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第十二話 最後の族長

(視点が別人に変わります)


 ……どうしてこうなった?

 目の前には倒れた仲間の死体が山のように連なっている。


 人間相手なら、楽勝だったはずだ。

 ラドニール最強と言われる剣姫でさえ、手合わせしてみてそこまで大したことは無かったのに。

 数もこっちが上って聞いたし。


「お嬢、お嬢!」


「な、なんニャ?」


 アオイは考え込んでいて自分が呼ばれていることに気づいていなかった。はっとして聞き返す。


「しっかりしてくれ。お前は猫耳族の族長、この戦の大将だぞ」


「そんなこと、分かってるニャ!」


「ならいいが。だが、お嬢、そろそろ潮時かもしれねえぞ。あの城は全然、落ちる気配がしねえ。一方で、味方はどんどん死ぬばっかりだ」


「それは諦めて、帰るってことかニャ?」


「そうなるな」


「でも、それじゃなんのために……」


「畑の野菜を取って帰りゃ、名分は立つ。縄張りも広げたんだ。それでいいだろう」


「それでみんなが納得するニャ?」


「さあな、揉めることは揉めるだろう。だが、これ以上やっても、勝ち目がねえぞ」


「ムー……」


 この戦を始めたのは食べ物をもっと取らないと生き残れないからだ。

 ブチは縄張りを広げたと言うが、人間にそれを認めさせないと小競り合いはまだ続くだろう。

 こちらが今退けば、連中、勝ったと思い込んで反撃に出てくるのでは?

 アオイや男衆がいれば、向こうの兵士がいつ来てもへっちゃらだが、森に女子供の時だけだと大勢の兵士相手は厳しい。

 こちらにこういう城は無いのだ。


「アオイ殿!」


 迷っていると白い犬耳の老人がやってきた。犬耳族の族長だ。


「ああ、ハチさん。なんですニャ?」


「城攻め用の盾が完成した」


「おお! じゃあ、それで攻めれば」


「上手く行くかもしれん。だが、やるのは猫耳族だけでやってもらいたい」


「ええ? それは……」


「爺さん、そりゃねえんじゃねえか。この戦、アンタ達も賛成しただろう」


 ブチが言う。


「確かにそうじゃ。だが、これはもう負け戦よ。皆ももうやりたくないと言い出しておる。お頭がまだ戦うと言うなら付き合わねばならんが、協力はここまでじゃな」


「分かったニャ。その盾でダメなら、もう退くニャ」


「よかろう。では、もう一回だけ、付き合うとするかの」


「よしっ、手勢を集めるニャ。誰か、城に突っ込みたい奴はいるか!」


 呼びかけたが、誰も手を挙げない。

 最初は我も我もと皆が手を挙げていたというのに。


「突っ込むのはこれで最後だ。盾もあるぞ! この中に男を見せようって肝っ玉の奴はいねえのか! 褒美も出すぞ! どうした! それでも男か!」


 ブチが怒鳴る。


「じゃあ、アンタ達で行けよ」

「そうだそうだ! 自分が行けよ」 


「なんだと! 族長と与力に向かって、なんて言いぐさだ。お前達も戦に賛成したからここにいるんだろうが」


「フン、危険な事ばっかりやらせて何が族長だ」

「族長なら皆を守るべきだろう。自分達は安全なところにいて好き勝手言いやがって。お前らがどれだけ仲間を殺したと思ってる!」


「アタシは――!」


 仲間を殺す気は無い!

 そう続けて言いたかったが、何かが胸に刺さったように言葉が出なかった。


「ああ? オレらが殺したんじゃねえぞ?」


「似たようなもんだろ。だいたい、なんでこの城を落とさなきゃいけないんだ」


「そりゃ、人間どもが立てこもってるからに決まってるだろう。連中の頭を倒さなきゃ、いつ攻めてくるかわからんぞ?」


「攻めてきたら返り討ちでいいだろうが」


「こちらが少人数の時に大勢で来られるとまずい。とにかく、族長の命令だ。五男坊は全員出てもらうぞ」


「チッ!」


 舌打ちして恐い目で睨まれたが、犬耳族も仲間を出すと言っているのに、こっちは出さないなんてことは言えない。

 だが。


「アタシも行くニャ!」


「気にするな、お嬢。お前がやられると猫耳族がまとまらなくなる。代わりにオレが行く」


「ブチ……」


「後の事はシロかクロに手伝ってもらえ。この戦の前に、オレに何かあれば族長の与力になれと頼んでおいた」


「ええ?」


 ブチはここで死ぬつもりなのか。シロやクロも頼りにならないわけでは無いが、ブチが一番良くやってくれている。


「そんな顔するなよ、お前は族長だ、お前が迷えば皆も不安になる。嘘でも胸を張っていろ」


「わ、分かったニャ」


「よし! お前ら、行くぞ! ひ弱な人間どもに、獣人族の強さ、肝っ玉を見せつけてやれ!」


「「「 応! 」」」


 ブチと仲間達が丸太に集まり、そこに組み合わせた大盾を持つ者が加わって屋根のようにしていく。

 これで上から矢で狙い撃ちされても大丈夫だ。お湯は少し厳しいが、盾で直撃を防げばなんとかなる、はずだ。


「アレで上手く行けば良いが……いや、行ってくれなければ困る。頼むぞ……」


 隣のハチも不安なのだろう、祈るようにつぶやきながらその場で見守った。

 やっぱり止めた方が良いのではないか、アオイはそう思ったが、すでにブチ達が走り出している。


「「「うおおおお!」」」


 男衆の雄叫びと共に、勢いよく丸太が城門の扉にぶつかる。

 ドォーンと派手な音がして、だが、城門は破れない。


「放て!」


 城門の上から人間達が矢を射かけ始めた。

 だが、盾持ち役の獣人達が構えた盾はぴったりと重ねてあり、矢を弾く。

 持ちこたえた!


「よしっ! これなら行けるニャ!」


「もう一回だ、行くぞ、野郎ども!」


「「「 応! 」」」


 ドォーンと、再び、扉に丸太がぶつかった。


「掛けろ!」


 今度は人間達がお湯をぶっかけてきた。


「ぎゃあっ!」

「あちちち!」


「火傷した者は下がれ!」


 何人かが脱落したが、盾でお湯攻撃のほとんどは防いだ。これなら行ける! やれる!

 そうアオイが思ったとき。


「放て」


 もう一度攻撃しようと下がっている丸太に対して、今度は火の付いた矢が何本か飛んできた。

 矢は盾に弾かれたものの、盾に火が燃え移ってあっという間に広がっていく。


「うおっ!?」

「も、燃える!」

「ひいっ! あちち!」


「火が! な、なんであんな簡単に」


「いかん! あ、油じゃ! 奴ら、油を使っておるぞ!」


 ハチが慌てた声で叫ぶ。


「み、水を、水を掛けてやるニャ!」


 アオイも慌てて指示するが、炎がなかなか消えない。


「ひいっ」

「た、助けてくれぇ」


 のたうち回る仲間の火をようやく消したが、酷い火傷を負って動ける者が一人もいない。


「うう……」


 うめき声を上げる仲間達。


「なんて酷い……こんな、ブチ、しっかりして!」


「アオイ殿! 頃合いじゃぞ。もういいじゃろう。お前さんが言わないと、誰も逃げられんぞ」


「ハッ! た、退却! 退くニャ!」


「くそ、やってられっか、こんなこと!」

「畜生、人間め」


 仲間達が意気消沈し罵りながら下がり始めたが、そのとき、城門が開き始めた。


「なんだ?」


「き、騎兵だ! 騎兵が来るぞぉっ!」


 アオイはぞっとした。馬は獣人よりも足が速い。

 逃げても追いつかれる。


「怪我人を早く運ぶニャ! 戦える者は、盾を持って並んで!」


 指示するが、誰も聞いてくれない。

 いや、聞こえていないのだ。

 慌てふためいた獣人達は逃げ惑うばかりで、騎兵に次々と()ね飛ばされていく。


「こ、降参ニャ! もういいニャ! やめるニャ! 止めて!」


 だが、騎兵が止まらない。


「そんな……くっ! 人間どもぉーっ!」


 アオイは腰の剣を抜き、騎兵にただ一人、突っ込んだ。

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