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ハズレ勇者がチート無しで活躍できる七つの秘訣  作者: まさな
第二章 人を集めるために必要な事
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第一話 仲間にしてはいけない者

 大陸歴527年6月7日。俺が異世界に来てひと月が過ぎている。

 ミストラ王国を撃退した俺達は、自然と落ち着いた笑顔になっていた。


「では改めて軍師ユーヤ様、ミストラ王国の捕虜をどうするか、決めて頂きましょう」


 第一王女アンジェリカが言う。歳は十八、美しい銀髪の姫君は、この国の外交と内政を(つかさど)る宰相クラスの実力者でもある。


「は。身分の低い者は解放して追い返し、身分の高い者は身代金を要求する、それでいいのではないでしょうか」


 城の図書室で捕虜の扱いについて学んでおいた俺は、そう答えた。

 普通は奴隷にしたりもするのだが、奴隷制度は反乱を起こしやすくなる。戦時のどさくさに一斉蜂起されたら本当にどうしようも無くなるし、目も当てられないからな。


「そうだな。今はこちらに奴隷を抱えたところで、食わせる食べ物が無い」


 国王も納得の同意。この王様、この状況下で軍事優先の方針は採らないようだから、まともそうだ。


「そうね」

「それがよろしいでしょう」


 第二王女のリリーシュと宮廷魔術士のクロフォード先生も賛同。

 反対意見は出なかった。


 決まりだな。


「ではこの件はそのように。ミストラ軍に焼き払われた村には兵士を派遣し、復旧に取りかからせます。村に見舞金も出しましょう」


 アンジェリカがその他の対応について決めた。


「砦には兵を入れ、国境の守りは固めておいて下さい。次はミストラ軍を中には入れません」


 俺は復旧活動が妨げられないように手を打っておく。攻城兵器を失ったミストラ軍だが、騎馬隊はまだ健在で警戒が必要だものな。

 まあ、糧食や武器もたくさん押収したので、向こうもすぐには動けないだろう。

 これまで十年間、大きな戦を仕掛けてこなかったのだから、彼らも勝てると思える算段を付けてから動くはずだ。


「じゃ、私が歩兵五百を連れて復旧と警備に当たるわね」


 リリーシュが言うので俺も頷く。兵の運用については、将軍を務める彼女に任せておけば間違いは無い。

 俺と同い年の十六歳だそうだが、青色の軍服を着て腰に剣をぶら下げた姿は様になっている。

 金髪美少女が将軍とはなんだか不思議な気もするが、これもスキルの存在があるからなのだろう。


 だから、こちらの世界では見た目だけで人物を判断するのは極めて危険だ。

 子供であろうと注意しないとな。


「ええ、リリー、お願い」


「私はいったん、頭領の所に戻りますが、構わぬでしょうか?」


 エマが皆に聞いたが、彼女は竜人族でありラドニール王国の臣下ではないから、別に国王の許可を得なくてもいいはずだ。

 こちらの方針について情報を持っているので、スパイと勘違いされないようにという彼女なりの配慮なのだろう。


「無論だ。竜人族の長、ダーン殿にはよろしく伝えておいてくれ」


「はっ、陛下、ありがとうございます。ではそのように。失礼します」


 エマは一礼して出て行った。


「なーんか、急に礼儀正しくなったわね、あの子。前は黙ったままムスッとしてユーヤの後ろにつっ立ってただけだったのに」


 リリーシュが言う。


「これも勇者様の愛でしょうか」


 アンジェリカがニッコリ笑って言うが、俺をからってるなあ。ここは真面目に否定しておこう。


「いいえ、ラドニール王国の実力を見て、エマがこちらと組むべきだと自分で判断したからでしょう。現在、我々は竜人族にとって、東でもっとも力のある国だと証明したわけですから」


 それに、人間の戦い方を見て、何か思うことがあったに違いない。

 文明技術はこちらの方が上で、おそらく竜人族は攻城兵器や騎馬隊の運用なんてやらないだろうからな。


「力ねえ? 攻められてばっかりでそんな気は全然しないけど」


 リリーシュが言うが、こちらは兵士をほとんど減らさずに勝利したのだ。属国も一つ作っているから、今後、ミストラ王国とは互角以上に戦えるだろう。

 ラドニール王国は戦の勝利によりそれだけの力を付けたのだ。



「お話し中、失礼します。捕虜の何人かが陛下にお目通りをと言って聞かないのですが……」


 兵士がやってきて言う。


「どうせ文句を言うつもりなんでしょ。そんな奴ら、くつわをはめて牢にぶち込んでおきなさい!」


 リリーシュが『なぎ払え!』のポーズで言う。彼女の白いマントが音を立てて翻り、格好いいけどなんだかおっかないな。 


「いえ、それが、陛下に忠誠を誓わせて頂きたい、と言っています」


「ええ? あー、アイツかなあ……」


 リリーシュは思い当たる人物がいるようだ。


「ふむ、余に忠誠を誓うと言っているなら、話してみても良かろう」


「父上! ミストラの人間ですよ?!」


「分かっておる。心配せずとも配下にするつもりなど無い。情報が聞き出せると思ったまでだ」


「ああ……」


 甘いお人でも無かったな。当然だ。この資源の無い小さな国を周辺国の襲撃から長年守り抜いてきた国王だ。



 その国王がこの場で謁見すると決め、後ろ手に縛られた捕虜が二人、兵に連れられてやってきた。

 一人はなんだか気持ち悪い薄ら笑いを浮かべている。ひょろっとした絹服の男。

 もう一人は今にも死にそうな感じのウサギ耳のコスプレ、いや、ウサ耳族の少女だ。


「そっちの子は縄を解いてあげなさい。陛下の警護は私がやるから平気よ」


 リリーシュもウサ耳の少女には同情したようで、指示を出す。


「いえ、姫様、それは我ら衛士でやりますので、あなた様もお下がりを」


 兵士が縄を解いてやったが、先に口を開いたのは絹服の男だった。


「これはこれは陛下、お目通りが叶い、無上の喜び。私は元将軍ワイローと申します。文官としての才覚もございますので、そちらで取り立てて頂ければ粉骨砕身の働きをご覧に入れましょう」


 こいつ、口達者というか、敵の前に縄で縛られて突き出されてるのに、よく喋れるなぁ。

 そこに感心する。


「黙れ」


 国王が冷たい声で言い、兵士が剣を男の首に突きつける。

 そうだな、許可も得ずに発言なんて有り得ないし、お前今、元将軍って言った。それってミストラの幹部じゃん。


「ひっ、も、申し訳ありませぬ」


「まずは余の質問に答えるのだ」


 兵力、敵の幹部の名前、その人となり、ミストラの方針、ミストラの弱点を国王が聞き、ワイローもすらすらと答えた。

 嘘をついている可能性もあるので、情報の裏取りが必要だが、彼の話だとミストラ軍は相当な無理をしてこちらに攻め込んできたようだ。


「ふうむ、ドラン三世の実績作りのための戦争か」


「ええ、私は体制はキュッと引き締まっているので、そんなの要らないとは思ったんですけどねえ、ドランの命令には逆らえなくて」


 すっかりこちらの味方気分で馴れ馴れしく話しているワイロー。


「他に、聞くべき事はあるか?」


 国王がこちら側を見回したが、全員、首を横に振った。


「では、さっそく僭越ながら私めから、この国の革新的なグランドデザインと、グローバルな視点に基づく内政の骨太アジェンダとマニフェストをば」


 誰も聞いてないのにワイローがペラペラと話し始めた。


「もう良い。我が身可愛さに自らの国の情報を簡単に売り渡し、それを恥とも思わぬ輩、余の配下にしたところで、いつまた他国に寝返るか分からぬ。この者は即刻処刑せよ」


「はっ!」


「なっ! そんな! 陛下、お待ちを! もっと広い視野に立って、イエスマンばかりのお友達に囲まれていては、道を誤りますぞ! へ、陛下ぁ! 陛下ぁ! 陛下ぁ!」


「うるさいぞ、軽々しく我らが陛下を呼ぶな!」


 兵士がワイローを殴って黙らせ、引きずって行ったが、あんなのが仲間になってたら最悪だったな。


「なにがお友達よ、あいつが一番、イエスマンで馴れ馴れしかったっての! あー、ムカつく」


 リリーシュもイライラは頂点だったようで、拳をプルプルさせて床をブーツで踏んづけた。

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