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第二十五話 見つからなければ呼び出せばいいじゃない

 なんとかブラック・サーベル・パンサーをを倒した俺達だったが、エマも怪我をしてしまったし、兵士の中には意識不明の重体の者も出てしまった。


「じゃ、レム、頼んだぞ」


「分かった!」


 作戦『命を大事に』である。


 ラドニールは人口も少なく、特に若い男は労働力としても貴重だ。

 結婚して子宝も作ってもらわないと次の世代に続かないからな。

 なので、重傷者のエマと兵士三人を、レムの背中にくくりつけて空輸し、ラドニール城で治療してもらうことにした。

 少なくとも戦場のここよりは、ベッドの上の方が安全だし助かる確率も上がるだろう。

 救急ヘリならぬ、救急レムだ。


 しんがりスキル持ちのレムを側から離すのは俺も不安があるが、今は怪我人の方が俺よりもレムを必要としているからな。


「じゃ、レム、そっと飛ぶんだぞ。あと、吠えてもダメだぞ」


「んもう、そんなこと分かってるよ!」


「ユーヤ、不甲斐ない護衛ですまない」


 エマが弱気になったのか、そんなことまで口にするし。

 前は監視役だったのにな。


「いいって。ちゃんと俺の命を守ってくれたじゃないか。またエマに守ってもらうから、今はしっかり治療に専念してくれ」


「そうよ。ユーヤの護衛は私がちゃんと引き受けるから。後は任せておいて」


「分かった」


 エマもそれで安心したか、頷いた。


「じゃ、ルルによろしくな」


「ああ」


 大人しくエマをベッドに寝かせて治療に専念させるには、彼女の妹の力を借りる必要がありそうなので、言い含めておいた。

 エマはしぶしぶではあったが了承してくれた。「アレ(ルル)は使えぬ」と言うことだったが、竜人族としての才能(ポテンシャル)はあるんだから、長い目で見ようと俺は言っている。

 

「よし、いいぞ、レム、行ってくれ」


「おー! じゃ、ラドニール城に向けてしゅっぱーつ!」


 レッドドラゴンの姿になっているレムが羽ばたいて空に上がっていく。

 



 ――それから五日が過ぎた。

 そろそろ、レムが戻ってこないとおかしいのだが、ラドニール城で何かあったのか。

 下手をすると、行き違いで狼牙(ローガ)軍本隊がラドニール城を包囲している可能性もあるか?


 だが、ラドニールからオルバまで馬車で五日の距離がある。

 さらにそこから狼牙ローガ国までは八日かかると聞いている。

 だから、反対に狼牙ローガ軍もラドニール城まで到着するのに、それだけの時間はかかるはず。

 まだあと三日ほどは余裕がある計算になる。


 しかし、もう残り三日しか無いか。


「おお、斥候が戻ってきたぞ!」


 ガルバス将軍が期待のこもった声を出した。

 俺も一緒にお出迎えをする。


「で、どうだ、本隊は見つかったか」


「いえ、残念ながら。北に狼牙国の砦と少数の守備兵を見つけましたが、規模からして本隊とはとても思えません」


 兵士も落胆の報告だ。


「うーん……」


「分かった。ご苦労であった。しっかり休め」


「はっ!」


 ガルバスは見つからなくても斥候を叱責すること無く、(ねぎら)いの言葉をかけた。

 その辺は見習わないとな。敵国の将だったとは言え、名のある老将(ベテラン)だ。

 見習うべきところは多い。


「ユーヤ、話がある」


 リリーシュが硬い声で言ったが、そろそろ限界かもな。

 彼女は王女のであると同時にラドニール王国の将軍であり、その本分は、ラドニール城と王国を守ることである。

 敵の総大将を討ち取るのも重要なお仕事だが、これだけ探して見つからないとなると、彼女は城に戻りたがるだろう。


「聞こう」


「ええ。これだけ探しても見つからないし、そろそろ狼牙軍がラドニール城に着いてもおかしくないわ。今から引き返す時間も考えると、早めに城に戻りたいのだけど」


「そうか……」


「ユーヤの作戦も良いとは思ってるわよ? でも、敵の親玉を叩く前に本拠地が落とされたら、負けだもの」


 リリーシュの言うことは正しい。


「分かったよ。それなら、戻ろう」


 残念だが、時間的にもギリギリだろうし、いくら国王陛下から軍師に任命されたとは言え、戦の専門家であるリリーシュの意見は無視できない。


「軍師殿、我が部隊はこのまま残ってお付き合いいたしますぞ」


 ガルバス将軍が残る意思を見せてくれたが、軍を二つに割るのは下策だ。

 戦力が半分になるからな。

 正確な兵数としては、リリーシュの騎馬隊と歩兵隊を合わせて二千二百、ガルバスの騎馬隊は四百足らず。しかし、敵の数はもっと多いのだ。

 

 ちなみに募兵で新しく増やした五百人はすべてラドニール城の守備兵としている。

 急ごしらえの素人部隊じゃ武器もろくに扱えないものね。

 移動するだけの行軍にも軍隊としては訓練が必要なのだ。


「あ、なんかずるい。それなら私がユーヤと一緒にここに残って、うーん……あなたにラドニール城には入って欲しくないわね」


 リリーシュがガルバス将軍を見て渋い顔になるが、かつての敵同士、やはり不安も残るだろう。


「では、ここはやはり、僭越(せんえつ)ながらそれがしが敵の総大将を討たせて頂く。これをもってラドニール国王陛下への忠義とさせて頂こう」


 ガルバス将軍が笑顔で言う。


「分かったわ。じゃあ、ユーヤ、頑張って」


「お、おう」


 こういう話になると「あ、やっぱ俺も帰りたいんですけどー」とは言い出しにくいな。

 ガルバス将軍の忠義うんぬんの話になっちゃったし?

 彼を一人で行動させるのは、寝返ったばかりでちょっと問題があるんだよなぁ……。


「では、直ちにラドニール城へ帰還する! リリーシュ隊、出発! 騎兵で先行する! 歩兵隊は後から付いてこい!」


 あっと、命令早いね、リリーシュ。もう行っちゃった……。


「では軍師殿、ご下知(げち)(たまわ)りたく」


 ガルバスがこちらの指示を聞く姿勢は示してくれているのだが。


「ガルバス将軍の方こそ、良い案はありませんか」


 俺も正直、困っている状況だ。


「それがしの案としては、敵の本城に一矢(いっし)(むく)いる、ですかな」


「城攻めですかぁ……」


 残念ながら俺達は攻城兵器を持っていない。

 籠城戦の経験は俺にもある。半年前の『南部獣人連合』戦だ。

 その時は守る方で攻める方では無かったけれど。

 だが、籠城戦で何が起こるかは理解できているつもりだ。


 あの時の経験に基づけば、敵の本丸に攻め込む側は多大な犠牲を払う羽目になるだろう。

 だからこその「一矢報いる」

 ガルバス将軍も勝てると言っているわけでは無いのだ。


 それも武将の美学なのだろうが、俺としてはもう少し悪あがきしたいところだな。

 ハッキリ言って死にたくないし。

 それに何より、おかしな言いがかりで戦をふっかけてきた連中にラドニールが負けてしまうのは面白くない。


 だが、戦の勝敗は、動機の正しさとは限らない。

 戦術の正しさが必要だ。


 勝つためには、何が正解か?


 色々考えつくが、やはり確実を期すならば、アレだ。


 やはり狼牙軍本隊への奇襲、それしかない。


 織田信長ってどうやって今川軍の本隊を見つけたんだろうな?


「敵の本隊が、のこのこ少数で油断してやってくるスキルとか無いのかなあ?」


「さて、聞いたこともありませんぞ、そんなスキル」


 そう言えば、今川軍は上洛が目的で、京都を目指していたはずだ。

 尾張を通ったときには、どこかの城を落とそうと方向は少しズレていたかもしれないが。


 どのみち、軍隊は目的があって動くものだ。


 ――なら、こちらで目的を作ってやれないかな?


「あっ、ひらめいた」


「ふむ?」


「ガルバス将軍、あなたが敵の総大将だったとして、どうしても兵を動かしたくなる状況ってどんなのがありますかね?」


 一応、経験豊富な将軍にも聞いて確認しておこう。


「さて、それがしならば、寡兵(かへい)で城下町を荒らされたり、ほう……砦を落とされれば、イラッとして兵を動かしたくなりますな」

 

 ガルバス将軍も頭の回転が速い。俺のひらめきが今のやりとりで分かったようだ。

 寡兵とは少数の兵のこと。


「ちょうど、さっきの斥候が、北に少数の兵の砦があると報告してくれてましたよね」


「うむ。では、直ちにその砦を落とすとしよう」


「落とせますか?」


「なんの! 王城ならば攻城兵器も必要であろうが、砦ごとき、このガルバスにお任せあれ! 一日で落としてくれましょうぞ!」


 おおう、なんか頼もしいね。

 前に、リリーシュに砦の防衛を頼んだ事があったが、普通ならば三日は防衛できると彼女は言っていた。


「では、将軍の実力、とくと拝見させて頂きましょう」


「心得た! 全軍、北の砦に向かうぞ!」


「「「 応! 」」」


 にわかに、漆黒の精鋭四百騎が動き出した。

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