第十八話 甘味処にて
さてさて、東の国ジェスパの茶屋では何が食えるのか。楽しみだ。
「すみませーん」
「すみませーん!」
「はいはい、いらっしゃいませ」
お姉さんが出て来たが、この人は着物だな。たすき掛けもしている。髪型は茶髪のロングだったけれど。
「ここは何の店ですか」
「ここは団子と『おしるこ』をお出ししてるんですよ」
「おお、やっぱり『おしるこ』かぁ。じゃあ、まずは団子から」
「『おしるこ』もー!」
レムがすかさず注文を付けてきた。
「分かった分かった、じゃ、その両方、三人前で」
「はい毎度」
出て来た団子を見てちょっと俺は驚いてしまったが、ピンク、白、緑色。日本で見覚えのある例の三色団子だ。
この三色団子っていつの時代からあるんだろう? まあいいか。
「おおーぅ、色が違う!」
レムは大喜びだ。
食べてみると、ピンクの味はサクラに近い花のようで、白はプレーンの甘み、そして緑はヨモギっぽい。
そこは緑茶で攻めて欲しかったと思うが、ヨモギも結構いける。
「何これ、味が違うー!」
そうだろう、そうだろう。子供心にとって、色と味の違いは凄く大事だからな。
「お茶もどうぞ。熱いですから気を付けて下さいな」
「頂きます」
「頂きます!」
レムが一気飲みしたのでそれを見たお姉さんがギョッとしてアワアワしたが、大丈夫、レッドドラゴンなので絶対に火傷しません。
「レム、こういうのはゆっくり味わって飲むんだぞ」
「ん、もう一杯!」
「は、はいはい。口は大丈夫かい? 火傷しなかった?」
「んー? 火傷ぉー?」
「レム、普通の人間は火や熱いお湯でも傷つくんだよ」
「あー。弱っ」
仕方ないよ、だって人間だもの。
「ま、大丈夫ですから」
お姉さんに言っておく。
「そうですか。じゃ、お代わりをお持ちしますね」
お茶を飲んだが、懐かしの緑茶だった。
「あっ! しまった……。これもバッグス船長に頼んでおかないと。お茶を忘れるとは、くっ」
日本人の心のエナジードリンクと言っても過言ではあるまい。
「じゃ、私が言ってこよう」
エマがそう言うなり羽ばたいて飛んでいく。この国で飛ぶのは大丈夫なのかと心配になったが、お姉さんは飛ぶ姿を見てもニコニコ顔だ。
「竜人族の方ですか。こちらでは珍しいお客様ですねえ」
「そうですか。飛ぶのは有りですか」
「ええ、こちらでも天狗様が飛ぶので有りです」
カラスみたいな真っ黒な翼なんだろうけど、こっちの世界の天狗ってどういう位置づけなんだろうか。
「天狗様というからには、神様みたいな?」
「いえいえ、数が少ないというだけで、神様とは違いますねえ」
なら、地位は対等ってところだろうな。
「この国で美味しい物は何かありますか」
「『おしるこ』をどうぞ。とっても甘くて美味しいですよ」
そりゃそうだ。まずはこの店の一押しから食べないとな。
粒あんの中にお餅が入っており、熱い甘みが五臓六腑に染み渡る感じがする。
「お代わり!」
はええな、レム。だから味わって食えと。あとお箸はグーで握るんじゃありません。
「もう一杯だけな」
「エー?」
文官の役職を得たとは言え、俺の給料と言うよりは活動費も込みでもらってる気がするからな。手持ちはあるが無駄遣いはあまりできない。
「俺が出世したら、好きなだけ食べさせてやるぞ」
「おおー、じゃ、早く出世しろ、ユーヤ」
「いきなり言われても無理だぞ。あと、国が豊かにならないとな」
「むー。あっ、じゃあ木の実を集める!」
「そうだな。それが良いと思う。ま、植えて育てるのが一番だが」
「じゃ、植えて育てるー!」
「よしよし、レムは良い子だな」
エコロジーなドラゴン、地球に優しいドラゴン、なんかいいね。
「えへへ、ユーヤに褒められたー!」
「あらあら、可愛いですねえ。妹さんですか?」
「いえ、養女です」
「はあ、養女ですか……」
あれ? 俺くらいの歳が養女を連れてるのはおかしいんだろうか。
もしかして通報されちゃう?
「船長に言付けてきたぞ」
エマが戻ってきた。
「ああ、良かった、コイツもこの子の保護者なので。そうだよな、エマ」
「んん? まあ、保護が必要だとは思わないが、監視者と言ったところか。だが、どうかしたのか」
「ちょっと事案発生の予感がしたからな」
「ええ? 昼間っから、お前という奴は……ちょっと目を離すとこれか」
エマが眉をひそめた。
「いやいや、俺がレムをどうにかしようとか、そんなんじゃないぞ」
「ならいいが。さて、冷めぬうちに頂くとしよう。団子もいいが、そちらもなかなか美味しそうだ」
エマはクールな外見だが、割と甘い物好きのようである。
「ああ、そうですか、若いご夫婦さんでしたか。はい、どうぞ」
店員のお姉さんは今のやりとりでちょっと誤解してしまったようだ。
「あ、いや、まあ、そんなところか」
ここで訂正して婚約者だと紹介すると、レムはできちゃった婚の子と誤解されかねない。
色々説明が面倒臭いので、この店ではもうそれで行くことにした。
「う、うむ」
エマの箸が止まってしまい、照れているのか怒っているのか、今ひとつわかりにくい。
「エマ、そろそろ」
「ああ、待ってくれ、んぐ!」
おい。一気に今、飲み込んだが、大丈夫か? 熱さも危険だが、餅のクリティカル率も侮れないぞ?
「ん~~~!」
エマが苦しみ出したので俺は背中を気休めに叩いてやり、それでようやく喉を通ったようだ。
「ほら、急がなくて良いから、お茶飲んで、お茶」
「ああ、すまない」
「大丈夫ですか、お客さん。口の火傷でしたら、ちょっと失礼――女神エイルよ、我が願いを聞き入れたまえ。ヒール!」
お姉さんが呪文を唱えると手が白く輝いた。
回復魔法だな。
「ああ、良くなりました。ありがとうございます」
エマが丁寧に頭を下げた。
「いえ、軽い症状で良かったです」
「でも、回復魔法も使えるのに、茶屋の店員をやってらっしゃるんですか」
ちょっと失礼かと思ったが、この世界の魔法使い率も良く知らないので、俺は聞いてみることにした。
「ああ、それが……あっ!」
「ん?」
店員のお姉さんが通りの向こうを気にしたようだが、見ると柄の悪そうな着物男の三人組がこちらにニヤケ顔でやって来た。
「お客さん、お代はもういいですから、早く行って下さい」
「いや、そういうわけには」
「おうおうおう、儲かってるようじゃねえか、カレンさんよぉ」
着物の肩をわざとずらして着ている男が大きな声で言う。
「お金の取り立てなら後にして下さい。接客中なので」
「けっ、邪魔されたくないんだったら、素直に返す物を返さねえか。借りた物は返すのが当たり前だろ?」
「それは……そうですが」
「おい、そこのガキ、何見てんだ、コラ」
まずいことに顔に傷がある右側の男が、レムに目を付けてしまったようだ。まあ、思いっきり睨んでるからなぁ。
食べ物をくれた人はいい人で、それを邪魔するのは悪い人、レムの判断基準は分かりやすくてとてもシンプルだ。
「あっ……」
店員のお姉さんも心配するが。
「レム、ダメだぞ」
こんなところで暴れられた日には国際問題に発展すること間違い無しだ。
「でも、ユーヤ」
「べっぴんじゃねえか姉ちゃん、あいたたたたた!?」
う、油断した。左側のスケベそうなデブ男だ。
こいつがエマのお尻に手を伸ばそうとして、エマに腕をひねり上げられている。
一見クールビューティーのくせに気が短いエマ。
「お、お客さん、この人達はまずいんです。どうか、お気を鎮めて下さいまし」
店員のお姉さんが青ざめた顔て言うが。
「我がシッポは夫以外の男には触らせぬ。何人であろうとな」
やべえ、エマの瞳が縦筋になってる。本気で怒ってるぞ。
「いや、オレはシッポじゃ無くてお尻に、あいてててててて!」
「どっちでも同じ事だ」
「おいてめえ、放しやがれ! ぐっ!?」
「めっ! 悪いのはそっちだ!」
レムがパンチしてしまったが、男の急所を殴ったのは偶然だろうな。
一応、手加減はしているようで、そこは後で褒めてやろう。
手を出したのは向こうが先だし、正当防衛だ。
「こ、このガキ……」
「ふざけやがって!」
だが、右側の男が懐から短刀を取り出して、レムに斬りかかってきてしまった。
「きゃあ! いけない、レムちゃん逃げて!」
店員のお姉さんが悲鳴を上げたが、俺はじっと動かず事態の推移を見守る。
「な、なんだと? なんで刺さらねえ?」
レムの首に短刀を当てている右側の男だが、こいつ、殺しを何度もやってそうだな。しかも子供相手に躊躇なしとか。
だが、レッドドラゴンのレムは魔法の剣以外では傷一つ付けられない。
人間の姿だと防御力はかなり下がっているのだが、その辺の短刀くらいでやられるはずも無かった。
「レム、いや、エマ、片付けてくれ。後は俺が何とかしてみせる」
「承知した」
ここは大人のエマに任せる方が良い。
エマは腰の剣を抜くと、一瞬で右の男を突き刺した。
「ぐっ!?」
「な、なんだと」
「てめえ!」
「そいつは他人を殺そうとしたんだ、殺されても文句は言えないだろう」
俺は残る二人に警告の意味で言う。
「そこまで! 双方、動くな!」
まずいな、思った以上に早くここの兵士が来てしまったようだ。
振り向くと、白馬に乗った金髪の女騎士が兵士を四人連れていた。




