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ハズレ勇者がチート無しで活躍できる七つの秘訣  作者: まさな
第二章 人を集めるために必要な事
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第十六話 勝利条件

「待て、殺すな!」


 ヒルデがに命じるが、すでに矢は放たれていた。

 ミノタウロスの首に矢が刺さる。


「BUMOoOOO―――!!!」


 首を振って痛がったミノタウロスだが、すぐに矢を手で掴んで引き抜き、放り投げた。


「勇者! それがお前の戦い方か!」


 こちらを見てヒルデが怒鳴る。


「そうだ! 依頼は俺の知恵を見せろと言うことだったはず。ならば、フィヨード王国の犠牲者ゼロをもって、俺の知恵とする!」

 

 俺は怯まず言い返す。

 なんのための行動か、目的と範囲はハッキリさせるべきだ。

 でないと、人間、すぐに欲を掻いて注意散漫となる。それはミスの元だ。

 有能な人間ならすべての条件をクリアすることもできるかもしれないが、俺はそうじゃ無いからな。


「チッ、余計な事を。これほどの相手、そうはなかなか出会えぬぞ、いざ、勝負!」


 ヒルデは舌打ちしてすぐにミノタウロスに斬りかかった。

 毒がいつ回ってくるかは不明だが、早めに攻撃しないと互いの力量が満足にぶつかり合えないと思ったのだろう。

 このまま手を出さずに待つのが確実なんだが。


 確かに、力の限りを尽くした激戦を望むのであれば俺のしたことは余計だろう。

 だが、そんな話は勝って生き残ってから文句を言ってもらわないとね!


 ここで女王を失えば、せっかくの通行税割引の話がお流れになってしまう。

 あくまで俺はラドニール王国の未来を見据えての行動だ。

 ヒルデの一時の感情など、考慮しない。


 もちろん、幼女の安全も考えてるけど。

 生け贄なんてやめるべきだ。


「ぐっ!?」


 ミノタウロスはまだ毒が回った様子は無く、大きな戦斧を元気にブンブン振り回している。

 それに当たってヒルデの剣が折れたときにはヒヤッとしたが、すぐにドワーフ戦士達がフォローに入った。


「姫様はやらせはせんぞ!」

「ワシが相手だ!」

「姉御を守れ!」


「馬鹿、お前達、無理をするな!」


 ヒルデが慌てるが、突っ込んだドワーフの何人かが戦斧を食らって吹っ飛び、後ろの壁に激突した。

 今のは死んだだろうと俺は思ったのだが、ドワーフは首を振り振り起き上がった。タフな連中だ。


「まだまだ!」

「なんのこれしき!」


 まだやる気かよ。血がだらだらだぞ?

 仕方ないなあ。


「エマ!」


「分かっている」


 エマはすでに三本目の毒矢を弓につがえていた。

 

「リリーシュ! その剣を貸せ!」


 ヒルデが自分の折れた剣を捨てて怒鳴る。


「私のは貸せないわ。斧で戦ったら?」


「ええい、そうしてやる!」


 ヒルデはなおも諦めていないようでドワーフの一人から斧を受け取ると、本当にそれで殴りかかった。


「BUMOoOOO―――!!!」


 全身から血を流したミノタウロスはそれでもなお力が衰えない。


 こいつ、まさか、不死身か?


 嫌な予感がしたが、すでに打てる手はすべて打っている。

 リリーシュもヒルデの援護に周り、ミノタウロスに斬りかかっているが、時々、風圧を掛けながらブンッと振るってくる戦斧には苦労しているようだ。


「エマ、あれは効いてる感じか?」


「分からん。だが、射るしかない」


 もう何本目か分からないが、エマは毒矢を弓につがえ、味方に当たらないタイミングを見計らうと、すかさず放っている。

 すべて矢は命中しているのだ。


 ヒルデは「自分に当てないように(やじり)に気を付けろ」とエマに何度も注意していた。だから、きちんと毒を用意したはずで、となると、コイツに効かない毒だったかな。


「レム、『しんがりゲーム』があるかもしれないから、心の準備をしておいてくれ」


 俺は後ろで観戦に徹しているレムに言う。

 いっそのことレッドドラゴンに変身して戦ってもらえば楽勝だとは思うが、これは人間の問題だからな。

 安易にドラゴンの力に頼りたくは無い。

 レッドドラゴンがラドニール王国にいると他国に知れ渡ってしまうと、色々厄介な問題も出てくるだろうし、機密保持はできる限りやっておきたいのだ。


 ただし、人間の姿での『しんがりゲーム』なら凄い幼女がいるというだけで、レッドドラゴンとはバレないだろう。

 船のアフターバーナーの一件は俺も止めようが無かったし、後で注意はしておいた。


「うん! いつでもいいよ。そんな感じがしてきた!」


 わくわく顔のレムだが、彼女に頼った時点で、俺達の敗北は確定だ。

 レッドドラゴンは人間の知恵でもなければ、ヒルデの武力でもない。

 まあ、別の方法を用意して再挑戦してもいいだろう。


「くそっ、このアタイが負けてるだって!?」


 ヒルデが自分の劣勢を信じがたいというような顔で言うが、斧は技量よりもやはり筋力が物を言うのだろう。


「危ない! きゃっ」


 リリーシュがカバーに入ったが、そのリリーシュごと、吹っ飛ばされた。


「リリーシュ!」


 床に倒れたリリーシュは気絶したようで、すぐに起き上がらない。

 だが、ミノタウロスは斧を振り回すのを止めない。

 俺は心臓が止まるかと思った。


「よせ、ユーヤ、前に出るな!」


 エマが止めるが、この状況ではリリーシュが危ない。

 ドワーフたちもカバーに入ってくれているが、彼らの主はヒルデであり、彼女が最優先だ。

 俺はリリーシュの足首を掴んで引っ張って逃げる。


 そこへ、くそ、目が合った。

 ミノタウロスはこちらへ走り込んでくる。


「レム!」


「うん!」


 駄目だ、間に合わない――!

 と思ったが、ミノタウロスが振り下ろした斧は途中で独りでに軌道が変な風にそれて、床に突き刺さった。

 ぼこっと石畳が割れる程の威力だ。

 それが俺やリリーシュに当たっていたらと思うと、ゾッとする。


「しんがりゲーム! あれ?」


 レムが俺の前に立ったが、倒れたミノタウロスはぴくりとも動かない。


「ふう、間に合ったか。ユーヤ、今のは私も肝を冷やしたぞ。無茶をするな」


 エマが言うが、毒がようやく回ったらしい。


「助かった……」


 全身の力が抜ける。


「くっ、終わってしまったか。まあ、上には上がいると言うことかな、あっはっはっ」


 ヒルデは座り込んだまま笑うが、戦いを楽しんでるよなあ。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 ミノタウロスは毒矢によって倒した。

 なかなかヘビーな戦いで、ヒヤヒヤさせられたが、帰りはレムが天井をぶっ壊してくれたので、脱出は楽勝だった。

 あとはエマにぶら下がって一人ずつ上に運んでもらうだけでいいのだ。みんな簡単に地上に出ることができた。


 レベルアップのファンファーレも鳴らなければ、強くなった気もしない。

 リリーシュが前にモンスターを倒すと力が上がるときがあると話していたが、ラストキルを取らないとダメな世界なのだろう。残念。



「しかし、あの幼女、いったいどうやって迷宮の頑丈な壁を壊したのだ?」


 ヒルデは不思議がっていたが、みんなの見えないところで変身してもらったからね。そこは機密保持だ。


「いいや、壊れた場所を見つけてもらったんだよ」


「だが、お前は『やってくれ』と頼んでいたではないか。壊れる音もしたぞ?」


「細かいことは気にしない、気にしない」


 フィヨード王国の問題を片付けた俺は、牛をバッグス商会に運んでこさせると言う条件で、ヒルデに九割引の通行税を認めてもらった。


「そうか。ま、なんにせよ、決着が付いて良かった。前々からこの時期になると気になっていたからな」


 ヒルデも毎年生け贄を捧げるのはどんな相手なのか、気になっていたようだ。




「じゃ、ラドニール王国ご一行はオレ様の船に乗ってくれや。帰り賃はタダだ」


 バッグス船長が言う。


「当たり前だろ」


「ハハハ、だよな」


 笑っているバッグス船長は礼こそ言ったものの、大して悪びれた風でも無い。

 ま、牢屋に入れられていたが食事は出してもらっていたようで、死ぬ危険も無かったからだろう。


「だが、勇者さんよ、本当にオレが許可証をもらっていいのか?」


 バッグスが聞いてくる。すでに許可証の話はしてあり、彼にも渡すつもりだと言ってある。


「ああ、ラドニールを拠点にしている限りは、便宜を図る。ただし、関税、出国税は忘れないでくれよ」


「おう、もちろんだ。往復割引があるんだから、安いもんだぜ」


 何度も出入りする商人には割引が適用される。これは俺が考えた制度では無く、王女アンジェリカが前から適用していた制度だ。

 彼女も優秀な内政長官だから、いろいろと改革をやっていて、俺が提案した事はたいていすでに実行済みだったりする。


「それと、これが例の珍しい種だ。ちゃんと水田で育てていたぞ?」


 バッグスが懐から種を出して見せてくれた。

 籾殻だが、うん、たぶん、お米だろう。

 実を言うと、籾殻の状態のお米は実際に見たことが無いので俺もよく分からないんだけども。

 脱穀して煮て食べないとね。

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