第六話 生存圏の拡大
レムと三日間、リバーシをやった。三日間だ。
お解り頂けるだろうか?
このエンドレスのうんざり感を。某アニメ会社に骨を……ゲフンゲフン。
レムの方は飽きないようで何度も対戦をせがんでくるが、俺の方は堪ったものでは無い。
「ロークや兵士達とやれよ!」と言ったのだが、俺が前に『リバーシ帝王』と名乗っていたのがまずかった。「一番強いユーヤが良い!」と言ってご指名で来るのだ。
「いや、聞いてくれ、レム。実は帝王の上には覇王という、もっと強い称号があってだな……」
「えっ! ホント!」
「そうだ。そして奴が『リバーシの覇王』! 黒い馬に乗ってあの世紀末・覇王伝説を作ったのだぁ~!」(裏返り声)
俺はちょうど部屋にやってきた金髪の王女、リリーシュをズビシッ!と指差す。
「おおーっ! 覇王か!」
レムがキラキラした瞳でリリーシュを見るが。
「私、黒い馬なんて乗らないわよ。あと覇王でも無いし」
全然話に乗ってくれない。
「愛が無いなあ」
「な、なんであなたに愛があるのよ」
「いや、レムに対しての愛だろ、そこは。幼い子として未成年ドラゴン保護法なんてものを作ったんなら、それくらい優しさがあっていいんじゃないのか?」
「それとこれとは別よ。こっちも忙しいんだから。誰かさんが城を壊してくれるし」
「む、すまんかった」
レムが素直に謝る。
「ああ、レムちゃんは悪くないわ。部屋にドラゴンを連れ込んだユーヤが悪いのよ」
「いや、あれはレムが勝手に忍び込んできたんだぞ? 連れ込んではいない」
「そう。とにかく、これから私は森の巡回だからまたにして」
忙しそうな王女様だ。
「お。レムよ、リバーシよりもっと面白い遊びを教えてやろう」
「えっ、なになに?!」
「それは――――巡回だ!」
ばばーん!
「ふおお……巡回!?」
よし、知らなかった。勝った!
「知らないわよ、そんな適当なことを言って後でどうなっても」
リリーシュが腕組みをして言うが。
「ええい、巡回を馬鹿にするんじゃ無い。定期的にポイントをチェックして、敵の存在を索敵する、それはそれは奥が深いゲームだからな。先に発見した方が勝ちだ。リリーシュなんて大好きでいつもやってるぞ」
指差して言う。
「おお。ちょっとやらせて!」
「いいだろう」
「ま、付いてくるだけならね。だいたい、私は遊びじゃ無くて仕事なんだから……」
リリーシュが許可してくれたので、俺とレムとロークで森に入った。
「おや、見かけない子がいるね。ほら、おばちゃんが、さっきとった苺をあげるよ」
同行しているおばちゃんの一人がレムに野いちごをくれた。
今はレムも人間の姿をしているから、誰も怖がったりしない。
正体を知っているのは俺達と一部の兵士だけだ。
「ふむ? くんくん、これは食い物か」
「そうだが、レム、物をくれた人にはちゃんとお礼を言わなくちゃダメだぞ?」
人間界に疎いドラゴンには色々と教えておいた方が安全だろう。そう思って俺は言っておく。
「おお、親父様も礼儀を言っていたな。では、かたじけない!」
「ふふっ、武家の子かい? 可愛いねえ」
「ほんとに。おばちゃんは木の実をあげるわね」
「かたじけない! んまんま、酸っぱくて美味しい! こっちも苦くて美味しい!」
何でもいける口か?
ドラゴンがマズいと思う味ってなんなんだろうな?
こいつは人間を食ったことはまだ無いはずだから、食わさないようにしないといけないが。
「た、大変だよ! ああ、姫様! 良かった!」
森の向こうから、おばあさんが一人慌てて走ってきた。
「どうかしたの?」
「それが、猫耳族が『今日からここはあたしらの縄張りだ!』なんて言うから、若い子と喧嘩になっちゃって」
「ええ? まずいわね。誰かが大怪我をする前に止めないと。分かった。場所は向こうね?」
「ああ、沢に降りる方だよ」
「すぐ行くわ。兵士は全員ついてきて!」
「はっ!」
リリーシュが兵士を引き連れて現場へ向かった。
「じゃあ、レム、俺達はちょっとこの辺でのんびり木の実でも集めていよう」
猫耳族とは獣人のことだろう。俺の萌え萌えセンサーが反応して「父さん向こうです行きましょう!」と誘惑するのだが――
大事なことを思い出せ。
ロークの話や、城の書物では『獣人は人間より力が強い』と記されていた。
人間の方が弱いから奴隷にされたりするのだ。
君子危うきに近寄らずと言うからな。
「面白そう、オレ様も行ってみる!」
「あっ、ちょっと! おい待て、レム!」
くそう、フリーダムな『オレ様幼女』は扱いにくいな。見た目コギャルで美形なのはグッドだが、それ以外に利点が全くない……!
早く追い返すか、俺好みに教育しないと。
中身がレッドドラゴンなだけに、また変身して誰かに怪我をさせたり、森を焼かれたらしゃれにならん。
俺はゼエゼエ言いながら必死にレムを追いかけた。
くそっ、幼女のくせに、足はええ!
「ニャーハッハッハッ! ニャーハッハッハッ! ざまぁ見ろニャ! 猫耳族に人族が敵うわけないニャ!」
森を少し下った所の開けた場所で、猫耳女が高笑いしていた。
獣人と聞いていたから、猫が二本足で立っているパターンかと思ったが、ベースは普通に人間だった。
ネコミミとシッポを付けただけのコスプレにしか見えない。
ただ、原始人みたいなみすぼらしい布を腰と胸に巻いただけで、文明レベルはかなり低そう。
「あそこよ!」
「うう」
「いたたた……」
殴られたか引っかかれたか、おばちゃんと少女が怪我をして倒れている。
兵士がすぐに駆け寄って手当し始めた。
「なんて酷いことを。相手の縄張りには入らないって取り決めがあったでしょう!」
リリーシュが怒りながら言う。
「だから、縄張りを広くしたんだニャ。今日からここはあたしらの縄張りニャ!」
うーん、堂々と領土侵略と協定破りを認めたかぁ。確信犯だな。こりゃ、話し合いの余地は無さそうだ。
「なんですって……あなたたちの長はそれを知ってるの?」
「フフン、当然ニャ。なんたってアタシが新しい長だからニャ! このフーテンのアオイ様の名を覚えておくニャ!」
青色の髪でウェーブが掛かったショートカットの髪型のコスプレ娘が決めポーズを取る。いや、こちらの世界ではリアル猫耳族なのだが。
こいつら、本当に戦闘力が強いのか? 見た目、華奢なんだよなぁ。
それにしてもフーテンって……意味を理解して言ってるのかね。
「認められないわ。ここは人間族ラドニール王国の領土よ」
「認めなくてもどうでもいいニャ。悔しかったら掛かってくるニャ! シッシッ!」
その場でステップを踏んでボクシングの格好をしたアオイだが、こちらの方が兵士の数が多いのに、勝つ気満々だな。
「くっ……、この場は引くわ。でも、外交ルートを通じて抗議が行くから、そのつもりで」
「かったるいニャ、この場で勝負するニャ!」
バリバリの武闘派なのか、アオイはそのまま素手で突っ込んで来た。
「ええ? ちょっと!」
リリーシュが戸惑いつつも剣を抜いて威嚇する。
だがサッとそれを避けたアオイは素早い!
今の、四メートルは軽く横に跳んだだろう。
そのまま横に着地してあわよくばリリーシュの背後を取ろうとするアオイに対し、リリーシュも機敏に体の向きを変えるとすぐに鋭い突きを放った。
こちらもやたら素早い。突きの残像が普通に何本も出てるし。
ちょっと待て、これが異世界の戦闘ってヤツなのか。
オラ、なんだかすっげえやべえところに来ちまった。歯がカタカタ言ってるぞ。
「ニャ!? コイツ、思ったより速いニャ」
「お嬢、そいつはラドニールの『剣姫』、向こうで一番手強い奴ですぜ。そうと知ってて殴りかかったんじゃないんですかい?」
「ニャに!? 全然知らなかったニャ。んもう、それを早く言うニャ! 危うく死ぬところだったニャ! オマエ馬鹿ニャのか!」
「いや、それを言うなら、族長のくせに知らないお嬢が馬鹿なんですぜ」
「う、うるさいニャ!」
そこで初めて腰の武器ショートソードを抜いたアオイがまた斬りかかる。
リリーシュは剣の角度を細かく変えて、アオイの乱暴な力任せの連続斬りを器用に防ぎきった。
ただ、リリーシュが反撃しても剣は空を切り、これはアオイの方が少し優勢かな。
人間の身長より高く垂直ジャンプができる猫耳族の瞬発力。これはそれだけでも俺達にとっては脅威だ。
「ハッ! 何をしている! 姫様をお守りするのだ!」
自分達の役割を忘れて観戦しかけていた人間の兵士達だったが、隊長が叱咤し、ようやく我に返って猫耳族に斬りかかる。
「おお、これは面白そうだな! ねえ、ユーヤ、オレ様はどっちに付けば良いんだ?」
レムも参戦の意思を見せるが。
「いや、どっちにも付くな。これはもう巡回じゃないぞ」
レッドドラゴンが本気で暴れたら、怪我人どころの騒ぎでは無いので、俺は真面目にそう言っておく。
ここで族長のアオイを殺したりしたら、完全に開戦だものな。
いくら腹の立つ事があったとしても、準備も何も無しで戦争をふっかけるのは最悪の選択だ。
「ええ? つまらん!」
「いいから帰るぞ、レム」
戦闘で役立たずの俺は、この場を離脱しようと思っていたが、足を止める。
もう一つだけ、大事なことを確認しておかなきゃな。
「アオイ! 一つ聞きたいことがある」
「なんニャ、今、それどころじゃニャいんだが、ウニャっ!」
「お前達はなんで縄張りを広げたんだ?」
「決まってるニャ! 飢え死にが出て、食べ物がもっと無いと、やっていけないからだ!」
生存のための領土拡大か……。
大元の原因は、王様が言っていたが、ここ三年間の大凶作かな。それは当然、ラドニールだけでなく周辺国も同じ状況なのだろう。
悲惨だな。
なら、なおさら争っている場合じゃ無いと思うんだが、すでに戦闘中だ。
冷静な話し合いができる状態じゃ無い。
説得できる可能性もあるかもしれないが、失敗し逃げ遅れれば殺されかねない。
リリーシュの足も引っ張ってしまうだろう。
「リリーシュ! いったん態勢を立て直せ!」
俺は離脱しながら叫ぶ。
ここは援軍を呼んでくると言いたいところだが、それだとアオイも援軍を呼んでしまって即、戦争の始まりだ。
「そうね。全員、退け! しんがりは私が受け持つ!」
王女がしんがりなんて地球史では前代未聞だと思うが、ラドニール最強の剣士なら有りだろう。
だが、確実に逃げられるかどうかは分からない。
仮にリリーシュが命を落とそうとも、第一王女である姉様が残っていればなんとかなる……か。
戦術としてはそれは正しいのだろう。
だが、俺は知り合いの女の子を犠牲にして自分が逃げるのはなんだか嫌だった。
仕方ないな。
「レム! 『しんがり』という凄いゲームを知ってるか?」
「なになに!?」
お前ならきっと食いついてきてくれると思ったよ。
ブクマと評価、ありがとうございます!
次回も明日19時投稿予定です。