第三話 勇者、餅を配る
2019/3/1 『第一話 餅つき前編』の冒頭部分に狼牙王国があの後どうなったのかの説明をちょっとだけ追加しました。また第四話でその辺の話が出てきます。
ラドニール城で新年を餅つきで迎えた。
もちろん、城の人間だけが餅を食べたのでは何のために高い金を払ってバッグス船長にジェスパまで行かせたのか分からない。
これはラドニール王国すべての国民のためなのだから。
「では、ユーヤ、私はこれを里に運んでくる」
エマと彼女が呼びつけた竜人族の仲間が小分けした餅を一杯に詰めた木箱を両手で抱えて言う。
お米もすでに渡してあるのだが、竜人族はちょっと不器用そうだし、料理とかしないイメージだからな。
作り方を教えても、ご飯で結構、とばかりに作って食べない気がしたので、完成品を一度試食してもらうことにしたのだ。
餅は乾燥さえすれば保存食として持ち運びも簡単だ。
さすがに、カチカチの餅は火で炙るか煮込むかしないと食えないが。
軍用の携行保存食も、今は干し肉とクッキーだけなので、他に開発する必要がありそうだな。
特に狼牙王国との野戦では、夜営で敵に発見されないように火を使わなかったりすることが多かったが、その時の食べ物や飲み物に少し苦労させられた。
「ああ、気を付けて」
「うむ」
竜人達が飛んで行くのを見送ったあと、俺は振り返る。
「さて、ローク、次は俺達も運ばないとな」
「ええ」
「運ぶー!」
兵士にも手伝ってもらい、城から餅を詰めた木箱を荷馬車で運び出す。
外は一面、真っ白な雪景色となってしまっているので、城下町の他はもうどうしようも無いのだが、せめてこの城下町の国民だけでも餅は配ってやりたい。
「では、地図通りに手分けして配りましょう」
「「「はっ!」」」
ロークが指示して、荷馬車と兵が散らばっていく。
「では、僕たちはここからです」
「よしきた。こんにちはー」
「こんにちはー!」
レムも一緒なので、やたら大きな声だ。ま、昼の挨拶だからいいけど。
「はいはい、何ですか」
「王城から来ました。国王陛下からの新年節の施しです。これはお餅という勇者の故郷の食べ物で、煮るか焼くかして食べて下さい」
「あらまあ、これはありがたいことで」
喉に詰まらせないよう、老人病人幼児の注意事項もきっちり伝え、家族に一つ行き渡るように渡していく。
できればひと箱どーんと手渡したいが、国民総数三万人、城下町だけで一万六千人いるので、残念ながらそうも行かない。
大きさも数が足りなくなったので、二つに割って五センチ弱のちっちゃい餅になってしまっている。
それでも、新しい食べ物であれば、喜んでくれる国民もいるだろう。
この国は三年にわたる大飢饉で一割の国民が飢え死にしていたのだ。
何をするにしても、生き残らなければ、次は無い。
「食べ物は足りそうですか?」
「ええ、おかげさまで芋が手に入りましたし、この冬は何とか越せると思います。蜂蜜もたくさんありますし」
蜂蜜は竜人国の南、アミガサタケ族から定期的にもらったものを流通させている。
彼らはその見てくれがあまりにも不気味なせいか、訪れる人間も少なく、訪問するだけで喜んで蜂蜜をくれるのだ。
タダでもらうのは気が引けるので、交換条件を付けたかったが、彼らは葉っぱを食べ、水さえ有れば自然と増えるそうなので、服も食べ物もお金も要らないという。
蜂に刺されてもへっちゃらな体を活かして、養蜂を大々的にやれば訪問客も増えると思うよと言っておいた。
「良かった。よし、次だ」
「おー!」
「はい、ユーヤ様」
何件か家を回っていると、気づいたことがあった。
防寒の必要性だ。
どの家の住人も着ている服が粗末で、重ね着はしているが、見るからに寒そうだ。
家の構造も雑で、薄い木のドアの下からすきま風が入り、暖炉で火を灯していても効率が悪い。
『衣食住』と言うが、やはり、食べ物の次は服と家をなんとかしなきゃだな。
家はちょっとすぐにはどうにもできそうにないので、まず服だ。
「ローク、この国の人達は、裁縫くらいは自分でできるよな?」
「ええ、たいていの家には針と糸が常備してありますし、破れた服は繕って使い続けないと、平民は貴族のようにはすぐ買い換えなんてできませんから」
「なら、ヴェネトから綿織物を仕入れて国民に配れば、服も自分達で作れるかな」
「そうですね。できると思います。糸も含めて、後で手配します」
「頼む」
狼皮紙と黒松露で国家予算にも余裕ができたので、それを使えば良い。
内政長官アンジェリカも風邪を引かないための福祉政策ということであれば、支出を渋ったりしないだろう。
家の方は雪が無くなってから、春に木材を調達してどうにかするかな。
だが、家を建てるのはやはり大工でないとできないだろうし、今よりもう少ししっかりした家を作って欲しいから、技術指導ができる大工を呼ぶ必要がある。
フィヨード王国のドワーフに酒を持っていって、何人か寄越してもらうかな。
女王ヒルデなら、何か対価を用意すれば許可もしてくれるだろう。
ドワーフと言えば、竜人族の北にもドワーフ族がいると地図にあったな。
(参照 あとがきの地図)
ジャンヌの話では、そこには炭鉱が有り鉄鉱石も豊富に採掘できるので、聖法国もドーアハイド山脈のドワーフ達から鉄や炭を買い付けているそうだ。
その他にも少量だが聖銀が採れるというから、ちょっと見てみたい。
ただし今、聖法国とは国交断絶の状態だ。
何せ戦争したばっかりだもんな。
聖法国とは直接剣を交えていないが、彼らと軍事同盟を結んでいた狼牙王国が未だ健在なのだ。
ロボウ王をガルバス将軍が上手く倒してくれたが、それで決着が付いたわけでは無い。
絶対的な国王を失い茫然自失とした彼らはいったん城に兵を退き、そのまま引きこもっている状態だ。
次の王を決めかねているようだが、決まればまた改めて宣戦布告してくるだろう。
さすがに、次は彼らも国王の本隊を減らすような愚は犯すはずはない。
次の戦いは隙も油断も無くなった本気の狼牙族と戦わねばならないのだ。
復讐に燃えた狼牙族とどう戦うか……
正直、まだ策は無い。
「ああ、いたいた。ユーヤ!」
「んん? ルルか」
黒髪の竜人族が空から降りて来た。
さすがに竜人でも雪の日は少し寒いらしく、獣の毛皮の上着とすね当てを身につけている。
下が寒そうなレオタード姿なのは謎だが。
歩きも苦労する積もった雪の上だと、空を飛べるのは本当に羨ましい。
「餅をありがとな! 旨かったぞ」
「ああ。ま、竜人族とは同盟関係だからな。気持ちだから気にしないでくれ。ところで、何か用か?」
「む、同盟関係なのに、用が無ければ来てはダメなのか?」
「いや、そうじゃないが」
「その餅は配っているのか?」
「そうだ。悪いけど、これは国民に配るヤツだから、くれてやれないぞ」
大事な餅なので、俺は箱を後ろに隠す。
「あのなぁ、アタシもそこまでは食い意地は張ってないぞ。どれ、手伝ってやろう」
「ええ?」
どういう風の吹き回しなのか、今日はルルがやけに親切だ。
「今回の戦だが、アタシが倒したわけじゃないが、ロボウ王に放ったアタシの矢があったからこそ! ガルバスが上手くやれたんだぞ?」
「分かってる。その話は何度も聞いたから」
「いいから、ちゃんと聞けっての。アタシのスキルは『幸運』ってのがあるからな」
ラドニールの国王から褒美ももらっているが、初の武勲でルルも自慢したいお年頃なのだろう。
「はいはい」
ルルも交えて、餅を配って回っていく。
ラドニールの新年は忙しいが、歩き回っていると体も温かくなってきた。
たまには外もいいな。




