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ハズレ勇者がチート無しで活躍できる七つの秘訣  作者: まさな
第二章 人を集めるために必要な事
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第二話 悲痛な願い

 戦後処理――ミストラ王国の捕虜を検分しているが、さっさと終わらせたいな。

 もう一人はやせこけたウサギ耳の少女で、うつむいているので顔はよく見えない。


「次に、そのほうだが」


 国王が二人目の捕虜に話を向ける。


「は、はい、どうか、どうか私たちウサ耳族をミストラ王国へは追い返さないで頂きたく。お願いします!」


 両手を床に突いて()うように頭を下げるウサギ耳族の少女は、奴隷階級なのだろう。やせこけた体には(あざ)もあり、鉄の首輪をしていた。

 ミストラ王国でどういう待遇だったかはひと目で明らかだ。


「ふむ、余に忠誠を誓うと言うのだな?」


「それは……」


 先程の男が処刑になったばかりなので、少女も躊躇(ちゅうちょ)して黙り込んだ。


「父上、可哀想なのでここに置いてあげましょう」


 リリーシュは同情して言うが。


「ふむ……」


 国王もすぐには返事をしない。

 内政担当のアンジェリカも黙り込み、浮かない顔だ。

 なにしろこの国、ラドニール王国も民が飢えるほどに苦しい。

 民を国に入れるということは、その衣食住の面倒を見てやると言うことに他ならない。

 まあ、入れて面倒を見ない国家もたくさんあるんだが、この国では、国民に最低限の保障はしないとな。


 この子一人だけならともかく、ウサ耳族となれば何人いることやら。


「陛下、よろしいでしょうか」


 軍師には任命してもらったものの、俺は軍事担当であるから、まず許可を得た方が良い。


「構わぬ。ユーヤの意見を聞こう」


「は。我が国の食料の確保もまだできていない状況、ここは断るべきかと」


「ちょっと待ってユーヤ、食料なら大商人から種芋を仕入れるから、目処は立ったでしょう?」


 リリーシュが言うが、まだ俺達は食料を手にしていない。将来増えるであろう資産を当てにして手を付けるというのは、借金と同じ事だ。

 『取らぬ狸の皮算用』とも言うしな。


「あくまでそれは予定だよ、リリーシュ。予定は何かのアクシデントで狂う可能性もあるし、どれだけの食料がそろうかもまだ分からないんだ。

 目の前の子を可哀想と思うのは当然だが、目の前にいないこの国の飢えている人たちのことも同じように可哀想と思って欲しい」


「うっ、そうね……」


「では、他に反対意見が無いのなら、ウサ耳族はミストラ領への追放処分とする。ただし、国境で首輪と縄は解いてやれ」


 国王が決定した。


「お、お願いします、どうか、妹たちだけでも、うう……」


 うっわー、泣きながら家族のお願いをされるとか、俺の冷徹な軍師心はもう限界。


「どうにかならないの、ユーヤ」


「では、次善の策として、ウサ耳族に武器を持たせ、街道から外れた国境北西の森を彼らの領土として承認しましょう。現在ミストラ王国の領土を、です」


「ええと、それってつまり……うちの、ラドニール王国の領土にするわけね?」


「いや、編入じゃなく、ウサ耳王国の独立だ。それなら、ミストラに対して戦っている限り奴隷として扱われることは無い」


「こんな弱そうな子に剣を持てと言うの?」


「ウサ耳族にも男衆はいるだろ。それに国境には君とうちの兵がいる。ついうっかり自国防衛のためにスクランブル発進して向かってきたミストラ兵をやっつけても、それは我が国の周辺事態における自衛権の範囲内だ」


「おお! なるほどね! いいわね、ついうっかり発進」


「ただし、戦争中のミストラ兵だけだぞ?」


 俺は釘を刺しておく。

 この子、猛将っぽいから、拡大解釈して好き勝手に攻め始めてもヤバイしな。

 あちこちの国に戦争を仕掛けて、周りすべてが敵になったら大変だ。ラドニールは国力が小さいのだから、それだけで詰む。


 人道のためとか、人権のため、国際社会の平和と安全のため――なーんて言う大義名分も無しだ。


 他国の領土にいる人間を守ると言って軍隊を出して戦争したら、世界中どこにでも軍隊を派遣できてしまう。

 そうなると、敵でない中立国も警戒して関係が悪化するだろうし、ならず者国家がこちらとまったく同じ事を主張して攻めてきた時にも困る。

 それに何より、自分が食えなければ、権利なんて簡単に吹っ飛ぶ。


「それは分かってるけど。今、他の国と開戦なんてできるわけ無いわ」


 軍事に関しては彼女の方が将軍として専門家だから、余計な心配だったようだ。


「では、この件はそれで良いな?」


 国王が一同に確認する。反対の声は上がらなかった。


「自分達の国ですか……」


 ウサ耳少女は実感が湧かないようで迷っている様子だが、他に手は無い。

 それは決して楽な道ではないが、ミストラ国の奴隷として使い潰されるよりはマシなはずだ。

 作物の種も少しくらいは分けてやるとしよう。


 今は他国の面倒より、自分の国の面倒を見なきゃだしな。




 一週間後、ラドニール王国の北側に『ウサ耳独立国』が誕生した。

 

 誕生したと言っても、城はおろか砦すら無い。

 木にウサ耳マークの旗がくくりつけられただけだったが、これでも国家である。


 国家の要件にはいくつか定義があるが、教科書に載っている一番分かりやすい三要素だと、『領土』、『国民』、『主権』、この三つだ。

 縄張りを旗で示し、ウサ耳の国民がいて、彼らの政府が自分で統治していれば、国だ。


 もちろん、ミストラ王国は絶対にこれを認めないだろうが、三日後にはラドニール王国が国交を樹立し、ウサ耳独立国を承認する。

 その翌日に『獣人部族連合』と竜人族もそれぞれ承認予定だ。


 結局、どこかの国に承認してもらわないと、国にはなれないからな。


「ここは、ウサ耳のウサ耳によるウサ耳のための国である! もはや我々は鞭でぶたれること無く、無理矢理に働かされることも無い。自由だーっ!」


「「「 おお!!! 」」」


「ウサ! ウサ! ウサ!」


「「「 ウサ! ウサ! ウサ! 」」」


 集まったウサ耳族の民衆が剣を振り上げて唱和し、盛り上がっているようだ。ひとまず成功だな。


「なんだか妙に荒々しい熱気があるわね。ウサ耳族って大人しい獣人だったと思ったけど」


 隣の木の陰で覗いていたリリーシュが首をひねる。


「まあ、彼らはこれから戦続きの宿命だからね。好戦的で力強い軍事大国をイメージしてプロデュースしてみた」


「プロデュースって、私たちが絡んでるのは内緒なんでしょ」


「そうだな。まあ、聞こえてないし」


 どうせバレバレだからガチガチの国家機密という話でも無い。

 いずれ何十年かあとに落ち着けば、ウサ耳族が自分達の国に合ったスタイルに変えていくだろう。

 いくつかの基本的な法律はこちらで定めたが、改正条項は緩くしてある。


 あとはウサ耳族次第だ。

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