第十四話 家は恋人?
それもそのはず、巨漢の上に、威圧感のある熊族だった。
見た目はまんま熊。
獣人をすっかり見慣れた俺でも、まんま熊が二足歩行というのはちょっと引く。
爪もあるが、これで字が書けるのか……?
「あらま、感激! そのミスリルの剣、噂の『剣姫』ではなくって?」
ゴツい熊がこちらを見るなり、両手を合わせて喜んだ。
「ああ、ええ、そうだけど……えっと? あなたは男性じゃなかったかしら?」
リリーシュが怪訝な顔をしてロークの顔を窺う。ロークはニッコリ顔で頷いたが、男性で間違いないようだ。ま、声、低いし。
「昔はね」
熊も軽く答える。
「いや! 年月が経って女に変わったりするわけないじゃない!」
「若いわね、フフ。人生ってのは色々あるのよ、お姫様。特に恋は人生を、いいえ、運命をも変えちゃうのよ」
「却下! お帰り下さい。今すぐ!」
「まあまあ、リリーシュ、まだ話も聞いてないじゃないか」
「だけど!」
「安心しろ。コイツは絶対に大丈夫だ」
俺はリリーシュの目を見て言う。
「……ユーヤ、信じて良いのね?」
「もちろんだ。俺の趣味はもう君もよく知ってるだろ」
こんなデカくてゴツいのは、いや、小さくて可愛らしくたって、毛むくじゃらの熊は俺には無理だ。
「そうね……、オホン、失礼しました。では、住宅の計画について聞きましょうか」
リリーシュが落ち着きを取り戻し、真面目に話を聞く態勢に入った。
「ええ、待ってました。アタシのコンセプトは『安心できる家』よ」
そう言って、どう? とばかりに余裕の笑顔でこちらの反応を窺う熊だが、プランは同意できても、具体案を聞かないとなんとも言えないな。あと威圧感があるから、ちょっと安心は無理。
それも良く理解しているのか、熊は笑顔で言葉を続けた。
「安心というのは、結局、しっかりした家、特に安全面が物を言うわ。燃えたり嵐で飛んじゃったり雨漏りしたり、そんな将来の不安を抱えたままじゃ安心して暮らせないでしょう?」
それには俺もリリーシュも納得して頷く。
「だから、しっかりした家を作りましょう。少しくらい時間がかかっても、費用がかかってもいいの。家というのは人生で一番大きな買い物なんだから、安売りバーゲンなんかに飛びついちゃダメ。価値があるものは高くて当たり前なの。そこも考えて、じっくり時間をかけて選ばないと。ああでも、恋人は別よ? チャンスと見たら速攻で行かないと、すぐに良い人は他人に取られちゃうから」
「なるほど」
ためになる話だ。
「いや、恋愛アドバイスはホント、要らないですから。家の話だけしてよ」
「そうね、お姫様にこんな話は面白くないかもね。でも、結婚と恋は別、誰だって恋を楽しんでいいのよ?」
「それは……そこっ、二人とも頷かない!」
「なんなんだ、リリーシュ。まあ、家の話を聞きましょうか」
「ええ、話が進まなそうだし、仕方ないわね。私の一番のオススメは天然洞窟なんだけど、ラドニールは平地ばかりで洞窟も無いみたいだし、ここは建てる家で考えましょう」
確かに天然洞窟は燃える心配は無いな。雨の日の鉄砲水さえ気をつければ、案外、住みやすいかもしれない。
鉄血ギルドはそんな感じだし。
「建材は何を使うつもりなの?」
「もちろん、丈夫な材質よ。石、レンガ、漆喰、これを組み合わせても良いわね。アタシはオルバに職人の知り合いもいるし、少し遠いけどワイルドベアからレンガを買い付けて運んでもいいわ」
「うーん、輸送か……」
俺が唸るが、輸送距離が長ければそれだけ費用もかかるし、何よりこの世界では治安に不安がある。大量輸送で定期的に輸送となれば、盗賊の心配やその対策も必要になるのだ。
「警備ならアタシに任せて。そんじょそこらの盗賊なんて熊族の敵じゃ無いわ」
「でも、じゃあ、熊族の盗賊が出てきたら、どうするのよ」
熊に否定的なリリーシュが詰問する。
「フフ、そこは運が悪かったと諦めるしか無いわね」
「ええ?」
「でも、警備にきちんとお金をかければ、一国のプロジェクトが盗賊に潰されるってことは考えにくいわよ。兵士だってたくさんいるでしょう?」
「その辺は後でもう少し詰めて考えるとして、家はレンガを基本にするってことでいいのかな?」
「そうね、アレが一番、組み立てやすいし、かえって石よりは技術も要らないわよ」
「その場合、藁葺きと比べて費用面はどうですか?」
ロークが質問をぶつけるが、これは熊に聞くより、自分たちで調べた方がいいだろう。だが、ロークのことだから、後で調べるのを前提として、本当の話をしてくれるかどうかを試しているのだ。
「ええ? そりゃあ藁葺き屋根の方がずーっと安く早くできるに決まってるじゃない。やあねえ。でも、あれってそんなに寿命は無いはずよ。三十年も持つかしら? レンガなら百年は軽く持つわ。だから、百年先までをトータルに計画するなら、三分の一以下の値段でないと立て替え費用で藁葺きの方が高く付いちゃうわね」
俺とロークとリリーシュで、目配せし合い、頷く。
この熊、タダ者では無い。
特に計画性という点で、他の二人より抜きん出ている。
「お見それしました。ぜひ、ラドニールの住宅計画長官に就任していただきたく」
三人で頭を下げてお願いする。
「決まりね。後悔はさせないわ。アタシ、新しい恋はラドニールで探そうと思って新天地にやってきたの。この国にはきっといくつも輝きがあると思ってたし、もう見つけちゃったワ」
そう言って俺に向かってウインクする熊。
「「 えっ!? 」」
「ああ、そんな顔しなくたって、恋人じゃ無くて輝きの方よ、フフ。あなたもキュートだけど、私、包容力のあるどっしりした人がいいの。そこは私より長身の人でなくっちゃ。あと、ちょっとワイルドなら最高ね」
こうして後にラドニールの内政長官となるベアトリーチェ氏の住宅計画長官への就任が決定した。なお、彼の昔の名は熊三だそうだ。




