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第十話 重さ

 大陸歴527年10月25日。

 麦の収穫もすっかり終わって、肌寒い季節になってきた。

 そして、俺が待ちに待ったお米の試食会だ。

 白ご飯だ!


「おお……」


 すでに試食は済ませている俺なのだが、箸で食べてちょっと感動。

 ほかほかの白米はまるでその一粒一粒が宝石のようなありがたさがある。


「これ、おかずと一緒に食べると美味しいわね!」


 リリーシュもかなり好印象だったようで大きく頷きながら言う。彼女も試食済みだが、こうしておかずを添えてという感じじゃなかったからな。


「んまんま」


 レムも夢中になって茶碗のご飯を小さな口に掻き込んでいる。


「これがユーヤ様の故郷の味ですか。いいですね」


 アンジェリカも気に入ってくれたようで微笑んでいる。


「うむ、うむ」


 エマも感想は言っていないが、スプーンが止まっていないので美味しいのだろう。


「麦の種類も増えましたし、これは来年の作付けをどう割り振るかで迷いそうですね」


 ロークも笑顔で言う。

 この米は海向こうのジェスパ王国から持って帰った品種だ。種がこの土地で育つか不安もあったが、上手く行った。



 ここで、ちょっと恐い話をしよう。


 バッグス船長がジェスパの大商人と取引して手に入れられた米の種籾は500俵、重さだと合計で30000kgだそうだ。

 ちょうど30トンである。

 全長30メートル級のこじんまりした船にどうやってそんなに詰め込めるのか不思議だったが、バッグス船長は「まだまだ余裕で乗せられるぜ?」と笑っていた。

 船が沈んじゃ困るから、俺はそれ以上は頼む気にはなれなかったけど。


 驚いたのはジェスパ側の荷運びの人が俵をロープで結んで一度に五個!も運んでいたことだ。

 一つ60キロの俵を、である。

 300キロを一度に持ち上げて運ぶなんて絶対スキル持ちだろうと思ったのだが、彼らはスキル無しの一般人だという。

 さすがに持ち上げる時は他の人に手伝ってもらうようだが、バーベルスクワットの世界記録って何キロだっけ?


 ――さて、俵の重さは、まあそれはそれでちょっと驚いた話なのだが、それは恐い話では無い。

 恐い話というのは、ラドニール王国の小麦の生産量だ。

 

 大陸歴526年度の小麦の収穫量は1451220キログラム、約1451トンだ。

 俺がこの異世界に呼び出される前の年の収穫量である。


「ふーん、そんなもんか。ローク、この国の人口と、一人が年間に食べる量はどれくらいなんだ?」


「それは……」


 何気なく聞いたのだが、ロークの顔がさっと陰り、彼は視線を下に落としてしまった。


「あ、いや、国家機密なら言わなくて良いんだぞ? 聞いてダメな情報ならそう言ってくれ。俺はまだ死にたくない」


「いえ、そんな。ユーヤ様はすでに軍師という高位の役職に就いておられます。それでなくとも、我が国の生産量や消費量は隠したりするような情報ではありませんから。ラドニール王国には人の命を奪うほどの機密情報はありませんよ」


「そうか、なら……」


「はい、ラドニール王国の人口は約三万人、成人一人が年間に食べる小麦の量はだいたい180キログラムです」


 初代勇者が広めたのか、この世界でもキログラム単位だ。基準となる原器をどうしたのか気になるが、まあ細かいことは良い。

 人口と一人分の食べる量が分かっていれば、いずれにしろ必要量が計算可能だ。


「180キロか、ちょっと待ってくれよ、計算するから」


 大量生産して今や使い放題ヤッホウ!の安価な狼皮紙に俺は計算式を書いて、計算してみた。


 30,000人×180kg=5400,000kg

 王国で年間必要な小麦の量、約5400トン

 王国の一昨年の収穫量   約1451トン


「あれ? ケタを間違えたか? んん?」


 二回計算しても、ケタは合っていた。

 全然足りていない。


「ケタは間違っていません。それだけしか我が国は穫れないんです」


「いやいやいや、必要量の3分の1も無いじゃないか」


「はい……そうです」


「えええ?」


 それで良く生きてるなと思ったが、国王は飢え死にが出ていると言っていたっけ。

 オイオイ……いったい何人死んでるんだよ。


「種籾すら無くなって、ユーヤ様が来てくれなかったら、冬は本当に恐ろしいことになっていたかもしれません」


「うわー。ちなみに、今年、秋に穫れた量は?」


「はあ、それが、今年は天候も四年ぶりに回復していて良かったのですが、1470トンくらいでした」


「ほとんど前と変わってないな」


「ええ。連作障害です。なるべく休耕地も入れているのですが、家畜がいないと地力がなかなか回復しないので」


「ああ……」


「ですが、他の食物で(しの)げるようになったので、なんとか来年の種籾は残せると思います」


「種籾ってどれくらい必要なんだ?」


「はい、収穫量がだいたい撒いた種の三倍ですね。だから本当は900トンくらいは種だけで確保しておきたいのですが」


「ん? ローク、必要な種は1800トンじゃないのか?」


「ああ、いえ、すみません、ユーヤ様、王国には二期作の大麦の収穫もあるんです。だから小麦の必要量はその半分でいいので」


「なんだ……それを早く言おうよ、ローク君」


 俺は笑顔になって大麦の収穫量を聞いたが、笑顔が引きつった。

 そっちも(・・・・)全然足りていない。

 秋植えの大麦の収穫量は去年で1627トン。

 今期はまだ十月に植えたばかりで収穫は五月頃になるそうだ。


 つまり、仮に去年と同じ量の大麦が今年の五月に収穫できたとしても、

 

 小麦1470トン

 大麦1627トン


 合計3097トン


 必要分 5400トン

 不足分 2303トン


 =ヤバイ



「でも、ユーヤ様が仕入れてくれたお米、アレが救世主になりました。あんなに穫れるとは」


 ロークが言ったが、秋のお米の収穫量は720トン、種籾が30トンだから、収穫の倍率は24倍と小麦よりもずっと良い。

 だが、米を入れても1600トンほど、30%も不足だ。


「今年も人口が10%くらい減るでしょうから、みんなが二割ずつご飯を我慢すれば何とかなります」


 何とかなっていないのに笑顔を見せるロークが痛々しくて俺は顔を背けた。


 決めた!

 もっと米を輸入だ!

 米は連作障害も無いからな。


「とにかく植えられるだけ全部植えて行こう。開墾もやってさ」


「はい、そうですね」


 とにかく食える国で無いと、次の手が打ちにくい。

 栄養失調で死人がばたばた出ている状況では国民も元気が出ないし、国の生産力も上がるはずが無いのだ。

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