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第51話 加護を盗まなかった理由



 こちらが邪神に堕ちた後に、目の前で加護が与えられる場面に遭遇するとは思わなかった。

 それを見た私は絶好の機会だと思った。

 その時の私には、ほんの少し力を回復させたと言えど、その加護を奪い取る力なら十分にあったからだ。


 その加護を奪えば、これから力を蓄えて成長するのにはうってつけだっただろう。


 私はすぐに小娘からその力を奪おうとした。

 そう思っていたというのに……。


 歩み寄った私の体を撫でた、その小娘は言ったのだ。


「めがみ様、私は大丈夫だよ。だから、小さな猫さんにこの力をあげて……」


 そう言って小娘は、一度手に入れたはずの加護を手放そうとしたのだった。


 人間には加護の譲渡などできるはずがない。

 力を与えた神以外には。


 それはこの世界の常識で、誰でも知っている事だった。


 だからこそ、小娘はそう祈ったのだろう。


 大した怪我もしてないはずの、自分よりもはるかに軽傷の、ただ知り合っただけの黒猫の為に。


 常ならざる状況に混乱していて、正常な判断を下せなかったと言うのもあるだろう。

 怪我の状態を見分けるという目もなかった事が関係しているかもしれない。


 けれど、それでも。


「猫さん、大丈夫だよ」


 その小娘は自分より私を選んだのだ。


 そんな小娘の願いを聞き届けてしまったユスティーナは、一体何を考えたのだろうか。

 こちらは裏切られた身であり、奴の心情など考えたくもなかったが、思わず真剣に考え込まずにはいられなかった。


「あ、う……痛い」

「うなぁぁぁ……」


 数年経った今でも信じられない。

 次の瞬間に加護の譲渡は行われ、私はその身に負っていたかすり傷程度の痛みをまるで感じなくなっていたのだ。


 代わりに小娘は痛みに呻いているままで。


「うぅっ……ひぐ……」


 私は途端に恐ろしくなった。


 ユスティーナの事や、その人間の小娘の事が。


 そして、気付けばせっかく手に入れたはずの加護を、少なく貯めていた力を使って小娘に受け渡していた自分がいたのだ。


 あの日から、私は自分の気持ちが分からなくなってしまった。


「あ、猫さん……」


 小娘をその場に置いて私はその場を去った。

 一秒だってそんな場所にはいたくなかったのだ。


 なぜならそのせいで私はわずかに変わってしまったからだ。


 裏切ったユスティーナも、その原因を作った一部である人間も、憎んでいたはずだというのに。

 今は本当にそうだと、迷いなく断じる事ができなくなってしまっていた。



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