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ハズレ勇者がチート無しで活躍できる七つの秘訣  作者: まさな
第二章 人を集めるために必要な事
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第二十話 仲間との出航

 ジェスパ王国の出島領主、セリア。

 茶屋娘がその姿を見ただけで安心し、信頼していた相手だ。公正な領主なのだろう。

 俺達の裁判でもきちんと双方から事情を聞いた上での、理性的な判断だった。


 一方で、ジェスパは異国人をかなり警戒している。

 おそらく、彼らにもそれなりの事情があってのことだろうが、ここで俺達がスパイや奴隷売買目的で入り込んだと疑われるのは事だ。

 最初から勇者と名乗っておけば良かったのだが、千年前に魔王を倒した勇者なんてのはお伽噺と思われているようだし、かえって信用を失いかねいと判断したのだ。

 とにかく、今は黙っていたことを謝罪した上で、本当のことを話し、信用してもらうしか無い。


 これも、醤油と味噌のためだ!


 あ、いや、それだけじゃなく、この国との交易が開ければラドニール王国は大きな飛躍が可能になる。

 ジェスパは世界地図にもあまり詳しく載っていない辺境の、さらに東の国だ。

 となれば大陸において、ジェスパと取引している国は少ないだろう。

 しかも風習や生産物が違い、大陸においては知られていない希少なモノ、米もあった。


 レアな物品はそれだけで価値を持つ。希少価値だ。


 俺は『自分の国の食べ物は自分の国で作る』地産地消がベストだと思っているが、ラドニールに元から存在しない物を輸入するのは別だ。



「勇者とは、かつて魔王を倒したという人間族のことか」


 セリアが確認してくる。


「はい。私にその能力があるとはとても思えませんが、ラドニール王国秘伝の召喚術によって異世界から呼び出された人間です」


「ううむ、にわかには信じられんが……竜人族が貴殿に付き従っているのは貴殿が勇者だったからか」


「そうかもしれませんね。それについては本人にご確認下さい。とにかく、私の故郷の世界では昔、胡椒という調味料が大変に高価で取引されたことがあります。『胡椒一粒が黄金一粒』と言われるほどにです」


「それだけ高価ということは、とても美味しかったのか?」


「いいえ、肉にかけるととても美味しいですが、それ以上に流通量が少なく、産地が遠く限られていたことが原因です。レアアイテムですね」


「ふむ。だが、味噌や醤油など、この国では珍しいモノでもなんでも無いぞ?」


「この国ではそうでしょう。ですが、西大陸では珍しいのです」


「なるほどな。貴殿は商人のように味噌と醤油を買って行きたいというわけか」


「ええ。他意はありません」


「だと良いが。西大陸では人を鎖につなぎ、モノのように売り買いするという。我らの民を(さら)わぬと言う保証があるのか?」


「ラドニール王国は人間族の国です。各地から逃げ延びた奴隷が集まって成り立った国、それがどうして鬼畜の真似を致しましょうや?」


「私は人間族の商人が、人間族の奴隷を連れているのを見たことがある。人間もまた、鬼畜の真似ができる証拠だ」


「そうですか。しかし、ラドニール王国は他国を食い物にすることを良しとしません。弱く小さな国ですので」


「そうか。よし、話はこれで終わりだ。金をきちんと払うならば、味噌と醤油は売ってやる。好きなだけ持って行くが良い。ただし、船に積み込むまで監視はつけるぞ」


「はっ、ありがとうございます。それと、一つ忠告ですが、西大陸とこの国では様々な品の値段が違うはずです。こちらには金山が多くあるようですが、商人共が銀を持ち込んで金と交換して持って行くことを繰り返せば、いずれこの国は金が不足することになるでしょう」


 逆に銀の値段が高い他所(よそ)の国にここの金を持ち込んで交換すれば、行き来して交換するだけでどんどん儲けることができてしまう。

 地球史においても大航海時代に西欧列強がやったことだ。

 俺も黙って真似をしていれば一時的にボロ儲けできるだろう。

 しかし、それは資源を一方の国で枯渇させ、不幸を生む。

 それは俺の目標や方針とは合わない。


「ふうむ、近頃はやたら銀と金を交換したがる商人が増えてきたが、そういうことか……これはいかん、国王陛下にご報告せねば」


 これでジェスパの金の枯渇は防げるだろう。

 農産物が材料の味噌や醤油はまた作れば良いが、鉱物はそうはいかないからな。

 ジェスパが俺の忠告を恩義に感じるかどうかは別としても、味噌と醤油の持続可能な取引は長く続けさせないと。


 すべては味噌と醤油のために。

 あ、いや、ラドニール王国のために。

 みんなの笑顔のために。 



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「さーて、出港準備はできたぞ! いつでも出発できる」


 バッグス船長が積み荷の点検を終え、俺に言ってきたが、エマがまだ戻ってきていない。


「分かりました。でも、もう少し、待ってもらえますか」


「ああ、もちろん構わないぜ。牢から出してもらった礼もあるしな。それに、味噌や醤油はすぐに腐るもんでもねえや。ま、味噌の見た目はちょいとアレだがな、はっはっはっ!」


「ユーヤ、オレ様が飛んでエマを探してきてやろうか?」


 レムが気を遣ってくれたが、俺は首を横に振る。


「ありがとう、レム。だが、ここでレムが変身したらジェスパの人たちがびっくりしちゃうからね。大丈夫、エマなら必ず戻ってくる」


「分かった! エマは自分で飛べるしな!」


「ああ、そうだ」


 それに、彼女は信頼できる仲間だ。

 武術の心得もあり、何をどうすれば良いか、自分で判断できる頭脳もある。

 竜人族の里への種の贈り物も恩義に感じてくれていて、義理堅い。


 なら、あとはエマを信じて待てば良い。


 三日後、さすがに俺もエマに何かあったのではと気に病み始めた頃、エマが羽ばたいて戻ってきた。


「エマ!」


「遅れてすまない。見張りの目を盗むのに時間が掛かってしまった」


「いいさ。無事で何よりだ」


「ああ。ひょっとしたら私は捨て置かれるかと思ったが、待っていてくれたか」


「当たり前だろ。仲間を見捨てる奴がどこにいる」


「仲間か。そうか、そうだな」


「ああ」


「よーし、野郎共! 帆を張って、碇を上げろ! 出発だ!」


 バッグス船長の快活な声が響き渡り、子分達がすぐさま甲板を駆け回った。

 ある者は碇の巻き上げ機の取っ手を回し、ある者はマストへよじ登る。

 そうして帆布が勢いよく風を受けて膨らみ、そして船がゆっくりと動き出す。

 先程までどんよりと曇っていた空だったが、雲間から日の光が差し込み、綺麗な青空へと変わり始めた。


 さあ、ラドニールと俺達の未来はこれからだ。

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