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第二十七話 白き美しき内通者

(視点がユーヤに戻ります)


  

 ラドニールの王城で地図とにらめっこしている軍師ユーヤの下に、狼牙族の内通者が駆けつけてきた。

 

「ユーヤはん、ユーヤはんはおるか!」


「うわっ、タミーオさん、ここまで入ってきたんですか」


 相手は人間の言葉を喋るとはいえ、四つ足で馬の姿をしている。だから、ドアを器用にツノで開けて入ったりしてこられるとちょっとドキリとするのだ。

 

「なんや、ここワイが入ってきたらあかんのかいな」


「いえ、まずはノックをしてからということで」


「おお、それはすまんかったな。ワイも急ぎすぎて、人として大事なことを忘れとったで」


 人なのか……。

 目の前で、ブルルッと(いなな)いたタミーオに、あなた馬じゃないの? と言いたくなるのを俺はぐっとこらえる。


「自分、ワイが馬やんって思うてるやろ?」


 つぶら(・・・)だけど、ちょっと眠そうな瞳を向けられてしまった。


「い、いえいえ、滅相も無い。美しいユニコーンを、馬と一緒にするなんて、そんな」


「そかそか。まあ、そういう心遣いは大事やな。今は中年太りで見る影も無い感じやけど、昔の若い頃はワイもほっそり体型でブイブイ言わせとったからのぉ。付いた二つ名が『サウスブルーマウンテンの貴公子』や」


「ぷっ」


 貴公子などという言葉がとても似合わないタミーオに、俺は思わず吹いてしまった。


「おい、笑うなや。人が必死こいて走って、ええ情報を持ってきてやったのに」


「や、ホント、すみません」


「まあええわ。リリーシュはんやエマはんもみんな頑張ってるみたいやし、この戦にラドニール王国が勝とうもんなら、あの忌々しい狼共を追い出せるかもしれんしのぉ」


「ええ、サウスブルーマウンテンからは狼牙族を追い出し、必ずウォルチ王国を復活させますよ」


 三十年前に滅ぼされて併合されたウォルチ王国、ユニコーン族の国だ。


「頼むで、ほんま」


「それで、良い情報というのは?」


「おお、それな。近々、軍師ショーンが少数の護衛だけで、西の砂漠地帯へ視察に出るっちゅう話や」


「んん? 少数の護衛って……」


 ロボウ王を奇襲で破られた狼牙族が、そんな危険なことをするはずが無い。

 

「そうや、あからさまな罠や」


「やっぱり……」


「少数なんて大嘘、北方方面軍、北西方面軍、南方方面軍、どこも全軍総出で戻らせるみたいや。せやけど、ショーンが直々に出るのは間違いない」


「本当ですか? 僕ならそこも替え玉を使いますけど」


「自分、分かっとらんのぉ。狼牙族は替え玉みたいな『せこい』ことをやったら、ええ笑いもんや。『臆病者』のレッテルが貼られるんやで? そうなったらショーンはもう軍師としてお終いや」


「そんなもんですか」


「そんなもんや。まあ、ワイも狼牙族と長年付き合わされて来たからのぉ。奴らの気心っちゅうんもよー分かっとる」


 そこはタミーオを信じるしか無いな。もちろん、ブランカ殿下その他に聞いて、情報の裏取りもするけど。


「とにかくな、ショーンの狙いは、全軍を集中させて一気に決着を付ける腹づもりや。いよいよ、兵糧も足りんようになってきて、兵士の士気が落ちまくりやからな。あっちこっちでショーンの悪口大会や」


「西の砂漠地帯を選んだ理由は?」


 地図では知っているが、現地を見たことが無い俺としては、慎重にならざるを得ない。

 

「そんなん、だだっ広い場所で、砂に足が取られて動きにくいからや。ラドニール連合軍を逃がさんように囲い込む作戦に決まっとるやん」


 砂で動きにくいというのは一見、捕まえやすそうにも見えるが、狼牙軍も同じ条件で動きにくいはずだ。

 そこは少し引っかかるものを感じる。


「ま、ショーンのどんな策略だろうが、がら空きのサウスブルーマウンテンを取り返す大チャンス到来や!」


「なるほど」


 タミーオにとっては、自分の故郷を取り戻せるわけだから、これほど良い話は無いだろう。彼が意気込んで駆けつけたのもよく分かる。

 だが……裏の裏をかいて、サウスブルーマウンテンに伏兵がいる可能性もあるかもな。

 あそこはハールッツ城にも近い。


「ほんなら、決まりやな。ワイがリリーシュはんのところへ、もうひとっ走り行ってくるで!」


「あ、待って下さい! こちらはやはり、西の砂漠地帯に兵を出します」


「な、なんやて?! わざわざ敵の罠に乗っかるちゅうことか?」


「ええ、ショーンが本当に出てくるなら、向こうも(・・・・)動きがあるかもしれないので」


「なんか策があるんやな? それで勝てるんか?」


「勝てるかどうかは分かりませんが、逃げ切る算段の方は大丈夫です」


「また逃げか。ユーヤはんのモットー『温存第一』やったか? 言っちゃなんだが、チャンスをふい(・・)にしてるようにしか見えんで?」


「でも、負けないなら次があります。僕は冒険をしません」


 確信の微笑みで俺は言う。冒険はロマンだが、国の指導的立場の権力者が危険を冒しては大変なことになってしまう。

 

「分かった。勇者が冒険せんっちゅうのも変な感じやが、大国相手に持ちこたえてほんまにええ感じにやれてるからな。頼りにしてるでぇ」


 タミーオが一声大きく嘶いて上機嫌で戻っていくのを見送ったあと、俺はロークを呼ぶ。


「ローク、ちょっと来てくれるか」


「はい、ユーヤ様」


 隣室で各方面との伝令のやりとりをやってくれているロークが作戦司令室に入ってきた。

 ここは情報機密も考えて、出入りできる人間を制限している。

 ここに入れるのは俺を含めて数人だけだ。


 人が多くなってきたから、スパイ工作にも気をつけないといけないからな。


「狼牙族が西の砂漠地帯へ全軍を集めるようだ。今、内通者から情報が入った」


「ユニコーン族のタミーオさんですね。しかし、なぜ今、カルデア方面に……?」


「いや、連中は侵攻じゃなくて、俺たちをおびき寄せようとしているだけだ。軍師ショーンが少数の護衛だけで西の軍の査察をやるという名目でね」


「なるほど、ついに僕らのまとわりつく作戦にしびれを切らしましたか」


「それもあると思うが、兵糧切れで士気が落ちているそうだ」


「向こうは大軍を動かしてますからねえ」


 むしろ同情するようなそぶりで頷くロークだが、兵糧の手配や管理もやっている担当者としては身につまされる話だろう。


「こっちの兵糧は大丈夫かい?」


「ええ、もちろんですとも。巨人族の方々がサトウキビや野菜を回してくれて大助かりです」


 やはり巨人族を味方に付けて正解だったな。

 逆にそこから食料をぶんどっていた狼牙族は急速に食糧事情が悪化しているはずだ。


「そうか、良かった。じゃ、砂漠地帯の地図や関連資料を集めておいてくれるか。こちらも罠にあえて乗って、砂漠に出兵する」


「分かりました。最優先で資料を用意しておきます」


「うん、ま、近々ということだったけど、噂がこちらに届く日数もショーンは計算に入れてるはずだし、あと一週間くらいは余裕があるはずだ」


「こちらが動かなかった場合は?」


「ショーンの待ちぼうけだろうね。こちらに損のある話じゃないよ」


 向こうから奇策を仕掛けてきたが、これは確実に『焦り』があるはずだ。

 ここまで思うように攻めきれず、兵糧も時間の問題ときた。

 全軍の士気も下がりまくっているという。


 狼牙族の伝統は大軍をもって攻めるか、家で待ち構えて相手に化けると聞いている。

 だから、正体を明かしたままで砂漠で待ち構えるのは、彼らの得意とする作戦では無い。


 そこに必ず隙があるはず。


 このままこちらは何も仕掛けず、相手が自滅するのを待っても良いが、狼牙王国は武の国だからな。

 やはり、戦で勝ってから話し合いに持ち込む方が、彼らも言うことを聞いてくれるだろう。



 聞かないなら、徹底した経済制裁あるのみだ。


 だが、それはあくまで最終手段。

 飢えた狼共が統率を失い、ところ構わずに襲いかかる夜盗の群れとなっても後始末に困るだろうからな。


「ユーヤ様、ブランカ殿下がお呼びです」


 作戦司令室の外から兵士が呼んだので、俺は思考を中断してそちらへ向かう。


 あれからブランカはラドニール王城で寝泊まりしているのだが、彼女は借りてきた猫のように大人しくしていた。

 自分の立場をわきまえれば当然のことかもしれないが、レムとも仲良くしているようだし、狼牙族も理性はあるのだ。


 ブランカが狼牙族の女王になってくれれば、上手くいくのではないか。

 俺にはそんな予感がしていた。

私事で恐縮ですが、イギリス第五部リーグのサッカー監督に就任(ゲームですが(;´Д`))したため、また、ストックが無くなってきたのでこの章が終わったら不定期投稿になると思います。

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