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ハズレ勇者がチート無しで活躍できる七つの秘訣  作者: まさな
第二章 人を集めるために必要な事
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第十四話 下準備

 この国の幼女を守るため、勇者、迷宮ラビュリントスのボスを倒すべし。

 目的はハッキリしているが、準備は念入りにしておかないとな。

 何せ俺は剣も握ったことが無い。

 リリーシュが木刀での稽古を付けてくれてはいるのだが、本物の剣はまだ危なくて持たせられないレベルだそうだ。

 鉄の剣を持たせてもらったが、ずしりと重く、片手ではとても振り回せそうに無かった。


「女王陛下、いくつかご用意して頂きたいものがあるのですが」


「ヒルデだ。アタイのことは呼び捨てでいいぞ。海賊王国だしな、そう堅苦しくやらなくていい」


「分かった。ではヒルデ、まず、腕の立つ戦士をひとグループ」


「任せろ。うちは戦士なら掃いて捨てるほどいるぞ」


「おう、化け物退治はオレ達に任せな!」


 ドワーフ達が丸い盾を斧で叩いて笑顔を見せるが、これまで彼らだけでは解決できなかった問題だ。

 おそらく、迷宮が複雑すぎてボス部屋まで辿り着けなかったのだろう。


「次に、ありったけの長い糸を」


 ヘンゼルとグレーテルはパンくずで道しるべを作ったが、鳥に食われたり足で蹴ってすぐ消えるようじゃ困る。


「分かった、用意してやる」


「最後に、一番強い毒を」


「毒? ううむ、まあ、いいだろう」


 ヒルデは少し迷ったようだが、頼みを聞いてくれた。

 人間相手の一騎打ちなら、そんなのを使った日には名折れになるが、相手は何百年も生きているという化け物だからな。

 伝承通りの王子であるとも限らない。

 まともに相手をする必要はどこにも無い。勇者の名声よりも安全第一ですよ!

 卑怯と言われようが俺はやるぜ?


「そのボスの目撃者や話も詳しく聞きたいんだけど」


「残念だが、誰もそいつの姿を見た者はいないぞ。迷宮に入っても空振りか、帰ってこない奴ばかりだった」


「でも、牛は消えるんだよね?」


「ああ、牛は迷宮の泉に、穴の開いた天井から落とす仕組みなんだが、翌日に覗いてみると必ず消えている」


 その泉に何か仕組みがあるのかもしれないが、調べてみるのが一番だろう。


 さっそく、俺達はその迷宮がある『星の島』に船で移動し、生け贄を落とす穴を見せてもらった。


「ここだ」


 平らな草むらだが、祭壇のような造りになっており、かなり古いのか、ところどころ崩れ落ちている。

 その中央に二メートル四方の四角い穴があり、下には水が溜まっている円形のプールが見えた。

 これがヒルデの言った泉だろうな。


 そのプール周辺を天井から覗き込んでみるが、誰もいない。

 

「じゃ、悪いが、エマ、一番手でちょっと降りてみてくれ」


「承知した」


 問題があれば飛んで穴から逃げられるから、飛行能力のある竜人族がこの調査にはもってこいだろう。

 エマは羽ばたいて穴から下に降りると、プールの脇に静かに着地した。


「どうだ?」


「四方に通路がそれぞれある。ここは広間だな。特に何もいないぞ」


「よし、降りよう」


 腰と肩にロープを巻き付け、ドワーフたちにそれをゆっくりと降ろしてもらう。


「オーライ、オーライ……、オッケイ!」


 縄をいったん解き、明かりの魔道具で周囲を照らす。小さな採光窓の穴が他にもいくつも開いているので、ここは暗くない。


「これで今まで誰もボスの正体を見てないのか?」


 俺は降りてきたヒルデに聞いた。


「アタイも一晩中見張ってたことがあるが、油断した隙に、取られちまうんだよ。牛は足が折れてるから自力じゃどこにも行けないはずなんだがな」


「ふうん」


 まあ、ビデオカメラが無い世界では、一晩中、一カ所を見張るのは至難の業だろう。

 夜だと暗いだろうし、明かりを付けていては、向こうが警戒して近づいてこないということもあり得る。


 ドワーフ戦士達に通路を見張ってもらい、俺は念入りにそのプールを調べた。


「特に仕掛けは無いみたいだな」


 継ぎ目のようなものも見えないし、叩いても音が変わったりもしない。


「どうなってるのかしら?」


「うーん、やっぱり、何かがここで牛を捕って逃げたと考えるべきだろうな」


「となると、相手は力がありそうね」


「そうだな」


 牛は体が人間より大きいし、体重も重い。

 それを引きずらずに痕跡も残さず持ち去るとすれば、やはり危険な相手だろう。


「それで、今日は仕掛けないのだな?」


 ヒルデが聞く。


「うん。罠を仕掛けてみようと思うんだ」


 何しろこの迷宮は遭難者も出るほどの複雑で広大な迷宮だ。

 さらにボスのテリトリーとなれば、完全なアウェイ。

 ここでボスを捜し回るのは避けたかった。


「よし、いいぞ、降ろせ」


 トラバサミをロープで下ろし、それをプールの真横に仕掛ける。これをうっかり踏んだらバチン! と足がやられる罠だ。

 エサには鶏を用意してみた。


「コケー! コケー!」


「こら、暴れるんじゃ無い」


 自分の運命を覚ったか、やたら羽ばたいて暴れる鶏を罠の横に置く。

 足は元から縛っているが、さらに位置を固定するために斧を重しに縄を巻き付けて動けなくした。


「よし、全員、出るぞ」


 上にいるドワーフ達にロープを下ろしてもらい、体に結びつけて一人ずつ引き上げてもらった。


「脱、出!」


 変、身! のポージングを取る俺。


「いや、まだ何もしてないでしょ、ユーヤ」


「そうだが、リリーシュ、無事に地上に帰ってこられたのは喜ばないと。B級映画だと入った途端に全滅とかよくあるんだって」


「はいはい。映画って演劇みたいなものかしら?」


「そんなところだ」


 あとはここでキャンプを張り、のんびりとボスが出てくるのを待つ。



 翌朝、見張りは他の人間に任せ、しっかりと眠った俺はプールの穴を見に行った。


「ふいー、おはよう、リリーシュ。鶏はどうだ?」


「ダメ。やられたわ」


 疲れた顔をしているリリーシュは真面目に一晩中自分で見張ったらしい。

 穴から下を覗いてみると確かに、鶏だけ消えていた。

 トラバサミは作動していない。


「軽いホラーだなぁ」


「たぶん、相手も人間程度の知恵はあるんだと思うわよ」


「となると、罠作戦は難しいな」


「ええ。ヒルデの話だと、生け贄じゃないと手を付けてくれないみたいだから、毒も難しいわね」


 仕方ない。やっぱり、迷宮攻略だな、これは。

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