第7話 現実だと思ってこの二周目、頑張ります
私はさっそく、ウルベスの怪我の処置をするべく、彼の前に立ち、先導する様に歩く。
そうしたら後ろについてくる彼が驚くような声を発した。
「君がするのか?」
「意外でしょうか?」
「ああ、そうだな」
そういう事は他の者にやらせるのが貴族のお嬢様として正しい姿なのだろうが、アリシャの体質を考えれば「手当て」は他の事とは違うのだ。
用事を言いつけるのも、何かを部屋に運ばせるのも、貴族である限りは出来なくても困らないだろうが、怪我の処置は別だ。
健康を考えれば、アリシャ自身が出来るようにならなくてはいけなかった。
「痛みを感じない」というのはどれだけ怪我をしても、その存在に気が付きにくいという事。
何か不測の事態が起きた場合に適切な処置がとれなければ、命が脅かされかねない。なので、身につけておくしかなかったのだ。
そう考えていれば、ウルベスに頭を下げられた。
「そうか、そうだったな。失言だった……すまない」
ウルベスは私の事情に気が付いたのだろう。
申し訳なさそうな声音で詫びた。
「お気になさらず。私は気にしてませんもの」
会話をしながら医者のいない医務室に辿り着くが、「お嬢様、今は私達がいますからお任せください」とトールに言われてしまう。
今まで会話を邪魔しないように大人しくしていた彼だが、こちらを思って口を挟んだのだろう。
「怪我はなされない方が良いのでしょうが、そういう時は私達がいつでも傍におりますよ。幼少の頃の様に、隠れて屋敷を探検されたり走り回ったりされる事は少なくなりましたから」
不安がっているとでも思われたのだろう。
事実そういう感情がなかったわけでもないので、否定できない。
「そうね、いつもありがとうトール」
お礼を言って、素直に役目を任せ、結果として医療行為のほとんどはトールが行う事になった。
傷を洗って消毒して、ガーゼを当てて包帯を巻く。
私がやったのは最後の一つだけだ。
婚約者の手当て。
好感度上げの良いイベントなのだが、口うるさい使用人にあんな事を言われては仕方がない。
今のところ大体は一周目と同じ流れで進んでいるが、こういう細かい所は最近変わってきていた。
この変化を良いものと捉えるか悪いものと捉えるか、判断には困ったが。
一つ好機を逃してしまったが、特に悪影響があるわけではない。
婚約者であるウルベスとの関係は今は良好だ。
記憶を取り戻す前の私の行動が最低限の好感度上げをしてくれたらしいから、そのおかげだろう。
もっともゲームの世界だと知らなかったのだから、以前の私は普通に最善の選択をしただけなのだろうが。
「やっぱり、ゲームだって考えない方がうまくいくのかしらね」
「お嬢様?」
「婚約者殿?」
「何でもないわ」
二周目はゲームの延長線上ではなく、この世界をちゃんと現実のものだと思って行動しようと思った。