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第二十話 変身!

 ぶつかって壁が少し崩れたが、そのままレムは床に両足でしっかりと着地した。

 無事のようでほっとする。

 ま、人間の姿をしていてもレッドドラゴン、この程度じゃやられない。


「もー怒った! エマ、ユーヤの目隠し!」


 レムが叫ぶ。


「承知した!」


 隣の部屋から駆けつけたエマが応じる。あっ!


「げぇ、しまった! 総員、この部屋から退避ィイイイ――!!!」


 変身していいとは許可を出していたが、俺が(・・)どうなるか久しぶりだったのでちょっと忘れてたわ。

 慌てて部屋からダッシュ!


 周囲の石壁がドゴン!と粉々に砕け散り、どうやらレムが本当に変身したようだ。

 ふう、間に合った。


「ぎゃあ」「ぐえ」


 逃げ遅れた兵士の悲鳴が聞こえるが、ま、これは仕方ない。

 彼らも衛兵を勤め上げる兵士として覚悟くらいはできてるはずだ。成仏してくれ。


「GUoOOOOOO―――!!!」


 レムが咆哮する。

 ビリビリと空気が震え、ひゃー、恐い。


「あ、レム、炎は無しな」


「エー?」


 危ねえ、マジでブレスを使う気だったのか。

 俺まで焼け死ぬわ。


「うぬう、これほどとは、参った!」


 部屋の中がどうなったのか見えないのでよく分からないが、ゴーマン将軍の降参の声は聞こえた。


「もういいぞ」


 エマが言い、避難していた俺とロークとジャンヌがおそるおそる部屋の中に入る。

 見事にボロボロになった部屋の中には……座り込んだゴーマン将軍と、倒れた兵士達、それに胸を張っているレムがいた。


「どーだ、参ったか!」


「参った! さすがはドラゴン、これは敵わぬ」


「ふふーん。言っておくが、勇者ユーヤはオレ様に勝ったぞ!」


 レムがビシッと俺を指差して自慢げに言うが。オイ。


「なにっ!? そうなのか」


 うわ、どうしよ。リバーシでは勝ったけどね。


「まあ、特殊ルールで……」


 小声になる俺。


「おお、さすがは勇者! 人間にも強い奴がいたか!」


「ゴーマン将軍、お怪我はありませんか」


 ジャンヌが仏頂面で聞く。


「なあに、ちょっと痛めつけられたが、なんともないぞ、ガハハ!」


「では、勇者様はもう夜中ですので、お休み頂きましょう。この件については書面でロボウ国王に抗議させて頂きますよ」


「勝手にしろ」


「怪我人の手当を。こちらはもう結構です、ユーヤ様」


「ああ。死人は……」


「出してないよ!」


 レムが言ったが、ちゃんと人間を襲わないという俺との約束は守ってくれているようだ。

 怪我については俺が頼んだことだし、大目に見よう。


「偉いぞ、レム」


「うん!」


「ちょっと、何が有ったの?」


 リリーシュが騒ぎを聞いたか駆けつけてきた。


「ああ、ちょうどいいや、『狼牙(ローガ)国』のゴーマン将軍が中にいる。君も挨拶してくればいいよ。きっと凄く馬が合うと思うから」


「ええ?」


 さて寝よう。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 

 翌朝、ふてくされた顔をしたリリーシュが俺の部屋にやってくるなり、剣を抜いて見せた。

 ぽっきりと刃が途中で折れて無くなっている。


「私の剣が折れたわ」


「だろうな。あの金棒はまともに受けたらダメだろう」


「そうだけど、あんなに強い相手なら、先に警告くらいしてよ」


「危なかったのか?」


 ゴーマンは純粋に手合わせを楽しんでいたようなので、手加減はしてくれると思ったが。


「そうじゃなくて、最初は向こうが『女とは手合わせしない』なんて言うから、『私も剣が使えますけど』って言ってやったのに、それでボロ負けしたから、とんだ赤っ恥だわ」


 幼女と手合わせしておいて、ゴーマンも何言ってるのやら……。


「まあ、人間じゃアレは勝てないだろう」


「そうねえ。でも、伝説の初代勇者は、魔王にも勝ったんでしょ?」


「俺は良く知らないけど、そうらしいね」


「ゴーマン将軍には、一度『狼牙国』へ遊びに来いって誘われちゃった。その内にって答えておいたけど、良かったかな?」


「いいんじゃないか? 君なら平気な気がしてきたよ」


「それ、どういう意味なのかしら」


「別に。俺ならヤバイって意味かな。手合わせなんて無理無理」


「ああ、確かに、文官のあなたはあの国は向いて無さそうね」


「だろう? エマとレムを連れて遊びに行けば良いよ。俺抜きで」


「うーん、後でお父様と姉様と相談して決めるわ」


「ああ。それがいいだろう」



 朝食を食べた後、聖法国の城下町をジャンヌに案内してもらった。


「おお、ジャンヌ様」

「ありがたや、ありがたや」

「ジャンヌ様ー!」


 至る所でジャンヌは人気者のようで、街の人たちが拝んだり名を呼んでありがたがっていた。


「良い国ですね」


 俺はお世辞抜きで言う。

 オルバの町の人は、ほとんどの人が質素な格好をしているが、極端に貧しい人がいない。

 家も似たような大きさの物が立ち並び、大聖堂は豪華絢爛だったが、それ以外は平等のようだ。

 人々が自然な笑顔で統治者を崇めるのは、良い統治の証だ。


 ま、目に見える部分では、という条件付きだが。


「ありがとうございます。ただ、人間族がこれまで酷い扱いを受けていた裏返しの部分もあります。私達には普通の暮らしでさえ、かつては夢のまた夢でしたから」


「獣人族が見当たらないようですが」


 俺は少し微妙な話を向けてみる。ここで出会った司祭の幹部達も全員人間族だったからだ。

 では、以前の支配階級はどうなったのか、と。


「彼らは自分からこの国を出て行きました。私達は平等でさえあれば良いと思っているのですが、奴隷が反乱を起こして国を乗っ取ったわけですから、獣人達には気まずかったり気に入らなかったりしたのでしょう」


 ジャンヌが少し悲しそうな微笑みで答えた。


「行き先はどこへ?」


「『狼牙(ローガ)国』がほとんどだと聞いています。あそこは狼人間(ワーウルフ)、獣人の国ですから」


「なるほど。彼らとは同盟関係だそうですが、良く結べましたね」


「あれは、元から獣人国オルバが結んでいた物で、私達はそれを継承しただけです。すでにお気づきかもしれませんが、対等という関係ではありません。食べ物や金貨を上納して、こちらが負担しています」


「それって同盟じゃ無くて属国なんじゃ……」


 リリーシュが言う。


「そうかもしれません。ただ、彼らはそこまで巨額の要求はしていませんから、用心棒としての傭兵代と思えば心強い面もあります」


 聖法国にとってもそれなりに利益があるから続いている同盟ってことか。


「反乱の時に『狼牙国』が動かなかったんですか?」


「そこは私達も手を打ちましたから。彼らに介入されては勝ち目などありませんでした。狼牙族は下位種の政治を『取るに足りぬ雑事』と考えるのです。王位を巡る王位継承権の争いにも彼らも不干渉を貫きます。ですから、王位争いとして認定してもらったわけです」


「その王位は誰が?」


「聖女アルマです」


「ああ」


 七年前に王位を継ぎ、人間族の希望の光となった少女。

 ジャンヌの実の妹だそうだから、その頃にはまだ年端もいかない幼き少女だったはずだ。


 神がもたらした奇跡。


 何らかの回復系スキルがあるはずだが、国一つをひっくり返したのだ。

 この姉妹を甘く見ない方がいいだろうな。


「ふふっ、そう難しい顔をされなくとも、アルマはとーっても気の優しい子ですよ。私とは違います」


 ジャンヌがそう言って微笑むが、本人はともかく、周りはどうかねえ?

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