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ハズレ勇者がチート無しで活躍できる七つの秘訣  作者: まさな
第二章 人を集めるために必要な事
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第十九話 信用

 ちょっと散歩がてら美味しい物を食べて行こう、そんな気軽な気分で入った店なのだが。

 変な奴が現れてトラブルに巻き込まれてしまった。


「ああ、良かった、セリア様、悪いのはその三人組ですよ。子供を手に掛けようとしたんです!」


 店員のお姉さんは当然、こちらの味方だな。金髪の女騎士はセリアという名前らしい。

 この感じなら、話の分かる騎士なのだろう。


「なに、子供を? それは真か?」


「いやいや、こいつらがオレの仲間を痛めつけてくるから、ちょっとかっとなって脅そうとしただけですよ」


 真ん中の男がへらへらしながら言う。


「良くそんなことが言えるわね! あれが脅しなわけがないじゃないですか!」


「静まれ。先に手を出したのはどちらだ」


 女騎士が聞いてきた。

 どうする?

 エマとレムも判断に迷ったようで俺の顔を見た。



 死人が一人出ている以上、下手な答え方をすれば重罰を食らう場面だ。

 ましてや俺達はここでは異国人、ジェスパの法律が異国人に対してどういうものかもよく分からない。

 分からないが、先に手を出した方が悪いというのはどこの国でも共通認識だろう。


 それでも、ここは正直に言うべきだ。

 じっちゃんがよく言っていたもんな。


「いいか、ユーヤ、嘘にも色々種類があるが、『卑怯で悪い嘘』はバレたときに信用を無くす。言い訳のために一度嘘をつくと、つじつま合わせに次から次へと嘘をつく羽目になる。そりゃあすぐにはバレないかもしれねえ。だが、嘘ばかり言う奴と、嘘をつかない奴、お前はどっちと仲良くしたい?」


「そりゃ、嘘をつかない奴だよ」


「そうだろう。その場しのぎで嘘を言ってると、最後には、あいつは嘘つきだと思われて、誰もまともに相手をしてくれなくなるぞ。信用を失うんだ。それから、嘘つきの言うことも信用するな。どんなときにもだ。信じるだけ馬鹿を見る」


「うん」


「信用ってのは人を見る上で一番大事なもんだ。頭の良さや、外見や、金持ちかどうか、なんてものは二の次だぞ? いくら頭の良い奴に難問の答えを教えてもらっても、そいつが嘘をついて騙されたらそれまでだからな。お前の分からないことで嘘をつかれたら見抜くのは難しいだろ?」


「そりゃあそうだね。僕が分かんないことだもの」


「そうとも。顔の綺麗な奴は人から好かれる。だが別にお前だけを助けてくれるわけでもねえ。大勢からチヤホヤされてるんだからな。金持ちもそうだ」


「んん、そうかな?」


「そうだ。顔の良い嘘つきは結婚詐欺師、金を持ってる嘘つきはタダの詐欺師だ。そういうのは私腹を肥やすために嘘をつく。相手の事なんて考えちゃいねえ。ああいうのに引っかかると、自分は騙されてないんだって自分に嘘をつき始めて、気づくのが遅くなるからな……なんて言うか、憎めねえんだなあ、これが」


 騙されたことがあるんだ、じいちゃん……。


「信用の大事さを身に染みて分かってる人間も、相手を見るときにこいつは信用できるかどうかを見る。だからユーヤ、まずは自分が信用を無くさないようにしろ。そしてその中から信頼できる人間を見つけ出せ。嘘をつかず、しかも頼りになる人間ってのは世の中には本当に少ない。それを見つけたら一生もんの宝になるぞ」


「分かった。じいちゃんが僕の宝物だね!」


「おう、お前もじいちゃんの宝物だ」


 じいちゃんは俺に嘘をつかなかった。ためになることをたくさん教えてくれた。

 俺はそんなじいちゃんを信頼している。


 だから、俺はここで言い訳のための嘘はつかない。

 目撃者だっているからな。ここで下手を打つと重罰を食らいかねない。

 それだけじゃない。一緒にいるレムやエマも、俺のことを『立場が悪くなると言い訳で嘘をつく人間だ』と見るだろう。

 それでこの二人がすぐに俺から離れていくとは思えないが、絶対の信頼は勝ち取れない。


 ラドニール王国は現在、深刻な人材不足だ。

 王女二人が内政長官や将軍を兼務したり、国王が昼食夕食を家族と共にできぬほど働いている。


 信頼できる人材を集めたいときに、その大前提の信用を失っていたら話にならない。


 だから、俺は重要な場面では嘘はつかない。

 どんな時にも嘘をつかない――なんて、できたら凄いけど俺にはちょっとそれは無理だ。

 できないことは言わない。自分にも嘘はつけないからな。


 大丈夫、今回の件で俺達は自分自身に言い訳ができないような悪いことをしたわけじゃない。

 俺は覚悟を決めた。


「こちらのエマです。その左の男が嫌らしい手で彼女のお尻を触ろうとしたので」


「左の男? では、右の男を刺し殺したのは誰だ?」


「それもエマです。左の男の行動の後で、レム――この子が怒って真ん中の男を殴り、それに逆上した右の男がレムの首に斬りかかってきたので、私が命じて始末しました」


「ふむ。貴殿の名は?」


「ユーヤと申します。平民ですが、ラドニール王国の文官をしております」


「むむ、やはり異国の人間であるか……」


 セリアが渋い顔をしたが、この国においては異国人はそれだけで扱いが面倒なのだろう。


「へへ、先に手を出したとコイツが自分で認めてますぜ! 平民が手を出して人様を斬り殺したんだ、こりゃあ死罪までいくな!」


 ごろつきが満面の笑みで俺を指差した。


「黙れ。それを決めるのはお前では無い。領主の私だ」


 おっと領主か。騎士と思っていたが、この人はもっと上の地位の人間だったようだ。


「目撃者を全員集めろ。それと、お前達は詰め所まで来てもらうぞ」



 兵士の詰め所まで行き、一人ずつ尋問された。

 中庭に縄で縛られ全員正座で並ばされたが……これ、逃げた方が良かったか?

 この国の法律でエマや俺達がどう裁かれるか、やっぱり心配になってきた。

 信用って言っても、命あっての物種だ。

 エマの死刑は無いと思うのだが……。


 領主のセリアが出て来てオレ達の向かい正面に立った。


「ではこれより沙汰(さた)を言い渡す。金貸し屋のサイロク、お前達は茶屋の営業妨害の罪により罰金! 銀貨一枚を命ず」


「なんだって!? 領主様、それはおかしいだろう! なんで被害者のオレ達が罰金なんだ!?」


 抗議するサイロクに対し、兵士が彼の頭を地べたに押さえつけ黙らせた。


「うるさいぞ、大人しくしろ」


「次に竜人族のエマ、貴殿は異国人ではあるが、その地位を考慮し、領主血筋の騎士と認める。だが、この国では騎士であろうと殺人は重罪である。

 ただし、子供の命を守るための正当防衛であったことを(かんが)み、労役一ヶ月の上、国外追放とする!」 


「軽すぎる!」


 サイロクが納得いかないという風にまた声を挙げた。


「だいたい、領主の血筋というのは本当の話なんですかい?」


「貴様、お館様の言葉を疑うか!」


 兵士が再び頭を押さえつけにかかる。


「良い。サイロクよ、彼女は竜人族の頭領の娘だそうだ。彼女の立ち居振る舞いを見ればおおよその察しはつくだろう。領主どころか、一国の王女と見ても良いところだぞ? それに目撃者の話を聞く限り、手を先に出して事を起こしたのはそのほうらであろう」


「ふん、くそっ!」


「最後に、ラドニールの文官、ユーヤよ」


「は…」


「平民であるお前がエマに始末を命じたということだが、この場合は死罪」


「えええっ?!」


 死罪!?


「はは、ざまぁ見ろ!」


「違う、ユーヤが命じたのでは無い、私の意思でやったことだ!」


 エマもすぐに訂正するが。


「待て、最後まで話を聞け。聴取では『命じた』とユーヤは主張したが、これは婚約者エマを(かば)うための『方便』であろう。地位が上の者に命じるなどあり得ぬことだからな」


 ふう、この言い分だとセリアがこの国の法解釈で上手く取り繕ってくれるようだ。


「よってユーヤは無罪とする!」


 縄を解かれてほっとする。


「ユーヤ、てめえ、このままじゃ済まねえぞ、覚えてやがれ!」


 嫌な奴に名前を覚えられたなあ。 


「サイロク、この者達と茶屋への手出しは私が禁じるぞ。二度と近づくな」


「ちょ、ちょっと待ってくれ、それじゃ借金の取り立てが」


「連れて行け」


「はっ」


「おーい、そりゃねえだろ!」


 兵士が引きずるように連れて行くが、ざまぁ見ろだな。


「では、ユーヤよ、少し話がある」


「ははっ」



 領主の館の応接間に場所を移し、お茶を振る舞ってもらった。


「縄につないだのは悪く思わないでくれ。これもこちらのしきたりなのでな」


 セリアが言う。


「ええ。それで、エマは……」


 この場にはいないので心配になる。


「彼女はこの国の法に(のっと)り金山の土運びに向かわせた。だが、あの者は羽がある。いくら監視を厳しくしたところで、野外では逃げおおせてしまうだろうな。それはまあ仕方が無い」


 本気で逃亡を阻止するつもりなら、牢獄入りにすれば良かったはずだ。それはつまり、わざと逃がしてくれると言うことなのだろう。


「セリア様、ご配慮、感謝します」


「なんのことかな。それで……ううむ」


「はい?」


「お前は何の目的でここに来た?」


「ああ。調味料を買い込むためでございます」


「調味料? たったそれだけのために、海を越えてきたというのか」


「ええ。味噌と醤油は生活必需品です。私の体の一割くらいは味噌と醤油でできてます」


「なに? フッ、大げさだな」


「セリア様も自分の故郷の味が食べられないと困るでしょう」


「まあ、そうだな。しかし……」


 本当に調味料のためだが、セリアは疑っているようだ。


「実を言うと、私は勇者でもあります」


「む……」


 俺は自分の正体を告げた。

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