

「確かにそうだけど、まぁ攻めて昼飯くらいは奢らせてくれよ、その後は金稼ぎにモンスター狩りにでも行けば良いんじゃないか?」

「そうね、そうした方が良さそう......適当にモンスターに八つ当たりでもしたいし、それとお昼は肉が食べたいわ」

「銅貨10枚くらい分なら奢るよ」




二人は近場の食事処を探して回ることにした。

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