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第七話 勇者の選択

 ラドニール王国の南に位置する国家、正式名『獣人部族連合』がこちらに領土侵犯してきた。

 その場にいた俺や王女リリーシュが獣人に襲われ、戦闘にまでなってしまったが……レッドドラゴンのレムが『しんがりゲーム』を引き受け、敵を足止めしてくれたので全員、無事に城に帰還することができた。

 魔法剣が無ければ傷すら付けられない無敵のレムだからな。

 レムには褒美として王様から豚一頭が与えられるという。


 しかし、事件はまだ続いている。

 獣人族の縄張り拡大は、森の生産物を確保するための行動だった。

 だが食べ物が無いとは言え、それはお互い様なのだ。

 この国だって飢え死にが出ているのに、森の縄張りを譲るなんて決してできない相談だ。


「――ですが、我が国は北にミストラ王国を抱えています」


 第一王女の執務室。

 銀髪のアンジェリカが地図を指し示しながら懸念(けねん)事項を説明する。

 彼女は王女でありながら外務大臣も務め、国王を補佐するしっかり者らしい。


「かの国は元から軍事を優先するお国柄でしたが、四年前に代替わりして、さらなる軍国化を押し進めています。ここで我々が南と戦争をすれば、北の彼らはこちらに隙有りと見てラドニールの背後を襲ってくることでしょう。領土の広さや国力は元々同じくらいなのですが……兵力はあちらが倍近くに膨れあがり、獣人も奴隷にしているため、戦力は向こうが上です」


「ほんっと、ミストラ王国ってウザいんだから! いちいち何百年も前の戦争の話を持ち出してお前が悪いっていちゃもんを付けてくるのよ?」


 リリーシュが顔をしかめて言う。


「あー、それは『勝者になれなかったストレス』からだろうな」


 強い国ならねちねちとは言ってこない。弱い国を一発殴って黙らせれば済むからだ。


「ええ? なるほど」


「その他にも、代替わりした王子が体制を固めるため、外に敵を作っている部分もあるでしょうね」


 アンジェリカが言うが、国内の不満を外に向けさせるのは独裁者の常套(じょうとう)手段だ。

 ただし本当に外の敵が問題を引き起こしていたりしていて、一般国民にはなかなかその判別が付かないから、難しいところだ。


「じゃあ、姉様、やっぱり南とは穏便に……戦争を避ける方針なのね?」


「ええ、こちらも苦しいのですが、ユーヤ様が種芋などを買い付けてくれましたから、それで何とか今年の冬を乗り切れるでしょう。

 森は一部、獣人達に譲ろうかと思います」


 まずいな。

 アンジェリカは今年の冬のことしか考えていない。

 今年の冬を乗り切ったとして、獣人達が森の領土を返してくれることは無いだろう。

 それに、代替わりしたばかりの獣人の族長アオイは、明らかに脳内筋肉の性格だった。

 彼女にいきなり成功体験を覚えさせると、食べ物はそっちのけで同じ事を繰り返してくる恐れがある。


 外交問題に俺が口を挟める立場では無いが、ここは言っておかなければいけない気がした。


「聞いて下さい。私の世界の歴史に、平和を求めて悪魔に領土を譲ってしまった宰相がいます。すると悪魔はルール無視の領土拡大に味を占め、平和を求めたはずのその国は結局、戦争に巻き込まれ、辛酸をなめることとなります」


 第二次世界大戦の前に、歴史上、重要な会議が行われた。

 その『ミュンヘン会談』でヒトラーに領土を譲ってしまった英国宰相ネヴィル・チェンバレン。

 彼は『平和の確保が第一』と説いて宥和(ゆうわ)政策を()ったが、戦争は防げなかった。

 後に、ヒトラーを勘違いさせ戦争を呼び込んだとして批判を浴びることとなったのだ。


「そうですね……この世界にも征服王に領土を一部渡して身の安全を約束してもらったものの、騙されて最後に首をはねられてしまった王の話があります」


 アンジェリカが今、言ったことは重要だ。


「約束を破る相手に交渉事は通じません。仕切り直しで新しい協定を結んだところで、反故(ほご)にされるだけです」


 約束を平気で破る国は国際社会での信用など初めから考えていない。

 いくら非難しようが彼らが恥じ入ることなど無いのだ。


「じゃあ、戦うしか無いわね!」


 リリーシュも脳筋っぽいよな。


「勝てる戦ならね」


「ちょっと! 交渉がダメなら戦うしかないでしょうが」


 まあそうなんだけども。俺は肝心なことを言う。


「戦うにしても戦わないにしても、準備は必要だ。相手は今こちらがいったん退いたから、領土を認めて戦争まではやってこない……と思ってるかもしれない。だから、攻めてくるまでまだ時間はあるだろう」


「分かった。志願兵を募って訓練をやるわ。いいわね? 姉様」


「ええ。やるからには戦力を上げて、一気に終わらせないと。長引かせては余計に国が疲弊(ひへい)するわ。何も無いのが一番楽なのだけれど……」


 アンジェリカは別に根っからの反戦主義者というわけでも無さそうで、この分なら、戦の方法も知っているだろう。

 後は実務の経験者に任せておけば良いか。

 だが物はついでだ。


「アンジェリカ様、西のドラゴニュート族と交渉してみたらどうかと思うのですが」


 意見が通って気を良くした俺はもう一つ思いついたことを言ってみる。

 それは、空軍。

 この近隣に空軍が無い状況で、飛べる軍隊は圧倒的に優位が取れる。

 だから羽を持つという竜人族は、是非とも味方に付けておきたい種族だった。


「ううん……味方になってくれれば確かに頼りになるでしょう。でも、彼らを味方に付けるのは、無理だと思いますよ?」


「話し合いも無理な……危険な相手ですか?」


「いいえ。ただ、プライドが高く、自分達より弱いと思っている人間族には味方しないということです」


「獣人にも味方しませんよね?」


「もちろん。彼らは獣人も人間と同じだと思っていますから」


「では、今の(・・)うちに(・・・)交渉しておいた方がいいかと」


「ええ? あなた、今の姉様の話、ちゃんと聞いてたの?」


 リリーシュが変な顔をするが、こちらにも考えがある。


「聞いてたよ。今回の戦では無理だろうけど、一つ、『仕掛け』が使えそうだからね」


 俺は肩をすくめてニンマリとする。


「間に合わないのに、今のうちがいいの? あなたが何を言ってるのか、私、さっぱり分からないわ」


 リリーシュも肩をすくめて首を揺らすと、天を仰いだ。だが、アンジェリカは頷く。


「そうね。いいでしょう。ここは一つ、勇者様にすべて任せてみるとしましょう。リリー、あなたもレムちゃんを連れて一緒に交渉に赴いて頂戴」


「無駄足になると思うんだけど……まあいいわ。ユーヤ、今、じゃないとダメなのね?」


「ああ。戦が始まる前がいいな」


「じゃ、急ぎましょう。いつ始まったっておかしくは無いわ」


 アンジェリカに詳細を相談してからと思ったのだが、リリーシュがさっさと執務室を出て行ってしまうので、俺も慌てて追いかけた。

 ま、交渉が失敗しても、生きて帰れれば問題ない。

 レムがいればまた『しんがりゲーム』を喜んでやってくれるだろう。

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