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第十四話 使者

 俺達が南の『獣人部族連合』に勝利した三日後、ラドニール城の玉座の間にターバンを頭に巻いた男が跪き謁見していた。

 彼の後ろにはカラフルな絹の反物(たんもの)が山のように積んであり、ラドニール国王への献上の品だそうだ。


「我ら『自由交易都市議会』は、ラドニールの勝利を熱烈に歓迎し、皆がマケドーシュ様の武名をそろって賞賛しております」


「ふむ。だが、貴殿らは『永世中立』を(うた)っていたのではなかったか。『獣人部族連合』の者たちが聞いたらどう思うかな?」


 国王が探りを入れた。


「南の獣人など、国としての形になっておりません。我ら人間からみれば、夜盗の集まりや烏合の衆というものでしょう」


 酷い言いようだな。

 属国となった国はもはや用無しか。商売はまだ続けるのかもしれないが、獣人達から取引を切られても別に気にしないということだろう。

 実にビジネスライクだが、こちらも戦争で負けたら簡単に手の平返しをやられそうだ。


 この国は『一時的にしか信用できない』相手だな。


 もっとも、金で動く商人の集まりだから、彼らが忠誠を誓うのは最初から最後までお金に対してだけだろう。


「我らと言ったが、貴殿らの議会には獣人の者もいたはず」


「ええ、ええ、ですが、議会では多数派ではありませんので。かの国とつながっていた議員の一人はすでに失脚しております」


「そうか。では、献上品はありがたく受け取るとしよう」


「ありがとうございます。快く受け取って頂き、いやはや、ワタクシも肩の荷が下りました」


 話が終わったようで、国王が俺の方を見た。

 事前の取り決め通りに頷き、ここからは俺が口を開く。


「議員、一つ、お願いがあるのですが、よろしいですか」


「ええ、なんでしょうか」


「私はヴェネトに行ったことがありません。一度、この目で街と港を見てみたいのですが」


「おお、では、ワタクシどもが乗ってきた馬車にお乗り下さい。もちろん、帰りの馬車も無料でご用意させて頂きますとも」


 気前が良いね。


「ありがとうございます」


「お礼には及びません。お安いご用ですとも。それで、ええと、失礼ですが、あなた様のお名前は?」


「ユーヤと申します。陛下には文官として登用して頂きました」


 ヴェネトの人たちに対しては勇者の身分を隠したいからだが、実際にアンジェリカが推薦してくれ、本当の文官として取り立ててもらっている。


「ほほう、そうですか。お若いのにこの場におられるとは、よほど、才能に恵まれた御方なのでしょうな」


「いえいえ」


 『才能(スキル)無し』ですから。


「あと、私の連れが三人いますが、構いませんか?」


「もちろん、大丈夫ですとも。では、ワタクシはこの国の市場を回って参りますので、その間に出立の準備をなさって下さい。後ほど城門にお迎えに上がります」


「分かりました」


「それでは、国王陛下、皆様も、失礼いたします」




 ヴェネトの外交官がにこやかに広間を出て行った後、国王がため息をついた。


「戦の前は綿は値引きできぬと言っていたのに、戦で勝った途端に値下げし、絹まで寄越してくるとは、露骨すぎて呆れるほどだな」


「ええ。ですが、力のある相手と評価されるのは、力が無いと侮られるよりは良いかと」


 アンジェリカが言うが、その通りだろう。


「そうだな。勇者殿、ラドニールはこれまで通り、『自由交易都市ヴェネト』に対しては中立で行く。それで良いか」


「はい、それがよろしいかと思います、陛下。彼らは物資や資金力はありますが、軍事力がありません。味方に付いたとしても、肝心なときに頼りにはならないかと」


「うむ。貴族達の一部には贈り物に目がくらんだか、ヴェネトと組むべきだという意見があってな。鼻息の荒い貴族の謁見では苦労させられそうだ」


「心中お察しします」


 どこに忠義が向いているのか分からない貴族や、目先の金しか見ていない貴族の相手は疲れるだろう。

 さすがに俺が「悪即斬でやっちゃえばいいんすよ、そんな奴ら」なんてことも言えないからな。形式上は国王の部下だもの。

 貴族達は私兵や領地も持っているから、この国では無視できない存在だ。今回の戦だって、貴族たちが兵を出してくれなかったら、数が半分もそろわなかった。


「それで、勇者殿、ヴェネトでは何をするつもりかの?」


 老臣クロフォードが聞いてくる。


「主に情報収集です。特に、北のミストラの動向を探るには、あそこが一番かと思ったので」


 ラドニールからミストラに通じる街道は何年もの間、ずっと封鎖されているという。だから、ミストラ王国に行こうとするなら、いったん、東に出て別の街道を行く必要がある。

 他にも、ヴェネトを仮想敵として、制圧できそうかどうか、軍備はどの程度かを見ておくつもりだが、これは口に出さない方がいいだろう。中立の方針を打ち出したばかりだからな。


「ふむ。ま、ドラゴンを追い払った勇者殿なら、色々と気づくこともあるかもしれませぬな」


 もちろん、ラドニール(こっち)の情報員もヴェネトにはいるだろうが、百聞は一見にしかずだ。俺の目を養うためにも、一度、他国を直に見ておきたい。


「私もこのところ、ヴェネトには行ってないから、付いて行きたかったわ」


 リリーシュが言うが。


「「 姫様は、お立場もありますゆえ、ご自重下され 」」


「ハモった!?」


 将軍としても有能なリリーシュには、ここを守っていてもらわねば困る。竜人国へ連れて行ったが、あれも間違いだった。

 なにせ戦で兵を完璧に統率していたからな。そこまでの人物とは俺も知らなかったのだ。


「ふふ、私もそう思ったわよ」


 アンジェリカ王女が言う。


「余もだ」


「ええ? 姉様やお父上まで、もう、みんなして」


 少し不満そうにそっぽを向いてしまったリリーシュだが、ある程度、国の防衛がしっかりしてきたら、外遊にでも出てもらおう。

 交代要員や別働隊を動かせる人材も、絶対に必要だからな。

 ワンマンではダメなのだ。組織は大勢で動かす物なのだから。一人では組織とは呼べない。



「じゃ、リリーシュ――殿下、伏兵の練習を合間で良いですから、やっておいて頂けますか」


「ユーヤ、敬語禁止令」


 え? 国王の前でも!?


「リリーの好きにやらせてやってくれ。苦労を掛けるが、勇者殿」


「いえ、そんなことは」


 この場では見知った重臣しかいないからいいだろうけど、新参者が馴れ馴れしくしてたら、やっかみとか買いそうだよね。

 それを知ってか知らずか、ニヤニヤしてるリリーシュがちょっとうぜぇ。


「では、行って参ります」


「うむ。頼んだぞ」


「はっ」


「お土産も、忘れないでね、ユーヤ」


「リリー、ユーヤ様は遊びに行くわけでは無いのよ」


「いいじゃない、姉様。どうせ商人の国へ行くんだから」


「覚えてたらね」


 俺はリリーシュ達に見送られながら、城の広間を出た。

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