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第三十二話 後始末

 カルデア王国の禁忌の結界――。

 ラドニール連合軍はそこを避けたが、革命児を自称する狼牙王国の総大将ショーンはそこに部隊を入れてしまった。


 すでに結界で砂が動き始め、何かが起きようとしている。


「ユーヤはん、ワイに乗りや。ユニコーンの本気、見せたるわ」


「お、お願いします」


 俺がタミーオの背中にしがみついて結界から逃げ始めたが、すでに結界内に入り込んでいた狼牙兵達は逃げ出すこともままならない状態になっていた。

 

「し、沈む!」

「な、なんで?」

「上がれないぞ!」

「くそっ、流砂か!」


 今まで平坦だった場所が大きく(くぼ)んでいく。

 流れる砂の前では、足場も取れず、底なし沼の様相になってきた。


 『液状化現象』か。


 俺はぎくりとする。

 

「しょ、ショーン様、いかが致しましょう!?」


「ええい、自力で這い上がってこい! そんな間抜けな奴らは放っておけ! 残った部隊で包囲するぞ!」


 警告を無視して自分で指示しておいて、それはあまりに酷い。

 自分が落ちていたなら絶対助けろと言うに決まってるのに。

 

 敵ながら、ちょっと可哀想になったので、俺は後ろに向かって叫ぶ。

 

「ロープを使え! 上から引き上げるんだ!」


 ま、動ける狼牙兵が救助に手を取られて足を止めれば、それだけこっちのもんなんだけども。フフ。

 

 人間を平然と食う狼牙族も仲間意識は強いようで、ロープや服を結んだ代用品を垂らして助け始めた。

 

 だが――

 

「な、何か、そこにいるぞ(・・・)!」


 窪んだ中心を指さした狼牙兵が引きつった顔で言う。


「は、早く引き上げてくれ!」


 蟻地獄のでっかい奴かな?と、俺が思ったとき、巨大な人の顔をした石像が浮き上がってきた。


「な、なんだコイツは!」


「シ、ン、ニュ、ウ、シャ、ヲ、ハ、イ、ジョ」


 壊れかけのノイズ混じりの機械音で石像の顔が喋ったかと思うと、まばゆい光を目から発した。

 そのビームによってつんざくような爆発が起こり、しゃれになってない。

 

「けったいなもんが出てきおったな。アレは魔神(マシン)やで?」


 タミーオは何か知っているようでその正体を言う。俺も、神じゃない方のマシンは理解できるけど。


「マシンか……なんか壊れてるみたいだし、近づかなければ大丈夫だと思いたい……」


「ショーン! お前、あの後始末、どないするんや? お前のせいやで」


「し、知らぬ! 私のせいではない。それよりタミーオ、敵を助けてどうする! 貴様、裏切ったな?」


「まあ、そうやな。今日限りでお前さんとは縁切りや」


「ちっ、ぬけぬけと……!」


「とにかく、一時停戦して、みんなで逃げることを提案します。ラドニールの軍師、総大将代理として」


 アレは人の手でどうにかできる感じじゃ無いし、レッドドラゴンでもちょっと無理そうな感じだ。


「バカな! 攻めてきた敵と手を結べるものか!」


 それ、どっちが先に攻めてきたか、よーく考えて欲しいんだけどね?

 派手な爆発が今も続いているが、どうやら、結界の外には攻撃してこないようだ。


 結界内の侵入者が掃討されたあと、どうなるかが心配だが……。

 

「じゃ、好きにしてくれ。全軍、撤退!」


 ラドニール連合軍の方は俺の指示に従い、整然と撤退を始めた。

 狼牙軍の方は魔神が出てきたせいで、戦闘どころでは無くなり、呆然と爆発を見つめていた。





 それから十日後、レッドドラゴンに乗ったブランカがラドニール城にやってきた。


「勝ちましたわ」 

 

 彼女は出迎えた俺とリリーシュに向かって自慢げな笑顔で言う。

 この様子だと、王城ハールッツをショーンから取り戻したのだろう。 


「それはおめでとう。ショーンは?」


「あと一歩のところで逃がしましたけど、もう彼に従う者はいませんわ。替え玉まで使って、狼牙族の恥さらしです」


魔神(マシン)は?」


「さあ? どうなったのかは誰も。結界内は今は静かですが、調べに行くというわけにも行かないので」


「まあ、出てこないなら、それでいいか。俺の予想だと、あそこに侵入した者だけが襲われると思う。侵入者を排除って言ってたし」


「そうですの。だといいのですけど」


「それで……ブランカ、ここへは何しに?」


 リリーシュがややおっかなびっくりで聞く。

 

「戦勝報告と協力要請ですわ。魔神や先の戦闘で狼牙王国はガタガタです。特に、食べ物が不足していて……」


「分かった、そこは融通しよう」


「ちょっと、ユーヤ」


 リリーシュが納得がいかないと声を上げるが、もちろん、タダでとは言わない。

 

「その代わり、いくつかこちらの要請も聞いてもらうぞ」


「ええ、条件次第ですが、聞きましょう」


「まず、人間を食わないこと。これにはラドニールと同盟を結んでいる種族も同様だ」


「分かりました。そのように掟を出しますわ」


「次に三年の不戦条約。ラドニールと同盟を結んでいる国も攻めちゃダメだ」


「ええ、お約束しますわ。立て直しまでは、遠征など無理でしょうし」


「最後に、与えた食料と同じ量は、いつか返してもらう」


「分かりました。お返しすると女王の名において約束致しますわ」


 すんなりと講和条件が決まった。


「じゃ、後で書面にするから、君もサインしてくれ」


「ええ。ふう、もっとふっかけられるかと思いましたわ」


「ふっかけてもいいけど、狼牙族が根に持つようなのだと、後がよろしくないからね。こちらとしては停戦だけでもよしとしないと」


「それはそうだけど、簡単に決めちゃっていいの?」


「もっと複雑に決めたいなら、リリーシュ、君が代表として交渉すればいいじゃないか?」


「ううん、いーえ、パス」


「楽な王女ですわね」


「何よ」


「いえ、ワタクシもそう言う立場が良いと思ったまでですわ。そうですわね、ユーヤ、今の給金の倍、払いますわ。それでワタクシの軍師をなさい」


「ちょっ! だ、ダメよ、ユーヤ! 絶対、そんなのダメだからね!」


「バカだな、リリーシュ、そんな慌てなくたって、金でホイホイ寝返ったりしないさ」


 血相を変えるリリーシュに俺は苦笑する。

 軍師として働くのは、金のためではない。

 ラドニール王国みんなの幸せ、そして俺の幸せのためだ。

 この国には美少女や幼女がたくさんいるのに、どうして狼牙王国なんかに――いや? 向こうにも美少女はたくさんいるかな?

 

「難しい話は終わったみたいだな。ブランカ、オレ様とリバーシをやるぞ!」


「ええ、じゃあ、書面ができるまで、お付き合いしますわ、レム」


「へえ、あの二人、なんだかすっかり仲良しになったみたいね」


「まあ、歳も近いからな」


「……ブランカ、ちょっと待って。ユーヤ取り扱いについて、いくつか私と約束してもらうことがあるわ。あと色仕掛けは禁止だから!」


「い、色仕掛け!? そ、そんなことはしませんわ!」


 くっ、ブランカちゃんの色仕掛けだと、俺の忠誠心は簡単に揺らいでしまいそうだ。

 どうする俺!

 どうする狼牙族!

ストックがつきました。私の中でやりきった感が出てきたので、この章で事実上の完結になるかと思います(;´Д`)

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