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第二十三話 潜入作戦

「何が?」


 ミレットは理解できないという風に、ブランカに向かって問い返した。


「先ほどから、あなたの都合の良さそうな話ばかりですけど、ビッグバーサにしても、ワイバーンにしても、本当の話なのかしら?」


 確かに、凄い情報を持っているらしいミレットだが、彼女が本当のことを言っているのかどうか。

 証拠は何も無い。

 

「いや、帝国のワイバーンの存在は私が確認している。すまない、ユーヤ、鉄砲の事で頭がいっぱいになってしまって、報告が遅れた」


 エマが謝ったが、鉄砲を初めて見たならば、仕方の無いことだろう。


「そうか、なら、ミレットの話は信憑性が高いと見るべきだ。ビッグバーサがあるという前提で動いた方がいい」


 俺はそのコードネームの大砲が存在した場合と、存在しなかった場合、その両方を考えた上で発言した。

 

「そうね……城壁があっという間に破壊されては、籠城もできないでしょうし」


 リリーシュも同意する。

 

「決まり! それじゃ、大砲の位置を教えるから、黒騎士の鎧と、使えそうな兵士、何人か用意してね」


 鎧の方は戦場に取りに行けば、まだ使える鎧が落ちていることだろう。その鎧を着て、敵の目を(あざむ)いて大砲に近づこうという作戦か。

 やはりエルフ、賢いな。


「使えそうな兵士と言っても……大砲を燃やす?必要があるのよね?」


 リリーシュが人選を迷いつつ言うと、ミレットが肩をすくめて笑った。

 

「無い無い。私が魔術で派手に!完璧に!燃やしてあげるから、その呪文を唱える時間を稼いでくれる護衛さんだけでいいわよ?」


「ああ、それなら、任せておいて。私とあと何人か、腕の立つのを用意するわ」


「名高い『剣姫』なら護衛にうってつけね。ああでも、ユーヤ君も来て欲しいなぁ」


「ダメよ」


 リリーシュが俺の前に出て、行かせるものですかとかばう。


「ふぅ、こういうときに、信用が無いと困っちゃうのよねぇ。でも、ユーヤ君がいないとこの作戦、失敗するわ」


「どういうことよ。理由は?」


「んー、私もそこまでは分からない……かな?」


「はぁ?」


「だが、エルフよ、お前は戦場にユーヤを連れ出し、亡き者にしようという腹づもりではないのか」


 エマが冷ややかな視線で問い詰める。

 

「まさかぁ。レオンハートを片付けたらそうしようと思ってるけど、今は必要だもの」


「言った! 今、ユーヤを片付けようと思ってるって言った!」


 リリーシュが興奮気味に指さすが、ミレットもこれは嘘を付いている感じではないな。

 だまし討ちにするつもりなら、わざわざ最初から警戒させるようなことは言わないだろう、普通。

 

「分かった。俺が必要だというのなら、行こう」


「ちょっと、ユーヤ、本気なの?」


「ああ。ただし、条件がある。いや、確認かな。ミレット、君はどうやって大砲の情報を掴んだんだ?」


「それは秘密、と言いたいところだけど、『私の特殊技能(スキル)』というところまでは教えてあげてもいいかなー」


「スキルか……」


 内向きなエルフではあるが、周辺国を警戒して情報収集をしているということは充分にあり得る。

 だが、帝国も大砲などの機密情報を、まさか公開していたわけでもないだろうし、どうやってこの決定的な情報を掴んだのか、そこが気になるところだ。

 エルフの情報網が優れているのは確かだろう。

 ただ、ラドニール外交使節団を途中で取り逃がしたりと、微妙にちぐはぐなところもあるんだよな……。

 

 ミレットのスキルによる情報は、不確かなところもあると考えておいた方がいいかもしれない。

 だが、彼女自身が潜入すると言うし、これだけの自信だ。

 帝国とエルフが裏で手を結んでいなければ良い。

 遠く離れているエルフ王国だ。東に攻めてきたレオンハート帝国と手を結ぶ可能性もゼロだと俺は見ている。

 

「よし、行こう」


「本気なの?」


 リリーシュが心配するが、大砲の攻撃を受けた後ではさらに動きづらくなる。

 

「ああ。君も護衛してくれるんだろ?」


「当然でしょ」


 リリーシュなら信頼できる。

 

「それがしも行きますぞ。我がスキル『大物ハンター』の見せ所ですわい」


 ガルバス将軍も名乗り出てくれたが、彼も今ではラドニールの将軍として堅実な働きをやってくれている。

 スキルにも期待できそうだ。 


「ええ、お願いします」

 

 すぐさま俺たちは準備を整え、俺、リリーシュ、エマ、ガルバス将軍、ハイネ将軍、そしてミレットの六人で帝国軍陣地に向かって出発した。

 

 レムも連れて行きたかったし、彼女もついて来たがったが、帝国軍の鎧を着て偽装するため、子供の彼女ではすぐにバレてしまう。

 やはり戦場に子供を連れて行くのは無しだ。

 

 帝国兵の鎧に着替え、各自が馬に乗って移動する。

 リリーシュの背中に抱きついた俺は、自分が騎士っぽく見えるか心配だったが、皆そこは心配していないようだ。

 帝国兵も、アイツは持ち馬を失ったのだろうと思ってくれるか。戦場で馬を失うのは珍しいことでも無い。


「この鎧、やっぱり動きやすさもいいな……」


 帝国の鎧を着たときに驚いたのだが、この鎧は鋼や鉄ではなく、木の樹液を固めた樹脂製だった。

 帝国兵が鎧を着たまま魔法を使うためだ。

 多少の強度は犠牲にしても、魔法が戦場で使えるとなるとやはり大きい。

 

 改めてシズマの知識の厄介さに、全員が気を引き締めた。

 

 今回の敵は強い。

 

 個々の兵士はそれほどでもなくとも、鉄砲や樹脂鎧で武装した軍団である。

 西ではなく東へ侵攻してきた事もそうだ。

 ビッグバーサという大砲も用意している。

 

 全員、移動中は口数が少なかった。


 

 

「見えたわ、帝国軍の部隊よ」


 先頭のリリーシュが告げる。

 

「そのまま行きましょう」


 ミレットはそれだけ言い、そのまま馬を走らせ後ろをついてくる。

 向こうの帝国兵もこちらに気づいて顔を向けたが、緊張の一瞬――。

 

 だが、彼らは特に呼びかけてくるでも無く、そのまま行軍を続けている。

 

「気づかれていないみたいね」


 リリーシュが小声で言う。

 

「ああ。だが、これだけ大勢の部隊となると、大砲を見つけるのが一仕事だな……」


 俺は周りを見ながら言った。あっちこっちに帝国軍がいる。

 

「でも、大砲というからには大きいのよね?」


「ああ。間違いなく、馬よりは大きいさ。見ればすぐに分かるはずだ」


 ミレットに聞くまでも無い。


「なら、この近くにはいないわね。急ぎましょう」


 速度を上げ、帝国軍の中を突っ切っていく。


「見ろ、上にワイバーンが来たぞ」


 エマが上空に数騎の飛竜がやってきたのをめざとく見つけた。

 

「あれよ!」


「ええ?」「なに?」


 ミレットがそれに反応し、急に馬の方向を変える。

 

「どういうこと? 人しか乗っていないようだけど」


「いいから、ついてきて」


「どうするのだ?」


 エマが不審がるが、ここはミレットに従い、もう少し様子を見るしか無いか。

 帝国と組んで俺たちを嵌めるつもりなら、もうとっくに行動を起こしていたはずだ。


「よし、降りてきた」


 ミレットが降下してくるワイバーンを見て、ニヤリと笑う。

 

「あっ、あれはジェシカだわ!」


 リリーシュが気づいたが、確かに見覚えのあるオレンジ色のバンダナをした少女が黒騎士の中に混じっていた。


「なるほど、皇女を捕らえるか仕留めれば、こちらに有利か」


 エマが言うが、それは疑問手だった。

 

「いや、俺たちの目的はあくまでビッグバーサだ。皇女は大物だけど、軍の指揮権を持っているのはシズマの方だろうし、彼女を押さえても軍が止まるとは限らないぞ?」


 俺は思いだしたが、鉄血ギルドで騎士団に指示を出していたのはシズマだった。ロークの情報でも、軍の指揮はライオネル将軍となっていた。


「ええ? 物のついでにと思ったのに」


 ミレットが少し残念そうに言うが、皇女にも護衛が付いているのだからそう簡単にはいくまい。

 

「なら、離れましょう」


 リリーシュが方向を変え、ミレットもそれに従った。


 さらにしばらく行くと、帝国の歩兵部隊が一度途切れた。だが、その後ろ、まだ遠くに部隊がいるのが見える。

 

「大軍ねえ……」


 リリーシュがため息交じりに言うが、これとまともに戦っても厳しいだろうな。

 

「あっ、トリケラトプス! あれだ!」


 大型の恐竜が見え、その後ろに大砲を引っ張っているのが見えた。

 かなりの大きさだ。

 恐竜も大砲もどちらも優に十メートルはあるだろう。

 

 幸い、ビッグバーサは一台だけのようで、帝国軍も量産はできなかったようだ。

 ま、一台あれば城を潰すのに充分だろうな。

 

「じゃ、始めるわよ。護衛さん達、よろしくぅ」


 ミレットが楽しげに言い、まだ距離があるその場から呪文の詠唱を始めた。

 

「ええ。このまま突っ込む! 散開して着いてきて!」


 リリーシュが指示を出す。


「「「了解!」」」


「んっ? リリーシュ、俺も乗ってるんだが?」


「分かってるけど、一暴れするから振り落とされないようにしてね、ユーヤ!」


 ミスった。乗るならエマの馬にすれば良かった。

 王女のくせに先頭を切って突っ込むとか。

 全然護衛じゃ無い!


「おい! お前達、何をしている」


 向こうの帝国兵も遅まきながら俺たちの行動を怪しんだようで声をかけてくるが、馬鹿正直に教えてやる必要も無い。

 そのまま突っ込む。

 

「ぐあっ!」


「くそっ、何のつもりだ!」


 切り捨てられて、大砲の護衛兵――いや、弾の装填と操縦のための兵士達も慌てて腰の剣を抜く。 

 

「遅い!」


 エマが馬で駆け抜けながら敵兵を斬る。

 ガルバス将軍とハイネ将軍も見事な剣捌きで、あっという間に敵兵を仕留めた。

 

「オーケー、派手にいっくよー? 光れ! 暁に近き灼熱よ、黒き災いの瞳をもって、すべてを溶かせ! フレア!」


 ミレットが呪文を完成させると、まばゆい光の弾が大砲へ飛び、命中した。

 すさまじい高熱のようで、巨大な砲身が赤くただれてどろりとゆがむ。

 これで爆発しなくても、この大砲はもう使えまい。

 

 だが、大地を揺らすような音を立てて大砲は派手に爆発した。

 

「くっ、離れろ! ここは危険だ! 予備の弾も誘爆するぞ!」


 降りかかる紅蓮の炎と鉄の破片が鎧に当たるのを感じつつ、俺は叫ぶ。

 

 炎と爆音に驚いたトリケラトプスが吠える中、思った通り近くの弾も爆発し、さらに混乱が増す。

 

「う、うわあ!」


「くそっ!」


 帝国兵も俺たちに構っている余裕など有りはしなかった。彼らも必死で逃げ始める。

 

「やったわね!」


 リリーシュが喜びの声を上げるが、ふう、死ぬかと思った。

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