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第十一話 交渉開始

寝ていたレムが目を覚ますなり、パクッとロネッタに食いついたのでみんな焦ったが、幸い、ロネッタには怪我はなかった。


「ごめん、虫かと思った」


 いや、虫も食っちゃダメだぞ、レム。頼むから。


「酷いですぅー! そりゃ羽はあるし、時々、たまーに、私達もお仲間と間違えて虫に声をかけたりもしますけど、でも喋ってる人を飲み込むなんて、あんまりです! 可愛い猫さんに襲われて以来の衝撃ですよぅ」


「ロネッタ、気持ちは分かるが、少し静かにしろ。こう引っ切り無しに喋られては、馬車の外の音が遮られてしまう。敵が来ても気づかないかもしれないだろう。これでは護衛の任務に差し障りが出る」


 エマが言うと、ピッと敬礼して黙り込むロネッタはそれなりに処世術にも長けていて、相手を怒らせる程では無いようだ。エマも少し神経質だと思ったが、ちゃんと理由があったようだ。

 



「ユーヤ様、到着です」


 馬車が止まった。

 ラドニール王国の北西、ドワーフ族の国『鉄血ギルド』の本部に到着したのだ。

 国境に入ってからは野宿で一日、宿場町で一日を費やしている。

 馬車を降りると、ここは巨大な洞窟の中だったが、あちこちに板張りで床が通してあり、ドワーフ達はここで寝泊まりしている様子だ。

 壁には魔道具のランタンも設置してあり、普通に明るい。


「よし、じゃあ行こう。ロネッタは、その辺にいてくれ。お小遣いをやるから」


 俺は大銅貨を一枚出して言う。ここから見える位置に酒場もあるし、何か食べ物くらい置いてあるだろう。


「ええ? 私だけ置いてぼりですか? ハッ! ま、まさか、撒いて立ち去ろうという算段では……せめて言ってからにして下さい! 黙って消えられると、心が痛みますから! ここまでのお礼も言っていないのに」


「だから、勝手に変な想像するなって。誰も置いて逃げようなんてしてないから。じゃあ、付いてきてもいいぞ」


「わーい! ありがとうございますぅ、一緒!一緒!」


「ユーヤ」


 エマがそれはよろしくないぞという声音で注意してくるが、この子には間諜(スパイ)なんて無理だ。

 思ったことを何でも喋らずにはいられない感じの少女だからな。

 いくら美少女でストライクの年齢でも、ママや友達に筒抜けの子とは付き合えない。俺のロリコン戦士の第六感がそう囁いている。

 まあ、今まで美少女とお知り合いになるチャンスもゼロだったから、この勘に実績は無いんだけども。


「結局、入管……関所での入国手続きみたいなのは無いんだな」


 普通にドワーフが行き交う通路を見回して俺は言う。

 国境付近に関所はあったが、持ち出し側の荷物チェックだけで、入る側はフリーパスだった。


「我が里と似たような物だ。国というほどのものではなく、同族で集まった寄り合いに近いのだろう」


 エマが言う。そう言えば竜人族もいちいち国境管理はしていなかったな。

 それは、簡単に入り込む人間が少ないからできることだと思う。

 竜人族やドワーフ達だって、自分達にとって好ましくない人々が大量に入り込んできたら困るだろう。

 竜人族も、ここのドワーフ族もドーアハイド山脈に住んでおり、険峻で高低差の激しい山岳地帯だから、普通の人間には生活しにくい所だ。


 だが、行き交うドワーフ達は陽気に歌を歌ったり、馬鹿笑いをしたりと、楽しそうで活気がある。

 酒場が近くにあるせいかもしれないが。


 『鉄血ギルド本部→』という目立たない無愛想な看板をエマが見つけてくれ、そちらへ向かう。


「ユーヤさん達は本部へ何しに行くんですか?」


 ロネッタが何気なしに聞いてくる。


「込み入った話を色々ね。国と国との話だ」


「へー。具体的には?」


「国家機密だ。聞くと死ぬぞ?」


 エマが低い声でそれっぽく言う。


「ひいっ!? な、何も聞いてないですし私、まだやりたいことがたくさんあるので、見逃してくだせえ~」


「見逃すから、あまり騒がないでくれ、ロネッタ。エマも気にしすぎ」


「はーい、良かったぁ」


「すまない、ついな」


 通路の奥に扉があり、『鉱山ギルド血盟本部、関係者以外立ち入り禁止、飲んだら入るな、入るなら飲むな』と書いた看板が横にある。


「ああ、鉄血ギルドってこれが正式名だったのか」


「僕も知りませんでした」


 城の書物を当たって色々と念入りに下調べしてくれている頼れるロークですら知らなかったとなると、あまり知られていないのだろう。

 彼らとの書面のやりとりでは気を付けねばならないが、俺達が話すときには『鉄血ギルド』や『北のドワーフ族』でいいか。


「じゃ、行くぞ」


「ああ」

「はい!」

「「 おー! 」」


 エマ、ローク、レム、ロネッタが頷く。


「では我らは外で待機します。いざとなれば呼んで下さい」


 護衛兵の六人は本部前で待機。

 ぞろぞろと武装した人間を連れて行くと、砲艦外交と勘違いされちゃうものな。

 自分達より強い『狼牙(ローガ)王国』へ対抗するため、包囲網の参加を呼びかけるのだ、脅しでは決して上手く行かない。

 相手が納得の行く見返り(リターン)行く末(ヴィジョン)を示さないと。


 さっそく、ノックしてみる。

 ……反応が無い。


「こうするのだ。頼もう!」


 エマが扉をドンドンと乱暴に叩き、大声を出した。


「空いてるぞ! 勝手に入りやがれ」


 中から濁声が聞こえてきたので、お邪魔することにする。


「失礼します」


 中はカウンターになっており、円卓も別に置いてあったが、お店のような雰囲気だ。

 関係者以外立ち入り禁止と書いてあったが、結構訪れるドワーフは多いのかもしれない。


「んん? なんだ、よそ者か。うちに何か用か?」

 

 ひげもじゃに団子鼻のドワーフが言う。


「お初にお目にかかります。私はラドニール王国からやってきた軍師にして外交全権委任大使、ユーヤと申します」


「えっ、軍師? なんか凄そう」


「チッ、外交か」


 感心したロネッタと違い、舌打ちしてあからさまに嫌そうな顔をしたドワーフだが、別にラドニール王国が嫌われている訳では無く、外交が面倒臭いだけだろう。

 ロークからは両国の関係は特に悪くないと聞いている。


「責任者の方はおられますか」


「オレがその責任者、ギルドマスターだ」


 受付の人かと思ったら、いきなりやっちまったな。


「それは失礼を。いくつか話し合いたいことがあるので、お時間を頂きたいのですが」


「生憎とオレぁ忙しいんだ。手短に頼むぜ」


「ええ、長々と話すつもりはありません。……ここで話しますか?」


 すぐ誰かが入ってきそうな場所だと、ちょっと落ち着かない。


「じゃ、奥の会議室を使うとしよう。こっちだ」


 ギルドマスターに案内され、奥側の部屋に行く。


「まぁ、一杯やれや」


 ドン!と、その部屋にある樽のサーバーから木製ジョッキにエールだかビールだかの酒がなみなみと注がれ、テーブルに突き出された。

 泡がこぼれ落ちる。

 あれ? 看板に飲んだら入るな、飲むなら入るなみたいな、標語があったよな?

 アレは酒の事じゃないのか?


「せっかくですが、ご遠慮させて頂きます」


 ともかく、俺はお断りした。

 酔っ払って相手の悪口を言って修復不能な関係になっては困るからな。

 宴会の場ならともかく、これから正式交渉を臨む場でストロングな酒はいらない。


「下戸か? つまんねえなぁ。まあ好きにしろ、オレは飲むぜ」


 あんまり飲んで欲しくはないのだが、オレが何か言う前にギルドマスターは一気飲みしてしまった。


「ぷはぁー。で? ラドニールの人間様が、ここに何の用だ? 武器の値引き交渉なら、鍛冶屋や武器屋に直接言ってくれや」


「いえ、これは国と国との交渉、あなたでないと話にならないかと」


「国ねぇ? ここは鉱夫が集まってるだけの場所だ。他を当たってくれ」


「ですが、ここのドワーフ族はいずれの国にも所属していません。それで自分達で統治していれば、やはり国かと」


「フン。そういう小難しい理屈の話は好きじゃねえんだ。何をオレ達に頼みたい?」


 ここはあれこれ前置きするより、単刀直入に言った方が心証が良さそうだな。



「『狼牙(ローガ)王国に対抗するための『包囲網同盟』に参加して頂きたいのです」


 俺が言うと、ドワーフは目を(すが)めて、不味い酒でも飲んだような顔になった。


「狼牙王国か。どうやら、ホラや冗談で言ってる訳でも無さそうだな。お断りだ」


 まあ、普通はそう言うだろうな。

 大国相手に守るので精一杯の時に、その大国と戦争中の国が『同盟してやっつけようぜ』と言ってきたら俺だってお断りしたい。

 つかの間の平和を棄ててまで戦いに(おもむ)くのは好戦的な者たちだけだ。しかも勝ち目のなさそうな戦いに。


「しかし、ラドニール王国が敗れれば、無政府状態のミストラ王国や軍備の無い交易都市ヴェネトもすぐに陥落します。そうすればこの鉱山も左右から挟撃されることになりますよ」


「ふむ……」


 笑い飛ばしたりしないので、そこはギルドマスターも自分で予想が付いているのだろう。

 『鉄血ギルド』にとって鉱山まで攻め込んでくるような狼牙族は厄介者であり、その勢力に周りを囲まれるのは面白い結果では無いはずだ。


 さらに俺は言葉だけで無く、利益(リターン)を示すことにする。

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