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ハズレ勇者がチート無しで活躍できる七つの秘訣  作者: まさな
第二章 人を集めるために必要な事
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第十五話 星の王子

 ここはラビュリントス。

 広大で複雑な迷宮だ。

 脱出不可能とも言われる迷宮。

 通路には、さきほどから、しくしくという悲しそうな泣き声が響いている。


 ――俺の声だ。


「往生際が悪いぞ、勇者」


「俺がこの作戦に参加する意味が分からん」


「作戦を考えた言い出しっぺが行くのは当然だろう」


 ヒルデが言うが、当然と言われても分からん。


「大丈夫、いざというときはちゃんと守ってあげるわよ」


 リリーシュが言うが、君も遠慮して欲しいんだけどね?

 王女二人がダンジョンに入るこの世界は、俺の常識とはズレたところがたくさんありそうだ。

 今回、俺達は迷宮の正式な入り口から中に入っている。

 あのプールの上の穴からでも良かったと思うが、ヒルデが「迷宮に挑むならここからだ」と言って決めてしまった。

 まあいいけどね。


 背中のリュックに差し込んだ糸巻き棒を見る。上手く空回りして糸が自動で伸びていくが、この糸、切れなきゃいいけど。


「オレらは海賊、ヘイホッ、ヘイホッ、ヘイホッ、ヘイホッ♪」


 ドワーフたちも不気味な迷宮では気分を盛り上げたいのか、それとも単純にどこでもいいから騒ぎたいのか、リズムを取って陽気な歌を歌い始めた。


「「 オレらは海賊、ヘイホッ、ヘイホッ、ヘイホッ、ヘイホッ♪ 」」


「私たちは違うでしょ。レムも歌っちゃダメよ」


「別に良いだろ、歌くらい。妙に耳に残りそうなリズムだし」


「私も歌いそうになるから止めてって言ってるの。一応、王女ですからね。癖になると困るわ」


「ああ、それもそうだな」


「オレらは海賊、ヘイホッ、ヘイホッ、ヘイホッ、ヘイホッ♪ ……ハッ、な、何でも無い」


 顔を赤くしたエマは思わず口ずさんでしまったようだが、なんか可愛いな。


 ―――二時間後。


「「「 オレらは海賊、ヘイホッ、ヘイホッ、ヘイホッ、ヘイホッ♪ 」」」


 全員で大合唱しつつの行進だ。リリーシュもエマももう気にせず良い声で歌っている。



「見ろ、明かりだ!」


 ヒルデが指差し、ドワーフたちが我先にと駆け出す。


「待て、危ないぞ! 走らない方が良い」


 俺はそう呼びかけたが、ドワーフたちもその前にすぐ足が止まった。


「出口だ」

「さっきと同じ場所だぜ」


「なんだ……ということは、ぐるっと回ったのか」


 こういうこともあり得るとは思っていたが、常に左手を壁際に沿わせて突破するやり方は、ここラビュリントスでは通用しなかった。

 一筆書きできない迷路、真ん中に階段やボス部屋が孤立して存在する迷路だと、このやり方は上手く行かないのだ。


「そういうことだな。では、真ん中を行くとしよう」


 ヒルデが言い、ドワーフたちもすぐに彼女の言葉に従って歩き出す。


 すぐ目の前に見えている出口を尻目に、後ろ髪を引かれる思いで俺も皆に付いて行く。

 入り組んだ迷路は複雑で、途中で行き止まりになったり、階段で階層が変わったりもする。


「くそっ、待ってくれ」


 最後尾の俺は前に向かって言う。


「どうしたの、ユーヤ」


「糸が尽きた」


 かなり長い糸を用意してもらっていたが、とうとう最後まで使い切ってしまった。


「そう。どうしようかしら?」


「ここまで来て、帰るというのは無しだぞ」


 ヒルデが言うが、それだと遭難する可能性がある。

 ま、それも覚悟の上か。


「分かった。最悪、化け物が地上に出てくることもあるが、それも覚悟してくれよ?」


 俺はその点を言っておく。

 正式な入り口から入っている俺達がボスに出会うと言うことは、ボスもまた出口へ至る可能性(ルート)が存在するという証明なのだから。


「それは倒せば良い」


 倒せるのかね。

 まあ、こちらには脱出と戦闘の切り札、レムがいるからな。

 レッドドラゴンに変身して迷宮の壁を破壊してもらえれば、迷って出られなくなるということは無いか。


「レム、体の調子は大丈夫か?」


「へーきだよ!」


 問題無さそうだ。



「あっ、見て。あの泉に出たわ」


 さらに進んでいると、生け贄を落とす場所に出た。上を見ると、天井の四角い穴から日の光が差し込んでいる。


「これで奴は外に出られないのか? 道が出口につながっていたとはな」


 ヒルデもここと出口はつながっていないと考えていたようだ。


「ま、俺達がここに来たからには、つながってるね。だが、となると、やはり化け物は王子では無い線が強いな」


「どういうことだ?」


「本物の王子なら、なんとしてでも城に戻りたがるだろう。こいつは、ここを住処にしているだけで、外には興味が無いのかも」


「なるほどな。だが、世間で疎まれてここで生きていく決意をしたのかもな」


 その可能性もありそうだが、やはり本人に直接聞いてみるしかあるまい。

 ここのモンスターが入れ替わりに生け贄を食べていれば、同一人物とも限らないのだ。


「くんくん、向こうに血の匂いがするぞ」


 レムが言う。割とコイツ、鼻が利くんだよな。


「よし、野郎共、行くぞ! アタイに付いてこい」


「「「 応! 」」」


 ヒルデが俄然やる気を見せて、通路を急いでそちらに向かう。


「慎重に行って欲しいんだけどなあ」


 しかし、もう進んでいるので俺も早足で付いて行く。


「レム、どっちだ?」


「あっち!」


 レムが案内役となって血の匂いを追っていく。

 階段を降りたり、上がったり、迷いが無いのは良いが、これだと帰りは天井を壊して出るしか無いかもな。


「その先の部屋にいるよ(・・・)


 レムが立ち止まって言った。


「戦闘準備!」


 ヒルデが指示を飛ばし、全員の目が鋭くなった。


「エマ、焦らなくて良いから、味方に当てないように頼むぞ」


 俺は弓矢を持っているエマに言う。

 彼女が持っているのはヒルデに用意してもらった強力な毒矢だ。


「分かっている。心配は無用だ」


「ふん、毒に頼らずとも、アタイの剣にかかればあっという間さ。星二つは伊達じゃ無いよ!」


 リリーシュと同等の才能(スキル)か。ま、星三つの相手でない限りは無敵と言って良いだろう。

 そこで俺はふと気になって聞いた。


「ヒルデ、王子アステリオスは、何かスキルを持っていたのか?」


「さあな。めっぽう力が強く、城の誰も手が付けられなかった、と言うことくらいしか知らん」


 当時の城に星二つや三つの剣士がいなかった(・・・・・)ならいいのだが。

 何やら、俺は嫌な予感がした。


「い、いたぞ!」

「アイツだ!」


 ドワーフたちが少し狼狽えながら声を挙げた。

 その視線の先――


 広間の中央にある玉座には半裸の大男が座っていた。

 体はムキムキの人間で、首から上は牛。腰布を巻いているが……。


「こいつ、モンスターとは違う?」


 ヒルデが疑問の声でつぶやく。


 おもむろに立ち上がった牛男は、玉座の側に置いてあった戦斧を拾うと、雄叫びとも咆哮とも付かぬ声を挙げた。


「BUMOoOOO―――」


 あ、ヤバイ、これ本物だ。

 何がどう本物かは俺にも上手く言えないが、とにかく弱い奴では無い。

 直感的に凄く危険な奴だということだけはピリピリと伝わってくる。


「全員、散開! 下手に手を出すな!」


 ヒルデもすぐに強敵と気づいたようで、手下のドワーフたちに気を付けるよう命じた。


「あれは、伝説の王子なのかしら?」


 渋い顔でリリーシュも言うが。


「さてね。とにかく、今代の女王が討伐を命じているんだ。化け物として死んでもらうしか無いよ」


「それも悲劇ね」


 牛が一頭もいなくなるという大飢饉が起きなければ、この王子はこの先もずっと生きながらえたのかもしれない。

 だが、これも少女の生け贄を中止させるためだ。

 

「エマ! すぐには手を出すな!」


 ヒルデがそう命じてしまったが、剣でやり合うつもりらしい。

 エマがこちらを見るが、俺も頷いた。

 なにせ女王のご命令だ。


「行くぞ、化け物!」


 ヒルデがまずは一人で斬り込んだ。

 ミノタウロスは悠然と身構えていたが、間合いに入った瞬間に鋭く反応して戦斧を振るう。

 キィン! という激しい金属音がしてヒルデの剣が弾かれた。


「くっ、もらったと思ったのに。コイツ!」


「逃げて! ヒルデ」


 ミノタウロスが戦斧を振りかぶったときにリリーシュが言う。

 それを受け止めるつもりでいた様子のヒルデだったが、それを聞いて気を変えたのが良かった。

 剣で戦斧を見事弾き返したものの、足が滑ったヒルデの体は大きく後ろに弾かれていた。

 

「くっ、なんという馬鹿力だ。お前達は受けないようにしろ。吹っ飛ばされるぞ」


「分かりやした!」


 三人のドワーフ戦士が囲むような形でミノタウロスに一斉に突っ込む。


「BUMO!」


 ミノタウロスはいきり立った声を挙げると戦斧を綺麗に水平に振り回した。


「うおっ!」

「ぐえっ!」


 何とか盾で防いだドワーフ戦士だが、二人とも五メートル近く吹っ飛ばされた。一人は受け身に失敗して、コロコロと転がっていく。

 残るもう一人の斧はミノタウロスの足に直撃していたが、血は出ているものの、奴は痛がるそぶりも見せていない。


「くっ、こいつ、剣術を嗜んでいるぞ!」


 ヒルデが戦慄した表情で言う。


「まずいわね……」


 リリーシュも苦み走った顔だ。


「リリーシュ、怪我人無しで勝てそうか?」


「無理ね」


 ならば、こうするしかあるまい。


「エマ!」


 俺はその名を呼ぶ。

 エマはじっと弓の弦を引いてその時を待っていた。

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