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第十話 旅は道連れ世は情け

 この辺りからドーアハイド山脈にぶち当たったようで、道がやけに曲がりくねり始めたかと思うと、すぐに切り立った崖が見えてきた。

 そのど真ん中に馬車が通れるだけの穴、トンネルが掘ってある。


 馬車の窓から顔を出してそれを見た俺は、座り直してからつぶやく。


「なるほどな、戦力的に優れているとは言えないこの国が、どうやって隣の狼牙(ローガ)王国の大軍の猛攻を今まで抑えてきたのか、分かっちゃったなぁ……」


 あるいは『ミスリルソード』や『ミスリルアーマー』の威力か、と期待していた俺にとっては、少し残念な結果だ。


「険しい『ドーアハイド山脈』では、大軍が展開できる場所が無い、そう言うことだろうな」


 エマが答えを言ったが、いざ戦となれば、トンネルを崩して(ふさ)ぎ、道を寸断させて侵攻を諦めさせるのだろう。

 奥深くに誘い込み、敵軍を分断させた上で各個撃破しても良い。


 ただ、地形に頼るこの戦術はドーアハイド山脈限定で、しかも穴掘りが得意なドワーフでなければ成立しない。

 守りは堅いが、侵攻には使えないだろう。


 『鉄血ギルド』のドワーフ達が包囲網に(こころよ)く協力してくれたとしても、戦力としては使い道が限られる。


 だが、俺がここを最初に訪れたのはもう一つ(・・・・)大きな理由がある。



「へえ、魔道具の明かりが目印になっているのか」


 馬車はトンネルの中に入って、スピードもそれほど落とさずに進んでいたが、一定間隔で(あか)りの魔道具が設置されていた。

 一車線で対向の馬車が来たときにどうするのか疑問だが、馬車なら音で気づいてから止まっても間に合うのだろう。


「向こうから馬車が来ます。こちらに待機場所があるので、少しお待ちを」


 御者の兵士が言い、その辺も対策が考えてあったようだ。


「よう、アンタ達はどっから来たんだ?」


 向こうの御者だろう、陽気な声をかけたのが聞こえてきた。


「ラドニールだが、それ以上は近づくな」


「へへ、そう堅い事を言いなさんなって」


 彼が馬車を降りて近づいてきたのか、護衛の兵士と揉め始めてしまったようだ。


「二台目乗車の兵士は全員集合! 不審者を排除する!」


 外が気になったので窓を開けようとしたが、エマが俺の手を掴んで首を横に振った。


「ユーヤ、今は兵士に任せておけ。矢を持っていると厄介だ」


「ああ……」


 刃傷(にんじょう)沙汰(ざた)など、ここでのトラブルは避けて欲しいと思ったが、斬り合いにもならずにすぐに制圧できたようで、若い男の悲鳴が聞こえてきた。


「いてててて! 酷えな、おい、オレがいったい何したって言うんだよ」


「兵士相手に警告を無視した。それだけで充分だ」


「くそっ! だが、オレもツイてるぜ! もう一つの馬車には、お偉いさんが乗ってるんだろう?」


「さてな」


「おい! オレの話を聞いてくれ! 頼むよ、お偉いさん! オレはルウイ、カルデア王国からやって来た行商だ」


「売り物なら間に合っているぞ。それに、色白のくせにカルデア王国の出自を(かた)るとは、呆れた奴だ」


「いや、本当にオレはあそこの生まれだっての。家のご先祖様は北のグーリム王国から移ってきたんだ」


「何を言う。人間族があんな寒いところに住めるものか、いい加減なことを言うんじゃない」


「本当だぜ、寒くなくなる魔道具があったんだ。今はもう無いんだけどな。それより、あんたら、北に向かってるんだろう? クロート方面に向かうなら、連れて行ってやって欲しい奴がいるんだ」


「我らは乗合馬車では無いぞ。クロートなどには行かぬ。他を当たれ」


 本当は余裕があればクロートへ行く予定なんだが、行き先をペラペラ喋る間抜けな兵では無い。

 しかも相手は胡散臭い奴だ。


「そうか……。だが、こっちは南のヴェネトに行く予定なんだ。逆に離れちまうから、途中で適当に別の馬車に乗せてやってくれないか。身寄りも金も無い奴なんだ、可哀想だろう」


「ああ、だがこっちは生憎と満員だ」


「大丈夫、ちっちゃい女の子だからよ。余裕で乗れるって」


「話を聞こう!」


 俺は颯爽と馬車のドアを開けて出た。


「ユーヤ! バカか、お前は」

「ユーヤ様……」

「困りますぞ、ユーヤ様」


 え? なんでみんな『マジかよ、コイツ』みたいな冷たい目をするの?

 小さな女の子が一文無しで困っていると聞いたら、助けに出るのが普通の紳士だろ?


 ましてや、俺は勇者だぜ?


「おお! さすがユーヤ様、話が分かるお人じゃね……んん? 熊?」


「ああ、これはタダの毛皮だ」


 俺はフードをはぐって顔を見せる。


「なんだ人間か。ロネッタ、この人が連れて行ってくれるそうだぞ。やったな」


「ええっ? まだ話を聞くだけって感じなんですけど!?」


 向こうの馬車の窓からすいっと飛んで(・・・)出て来たその子は小人族(フェアリー)なのだろう。

 俺の希望サイズよりも六分の一スケールで小さい。小さすぎる。

 しかも服を着ているとは。残念だ。


 ただ、ここでやっぱ止めたーと言うとひんしゅくものだ。


「構わないぞ。その大きさなら邪魔にもならない」


「わぁ、そうですか。ありがとうございます!」


 水色の髪のフェアリーは感激したようで、その場で宙返りして喜んだ。


「良かったじゃねえか、ロネッタ! じゃあ、後はよろしくっ!」


 男は慌ただしく馬車の御者台に飛び乗ると、馬を乱暴に鞭打って逃げるように走り去っていった。


「……なぜアイツはあんなに急いでいたんだ?」


「おそらくですが、フェアリーの伝説のせいではないでしょうか」


 ロークが言う。


「伝説?」


「ええ。フェアリーには人を惑わし魔物の顔に変えてしまうことがあるそうです。他にも、旅人に幸運をもたらしたりと、そういう良い伝説もあるんですけど」


 悪戯好きのフェアリーか。


「あくまでそれはウワサ! ウワサですから! 私は誓って、魔物の顔には変えたりしませんから、お願いします~!」


 羽ばたきながら空中で土下座する奴。


「いいだろう、困っているようだし、クロート方面へ連れて行ってやろう」


「わーい!」


 ロネッタが飛び回ると、彼女の足先からキラキラと光る星屑のようなものがこぼれ落ちていく。

 魔力的な何かだろう。


「では、改めて、よろしくお願いしまーす!」


 俺の鼻先まで飛んできたので彼女の顔が良く見えたが、屈託無く笑う明るい雰囲気の少女だ。

 サイズは身長二十センチ程度で小さいが、普通に人間の姿だな。背中の四枚羽が虫を思わせるけど。


「じゃ、馬車を出してくれ」


「はっ」


「それで、皆さんはどういう御方で、何をしにこちらへ?」


「俺達はラドニール王国の外交使節団で、俺はユーヤ。まあ、文官だ」


 初対面で素性も分からない相手なので、細かい地位はぼかしておく。

 まさか、暗殺されることは無いだろうけど、どこかの間諜(スパイ)だと面倒だものな。


「そのお付きのロークです」


「おお、お付きがいらっしゃる。ユーヤ様は高貴な御方なのですねっ!? おおー」


「いや、俺は別に貴族って訳でも無いから、普通の喋りでいいぞ」


「や、そーですか良かったぁ。私、ちょっとずけずけ物を言っちゃうことがあって、口は災いの元なんてよく言いますよねー。そっちの子は、妹さんですか?」


 俺が膝枕をしているレムはスヤスヤとお昼寝中だ。


「いや、この子、レムは妹じゃないんだけど――」


「ハッ! まさか、そっち系の奴隷!? 奴隷商人でしたか!? はわわわ……」


「いや、違うから落ち着いてくれ。さっき、ラドニールの文官だっつったろ」


「あぁ、そうでした、やー、私、お母さんから『お前はそそっかしいから、口を開く前に考えて行動おし』ってよく言われてるんですけど、でもノリで喋っちゃうしいちいち考えて喋れないですよねー」


「少しやかましいぞ。同行したいのなら、その口をもう少し閉じておくことだ」


 エマが注意した。

 こりゃ、さっきの行商も、騒々しいのがうざったくて逃げ出したのかもしれない。

 

 ……面倒なのを拾ったな。


 大袈裟に自分の両手で口を塞いでいるロネッタに一応、俺が紹介しておく。


「彼女はエマ。見ての通り竜人族だ」


「あー、魔族さんかと思いましたぁ。へー、竜人族ってこうなんですか。シッポ、太いですねー」


 やっぱ喋るね。


「私が耐えられなくなったらその場で追い出すから、覚悟しておけ」


 エマが言い、再びロネッタが両手でサッと自分の口を塞いだ。

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