第十二話 修羅場
(視点がレムに変わります)
今日はスープがとてもウマかった!
今までで一番だった。
焼いた豚さんよりもウマかった。
こういうときは……そうだ!
「日記に書くー!」
「ええ? レムはよっぽど気に入っちゃったんだなあ。こうなったら、ホタテの養殖でも考えるか……」
ユーヤが何か良いアイディアを思いついたようで楽しみ!
「ふん♪ふん♪ふふん♪ふんふん♪ふーん♪ ダー!」
ユーヤとリリーシュに教えてもらったニンゲンの文字で、今日の日付と天候と、ホタテスープ最高!と書く。
その下に、オレ様と、ユーヤとリリーシュと、アンジェリカとクロフォードの似顔絵を描く。
もちろん、ホタテスープの皿も!
「できた! むふー!」
自分でも会心の出来だ。
「どれ、見せてごらん」
「うん」
ユーヤに見せる。ユーヤはオレ様が一生懸命に豚さんを書いても「これ……熊?……猫さん?」と首をかしげて言ったり、ちょっと察しが悪いのだが、今日は大丈夫だろうか?
「ははあ、これが今日の朝食のみんなか」
「うん!」
ユーヤにもすぐに分かったようだ。
「状況が一目で分かるいい絵だ。……リリーシュだけ怒りんぼ顔になってるが、まあいいか。じゃ、せっかくだし、これは花丸付きでしばらく壁に飾っておこう」
「やったー! 花丸!」
良い絵の時はユーヤが『たいへんよくできました!』と褒めてくれた後、部屋に飾ってくれる。
親父様もオレ様が初めて狩りで狼を仕留めたときも、その尻尾を巣に飾ってくれていた。
親父様は死んでいなくなってしまったけれど、ユーヤが代わりにいてくれる。
それがとても嬉しい。
嬉しいのもっと上、なんだか心がとっても温かい気分だけど、とにかく嬉しいのだ。
「それにしても、リリーシュは何のことを言ってたのかな……」
「ユーヤ?」
オレ様は嬉しいのだが、ユーヤはどうもリリーシュが怒っていたことが気になっているようだ。
アイツは時々怒ってるから、別に気にしなくたっていいのに。どーせ、明日になればケロッと忘れて機嫌もすっかり直ってるし。
ただ……リリーシュがさっきアンジェリカに嘘を付いたのはオレ様もちょっと気になった。
リリーシュがアンジェリカに嘘を付くのは珍しい。
ユーヤには時々嘘を付いてるけど。
叱られるのが嫌だったのかな?
リリーシュはオレ様を叱るけど、そのリリーシュはアンジェリカによく怒られてる。
だから、この城で一番偉いのはアンジェリカなのだ。
ユーヤはリリーシュの下。オレ様と同格だ。
「おう。ちょっと、ふあぁ。寝かせてくれ」
「エー。リバーシしたい!」
「昼過ぎに付き合ってやるから、もう限界、お休み、ぐう……」
「むー」
小芝居でなく、本当に寝てしまった。クロフォード先生が言ってたけど、ユーヤは疲れてるのかな?
リリーシュの様子が変だから、ユーヤが気にしてたけど、それが『シンロー』という病の元になったのかもしれない。
「よし! リリーシュが普通になれば、ユーヤも元気、リバーシもできる! あっと……」
つい良いことを思いついて大きな声を出してしまった。でも神経質なユーヤも今は疲れているのかぐっすりだ。よし。
「原因は突き止めてキューメーして解決する、それが名探偵! 頭脳は大人、見た目は幼女がサイコー!」
あくまでも小声で、ユーヤの決め台詞を言う。
間違ってもリリーシュに聞かれてはいけない秘密の呪文だ。
前にユーヤがリリーシュが後ろにいると知らずにコレを唱えて、剣の特訓にさんざん付き合わされてヒーヒー言ってた。
ユーヤに毛布を掛けてやり、ユーヤの部屋を出てリリーシュの部屋に向かう。
「くんくん、あれ? いないな」
リリーシュの部屋の前まできたが、匂いがほんのちょっとだけ薄い。
「こっちか?」
一番新鮮な匂いをたどっていくと、どうもアンジェリカの部屋に向かったようだ。
リリーシュはアンジェリカの部屋を週に何度も訪ねている。アンジェリカの仕事部屋の方じゃ無くて、寝る部屋の方。
「いたいた、二人ともいた」
匂いが濃いので、中にいるようだ。
「いい加減、理由を話してくれないかしら、リリーシュ」
「それは……」
二人の話し声も聞こえてきた。
「リ――」
「言えないの? リリーシュ、あなたは王女という立場で、その発言にも影響があると何度も言ってきたでしょう。公然と、他の者の目もある前で、勇者様に品の無い罵倒を浴びせるなんて」
「それは、別にいつものことじゃない。みんなも気にしないわよ」
「いいえ、事情をよく知らない者が聞けば、誤解するかもしれませんよ。それに王女が『いつものこと』にしてはいけません」
むむ、まずい、どうもアンジェリカがお説教モードのようだ。
普段はとても優しいアンジェリカなのだが、たまに、王女の立場の話になると、厳しい一面を見せてくる。普段はとてもおっかないリリーシュも王女の立場の話になるとタジタジだ。
「うー、入りづらい……」
困った。
「誤解って、姉様がユーヤとの関係を誤解されるのは良いって言うの?」
「んん? どういう意味ですか、リリー」
「またとぼけちゃって。私、姉様が昨日の夜、どこにいたか、知ってるんですけど」
「ああ……ふふっ」
「わ、笑わないで!」
「そうではありませんよ。誤解です」
「ええ?」
「確かに、昨日、私は一夜を共にする覚悟でユーヤの部屋を訪ねましたよ」
「!」
「でも、そうはならなかった。ユーヤはあなたを選んだのですから。いえ、どちらもまだ選べなかったから先送りというところでしょうか」
「それ、本当の話なの?」
「どうしてこんな大事なことで、あなたに嘘を付くのですか。そんなに疑うのなら、ユーヤに聞いてご覧なさい」
「でも……二人で口裏を合わせてたら、意味ないじゃない」
「ええ? 困りましたねえ」
ここは、どうやらオレ様の出番のようだ。
堂々とドアを開けて入る。
「リリーシュ」
「あ、レム。悪いけど、今、凄く込み入った話で取り込み中なの。後で遊んで上げるから」
「そうじゃない。アンジェリカは本当の話をしてる。嘘は言ってないぞ」
言う。
「んっ? 本当?」
「ウン」
「レム、まさかとは思うけど、ユーヤに入れ知恵されて、私に嘘を付いたりしたら――」
リリーシュが真顔で腰の剣の鞘に手をかけつつ言う。ヤバイ。
「し、しない。リリーシュは魔法の剣も持ってるし、それでなくたってオレ様はユーヤにもリリーシュにも嘘は付かないぞ」
「……よし。じゃあ、信じるわ、姉様」
「ええ、ありがとう。ありがたみが全くないけれど」
「じゃあ、昨日は、その……二人きりで、いったい何をしてたのよ」
「お話ですよ。今後の人事や私が王位を継いだ後の体制をどうするかで思った以上に話し込んでしまいました。確かに、迂闊でしたね。何も昨日の夜では無く、きちんと昼間に時間を取って話すことでした。そこは私が悪かったわ。気を揉ませてごめんなさいね、リリー」
「ああ、うん」
「でも、リリー、良く気づいたわね。昨日はあなた、ユーヤを訪ねて行って私を見かけたの?」
「う……いや、け、ケービ責任者として衛兵から話を聞いて……」
「んん?」
「今、嘘ついたぞ!」
「ばっ、ちょっとレム!」
「……どういうことかしら? あなたも正直に話してもらうわよ、リリーシュ。警備の関係なら、エルフのユーヤ暗殺計画も最重要対策事項なのですから、包み隠さず。第一王女としてここに正式に命じます」
「うわぁ……レムったらもう……! あなたは今いいから、あっちに行ってなさい! これは大人の話だから」
リリーシュが勝手なことを言う。
「フン、リリーシュはユーヤの行動をいつも監視してるだけだぞ。警備とか関係なしに、兵士を使って。特に女の子とロークがユーヤに会ったりしたら、『何を話したか私に必ず些細なことでもナイヨーを報告すること! 良いわね。あと、姉様やユーヤにはもちろん内緒で』って困り顔の兵士に凄んでた」
アンジェリカに叱ってもらった方がいいと思ったので、ここぞとばかりにオレ様はリリーシュのずるいところを言ってやった。
「ちょっ……」
「ふう、リリー、あなた、それどう見ても私情が絡んでるわよね? 特権の濫用だわ」
「も、申し訳ございませんでした……」
「しばらくあなたは警備責任者を降りてもらいます」
「ええええ!? じゃ、誰がユーヤを守るのよ」
「私とエマでやるわ。もともと衛兵がいれば問題は無いんだし」
「それは……そうかもしれないけど……」
「さて、お手柄ね、レム。ご褒美にケーキをあげましょう」
「やっほう! ケーキ! ケーキ!」
「それ、買収じゃないの……?」
「いいえ、正当な報酬です。あなたの不正を暴いたのですから。なんなら、国王陛下に公平な裁定をお願いしましょうか?」
「ええっ!!! お、お父様に!? いやいやいやいや、そ、それだけはご勘弁を」
「ふふ、ま、あなたの気持ちも分かるから、罰則は反省文と減給だけにしておいてあげるわ。四百字五枚と、三ヶ月二割の減給ね」
「はい……五枚……二千字って」
「納得いかないなら、増やしてあげても良いわよ?」
出た、アンジェリカの恐怖のニッコリ。
「い、いえ、五枚で結構です」
「ユーヤにも謝っておくのよ」
「ああ、うん、まあ、ユーヤは知ってるんだけど」
「ええ? とにかく、不正行為なのだからきちんと謝っておきなさい」
「はい……ふぅ」
「ふふーん」
ユーヤを不正に独り占めにしようと企んだ罰だ。
反省しなさい、リリーシュ!
これでオレ様はユーヤにこっそり堂々と抱きつける。
やったね!




